『夜の大捜査線』(67)
みんな俺のことをミスター・ティップスと呼ぶぜ!
ノーマン・ジュイソンが監督したこの映画は、米南部の田舎町で起こった殺人事件を軸に、都会のエリート黒人刑事ティップス(シドニー・ポワチエ)と、地元の白人警察署長(ロッド・スタイガー)の対立する姿から人種差別の根深さをあぶり出していきます。とにかく二人の演技合戦がすごいのです。
駅で列車を待っていたティップスは、黒人だという理由だけで殺人事件の容疑者にされて連行されます。ところが、身分が分かると無理矢理捜査に協力させられる…。なんともめちゃくちゃな話です。
その時、署長は「随分偉そうだが、おまえさん街では何て呼ばれてるんだい」などと言って侮辱します。するとティップスは「みんな俺のことをミスター・ティップスと呼ぶぜ!」と怒りを込めて言い返します。二人の憎悪が火花を散らす名場面です。
やがて二人は対立しながらも事件の核心へと迫り、意外な真犯人を割り出します。この映画は推理ドラマとしての面白さもさることながら、二人の対立から理解へと変化していく姿が好ましく映るのですが、結局署長が「ミスター・ティップス」と言えないまま二人は別れていきます。
音楽はクインシー・ジョーンズで主題歌をレイ・チャールズが歌っています。アカデミー賞では作品賞のほか、スタイガーが主演男優賞を受賞しましたが、この場合、ポワチエと二人一緒に上げたかった気がしますね。
最後に後日談を一つ。ポワチエのアメリカ映画協会名誉賞の受賞式に、パーティ嫌いのスタイガーが珍しく出席しました。そしてポワチエに向かって「今日は映画の中ではどうしても言えなかったセリフを言いに来たよ。“ミスター・ティッブス”」とスピーチしたのです。この映画を知る者にとっては、たまらない一幕でした。
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