ベネット・ミラー監督の弟のセオドールが兄の言葉として『フォックスキャッチャー』についてこんなことを語った。「黒澤明監督が使った“間”。何も音がない静かなところで、イマジネーションを作り上げるということは、彼から学んだ部分でもある」と。
確かに黒澤映画は『酔いどれ天使』(48)『白痴』(51)『生きる』(52)『七人の侍』(54)『天国と地獄』(63)『赤ひげ』(65)などで、無音と有音を巧みに使い分けてメリハリを付け、緊張感にあふれたシーンを生み出していた。そして『フォックスキャッチャー』も、最近では珍しい“静かな”映画でありながら、そのことが逆にサスペンスを助長させる効果を上げていた。そういえば黒澤は「ルーカスの『スター・ウォーズ』は音を使い過ぎだよ」と言っていたなあ。
一方、イギリスを舞台にした喜劇『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』に主演したジョニー・デップは「これはピーター・セラーズの『ピンク・パンサー』映画のようなもの」と語ったが、さらに、「モルデカイの外見(ひげ、すきっ歯)は、イギリス人俳優のテリー・トーマスに影響されている。彼はとにかく奇妙でおかしな俳優で、小さな頃から大好きだったんだ」と明かした。
トーマスは60年代に活躍した喜劇俳優。『女房の殺し方教えます』(64)で演じたジャック・レモン扮する売れっ子漫画家の執事や、『素晴らしきヒコーキ野郎』(65)で演じた目的のためには手段を選ばないずる賢いアーミテージ卿が印象に残る。超有名な喜劇俳優というわけではないが、くせ者俳優が好きな者にとってはとても魅力的な人だった。
そうか、ジョニー・デップはテリー・トーマスが好きだったのか…。だとすれば、彼が『チャーリー・モルデカイ』をやりたいと思った気持ちも分からなくはないか。