田中雄二の「映画の王様」

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マイケル・チミノが亡くなった… 『心の指紋』

2016-07-04 20:34:28 | 映画いろいろ

 マイケル・チミノが亡くなった。彼が脚本を書いた『サイレント・ランニング』(72)『ダーティハリー2』(73)、監督作の『サンダーボルト』(74)『ディア・ハンター』(78)『天国の門』(80)『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(85)『シシリアン』(87)『逃亡者』(90)『心の指紋』(96)。

 振り返れば、そのほとんどをリアルタイムで見ている自分がいた。『天国の門』以降は、どの映画にももどかしさを感じさせられ、散々文句を述べてきたのだが、多分、大好きな監督の一人だったのだ。そこで、追悼の意を込めて、その監督作をさかのぼりながら、俺の中のマイケル・チミノを振り返ってみようと思う。

『心の指紋』(96)(1997.8.27.シネスイッチ銀座



 『逃亡者』(90)以来、9年ぶりのマイケル・チミノ監督作。その復活を喜ぶ半面、今回もテーマが大き過ぎて、本来の狙いであったと思われる“寓話”に成り切れていないと感じさせられた。つまりチミノのストーリーテラーとしての支離滅裂さは、残念ながら今回も解消されてはいなかったのである。

 だが、またしてもアメリカにおけるマイノリティ(今回はインディアン)にこだわった頑固さも同時に示され、『ディア・ハンター』以後、どうもこの人の映画には過度に思い入れてしまう、というこちらの弱点を刺激してはくれた。

 大筋は、ニューシネマ時代をほうふつとさせる二人の男による旅の物語。凶悪犯で末期がんに侵された若者(ジョン・セダ)と、彼に誘拐されたエリート医師(ウディ・ハレルソン)が、病を癒やす、というインディアンの聖地を目指す中で、心を通わせていく様子が描かれる。

 見方によっては、インディアンに対する白人の贖罪の念を表しているとも取れるのだが、若者への思いが変化していく過程での医師の心情の描き方が中途半端な印象を受けた。

 チミノの映画は、友情にしろ対立にしろ、総じて描いているのは男同士の精神的な恋愛なのだが、『天国の門』以降は、独りよがりの強引さが目立ち始め、この男たちはなぜこの行動に走るのか? と、分かったような分からないようなもどかしさを感じさせられるようになった。

 この映画も、ラストの美しい聖地の情景と奇跡の達成に心を奪われながらも、その奥で、またしても全てが解放されないもやもやが残ってしまった。

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『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』

2016-07-04 08:03:47 | 新作映画を見てみた

ディズニー版『時をかける少女』



 ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』を基に製作された『アリス・イン・ワンダーランド』(10の続編。

 帰らぬ家族をひたすら待ちながら衰弱していくマッドハッター(ジョニー・デップ)を救うべく、アリス(ミア・ワシコウスカ)が時をさかのぼり、過去を変えようとするが…。

 色鮮やかな映像の中で繰り広げられるアリスと時間の番人タイム(サシャ・バロン・コーエン)との対決を通して、「過去を変えることはできない。過去は変えるものではなく、そこから学ぶもの」という結論を導き出す。

 と言う訳で、この映画、ディズニー版の『時をかける少女』の趣があるが、もともと筒井康隆の原作が『不思議の国のアリス』の影響を受けていたとも考えられる。

 前作を監督したティム・バートンが製作に回り、今回はジェームズ・ボビンが監督をしているが、全体的にちぐはぐな印象を受けた前作に比べると今回は「ワンダーランドとはアリス自身の心象風景の投影なのだ」ということが良く分かる仕組みになっている。

 ただし、エリザベス(ヘレナ・ボナム・カーター)の頭がなぜ大きいのかの理由付けには、ちょっといただけないものがあったが…。

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