田中雄二の「映画の王様」

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『タイ・カップ』『フィールド・オブ・ドリームス』

2015-08-18 11:03:27 | 名画と野球のコラボ

 マーリンズのイチローが日米通算の安打数で、ついにメジャーリーグ歴代2位のタイ・カップを超えた。

 イチローは、これまでもさまざまな安打記録を塗り替えることで、例えばシーズン安打記録保持者だったジョージ・シスラーのように、忘れられた名選手たちをあの世から球場に呼び戻すというまるで映画『フィールド・オブ・ドリームス』のような役割を果たしてきたが、いよいよカッブの番が来た。

 そのタイ・カッブとはどんな選手だったのかというと。


 タイ・カッブ(1886~1961)、本名タイラス・レイモンド・カッブは、1905年から28年まで主にデトロイト・タイガースで活躍した左投げ左打ちの外野手。ニックネームは出身地からジョージア・ピーチ。その実績から“球聖”とも呼ばれる。

 24年間のメジャーリーグ生活のうち、ルーキーイヤー以外の23年間は全て打率3割以上をマーク(4割以上も3回)。07年から9年連続で首位打者となり、1年おいて再び3年連続で首位打者を獲得した。通算安打4191本はピート・ローズに次いで2位、通算打率366は今もメジャーリーグ記録として燦然と輝く。

 バットを構える時は両手の間を3センチほどあけるが、打つ瞬間は両手を付けるという独特の“スライディング・グリップ”でタイミングを取り、右へ左へスプレーヒッティングで打ち分けてヒットを量産した。

 また駿足の持ち主でもあり、盗塁王になること6度、通算892盗塁を記録している。ベーブ・ルース登場以前のヒット主義の野球を支えたとんでもない選手なのだ。

 だかその一方、スパイクの歯をやすりで研ぎ、盗塁の際には相手選手にその歯を向けてスライディングするなどのラフプレーを得意とし、暴言、暴力は数知れず、人種差別主義者でアルコール依存症でもあった。

 それ故、相手チームはもちろん、味方の監督、コーチ、選手、そしてホームのファンからも嫌われたという。「最高の技術と最低の人格」「メジャーリーグ史上最も嫌われた男」とも言われる。


カッブの打撃フォームを見事に再現したトミー・リー・ジョーンズ。

 さて、そのカッブと映画について。『フィールド・オブ・ドリームス』(89)では、“夢の球場”に名選手のゴーストたちを連れてきた“シューレス”ジョー・ジャクソン(レイ・リオッタ)が、「タイ・カッブも来たがったけど、あいつには生きていた時の恨みがあるから連れてこなかった」と言うシーンがあった。それを見て、おいおいそこまで嫌われていたのか、とちょっとかわいそうになった覚えがある。

 またカッブの自伝として、ロン・シェルトンが監督し、トミー・リー・ジョーンズがカッブを演じた『タイ・カップ』(94)(何故か日本では90年代までカップと表記されていた)がある。

 この映画は、名選手としてではなく、カッブが抱える屈折、弱さ、孤独について描いていた。カッブに成り切ったトミー・リーの鬼気迫る演技が素晴らしかった。

 引退後、カッブはルース、シスラーらと共に最初に野球殿堂入りしたが、式典に遅刻して記念写真には写っていない。

(前列左から)エディ・コリンズ、ベーブ・ルース、コニー・マック、サイ・ヤング、(後列左から)ホーナス・ワグナー、グローバー・アレキサンダー、トリス・スピーカー、ナップ・ラジョイ、ジョージ・シスラー、ウォルター・ジョンソン

 一体何故そんなことが起きたのかも、この映画を見るとよく分かる。公開当時、俺はこの映画のタイトルを勝手に「タイ・カップ~憎み切れないろくでなしについて」とした。

 ちなみに自身もマイナーリーグでプレーしたシェルトン監督はケビン・コスナー主演の『さよならゲーム』(88)も監督している。

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