昭和天皇が見た映画
宮内庁編纂の『昭和天皇実録』の内容が公表され、9日付けの毎日新聞に実録内の“昭和天皇が見た主な映画”についての記事と一覧表が載っていた。
最初に登場するのは、ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督、マレーネ・ディートリッヒ、ゲーリー・クーパー共演のメロドラマ『モロッコ』(30)。天皇が鑑賞する映画としては少々意外な感もあるが、日本で初めて字幕スーバーが付いたトーキー映画なのでそれを記念して見たのかもしれない。戦前の、チャップリンの名作『街の灯』(31)日独合作で原節子主演の『新しき土』(37)などを経て、戦中は、円谷英二が特撮を担当した『ハワイ・マレー沖海戦』(42)など、国策映画が中心となる。
ただ、ラストシーンで出征する息子を見送る母の姿が、戦意高揚にそぐわないと軍部からクレームが付いた木下惠介の『陸軍』(44)や、特攻隊を描いた『最後の帰郷』(45)も見ていたのには驚いた。また、日米開戦後の42年の自身の誕生日にディズニーアニメの『ミッキーの捕鯨船』(38)を見たというのは皮肉な出来事だが、ほほ笑ましくもある。
終戦直後、原爆投下後の広島など、各地の惨状はニュース映画を通して知った可能性が高いという。その後は、復興する日本、世界との協調の中で、ローレンス・オリビエ監督・主演の『ハムレット』(48)、エリザベス・テイラーらが4姉妹を演じた『若草物語』(49)、小津安二郎の『麦秋』(51)、黒澤明の『羅生門』(50)と続く。中でも『ハムレット』は2度見たと記されている。さらに、『ローマの休日』(53)に続いて『ベン・ハー』(59)をテアトル東京で見ている。どちらも監督は巨匠ウィリアム・ワイラーだ。
そして高度経済成長期、日米開戦を描いた日米合作映画『トラ・トラ・トラ』(70)、先代の松本幸四郎が昭和天皇を演じた岡本喜八監督の終戦秘話『日本のいちばん長い日』(67)を見たことも記されている。特にこの2本は一体どんな思いで見たのだろうかと、興味をそそられる。
そして最後に登場するのが、遣唐使となった留学僧たちの群像劇『天平の甍』(80)だ。昭和天皇は本当はこういう映画こそ見たかったのではあるまいか。いずれにせよ、映画が時代を映す鏡であることを示す貴重な資料として大変興味深く読んだ。