田中雄二の「映画の王様」

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『天国の門』

2016-07-08 08:00:47 | 映画いろいろ

『天国の門』(80)(1982.11.1.蒲田パレス座.併映は『タップス』『未知への飛行』

ひたすら『ディア・ハンター』の影を見る

 『ディア・ハンター』(78)の夢よもう一度と、かなりの期待を持って見たのだが、残念ながら空回りの大作という印象を受けた。『ディア・ハンター』で見事な人間ドラマを展開させたマイケル・チミノが、この映画では空回りの連続なのだ。

 物語の手法は『ディア・ハンター』同様、初めに若き日々、楽しき日々を見せておいて、一転、極限状態を展開させ、ラストは心に傷を受けた、取り残された主人公を置くというものだが、一つの一つのエピソードが長過ぎる割にはつながらず、要領を得ない。何かが欠けている。 

 『ディア・ハンター』におけるベトナム戦争と、この映画の西部開拓史上のジョンソン郡戦争とでは全く舞台や時代が異なるものの、その中での人間が描き切れていれば、背景はあまり関係ないはずだ。

 しかも、この映画のジェームズ(クリス・クリストファーソン)とビリー(ジョン・ハート)の関係は、『ディア・ハンター』のマイケル(ロバート・デ・ニーロ)とニック(クリストファー・ウォーケン)と重なる部分があり、エラ(イザベル・ユペール)をめぐるジェームズとネイサン(ウォーケン)との三角関係という展開も、『ディア・ハンター』のリンダ(メリルストリープ)をめぐる関係と似ている。ただし、どちらも『ディア・ハンター』ほど深くは描かれていないのがこの映画の弱点なのだ。

 俺が『ディア・ハンター』に打ちのめされたのは、友情や愛と言うテーマが見事に描き込まれていたからであって、あの映画が描いたベトナム戦争の描写に感動したわけではない。

 そう考えると、この映画は、マイケル・チミノが『ディア・ハンター』の影を消し去ろうともがきながら、結局その影を引きずってしまった結果なのではないだろうかと思えてくる。

 ただし、あくまでも好意的にチミノを捉えるとするならば、この映画は『ディア・ハンター』から脱却し、新たな映画を作っていくための壮大なステップだったと考えられなくもない。『ディア・ハンター』に続いてビルモス・ジグモンドの撮影が見事だった。

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