以前、あるWEBサイトに連載していた幻の映画コラムを転載。
このコラムは、毎回「こんな映画が観たい」という主旨で編集者がお題を決め、こちらがそれに関連付けた映画関係の人物をテーマに映画を3本紹介し、野球に関係する事柄をサブタイトルに付けるという落語の三題噺のようなユニークな企画だった。というわけで、コラム全体のタイトルは『名画投球術』となった。初回のお題は「たまには幸せになれる映画が観たい」ということでフランク・キャプラを選んだ。
名画投球術No.1「たまには幸せになれる映画が観たい」フランク・キャプラ
今回のテーマにピッタリの監督がいる。その名はフランク・キャプラ。若い映画ファンには少々なじみが薄いかもしれないが、現在作られている“ハートウォームもの”と呼ばれる映画やドラマはすべて、彼の映画の影響下にあるといっても過言ではない。彼の映画は主人公を絶望的なピンチに陥らせておいてラストでそれを奇跡的に救うという非常に分かりやすいものが多いが、その奥には鋭い人間観察の目が光っている。
今回はそんな彼の作品の中から直球2本、変化球1本をご紹介する。なお『ポケット一杯の幸福』は、『一日だけの淑女』(1933)に続いてキャプラ自身2度目の映画化(原作はデイモン・ラニアン)。ジャッキー・チェンも『奇蹟』(1989)としてリメークしているので、見比べてみるのも楽しいかもしれない。
まずは直球勝負 『ポケット一杯の幸福(1961・米)』
ニューヨークの貧しいリンゴ売りの老女・アニー(ベティ・デイビス)の娘(アン・マーグレット)が、留学先のスペインから伯爵家の御曹司の婚約者を連れて帰国することに。困ったのはアニーだ。実は彼女、娘を安心させるために「自分は貴婦人だ」と偽っていたのだ。そんなアニーを救うためにお人好しのギャング、デュード(グレン・フォード)が、仲間や知り合いを集めて彼女を貴婦人に仕立てる大作戦を敢行するのだが…。
初めは果たして作戦は成功するのか? というところに興味がいくのだが、やがてアニーのために右往左往する人々の善意が心に染みてくる。ここで本当の幸せとは「身分や貧富ではなく、自分に対して他人がどれだけ心を砕いてくれるか」ということなのだと気づくはず。作戦の成否は観てのお楽しみ。
続いて豪速球 『素晴らしき哉、人生!(1946・米)』
理想主義者のジョージ(ジェームス・スチュワート)は、町を牛耳る悪徳資本家のポッター(ライオネル・バリモア)に対抗し、父の会社=庶民に味方する貧しい住宅金融会社を引き継ぐ。愛妻メアリー(ドナ・リード)や良き隣人たちに恵まれたジョージだったが、不運が重なって田舎町からは一歩も外に出られない。そしてクリスマス・イブに大金を紛失したことから人生に絶望し、自殺を決意する。そんな彼の前に見習い天使クラレンス(ヘンリー・トラバース)が現れ、ジョージが存在しなかった世界を見せる…。
もちろん実際にはあり得ない話だが、ここから先の奇跡を見ればタイトル通りの人生の素晴らしさや意義に気づき、人が人に与える影響力の大きさ、家族や友人の大切さを実感できるはず。自分が存在しなかった世界=悪夢から覚めたジョージと共に、観客もラストシーンまで一気に「生きていることの幸せ」が味わえる。
最後は変化球『毒薬と老嬢(1944・米)』
婚約者(プリシラ・レイン)を披露するため、二人暮しの伯母(ジョセフィン・ハル、ジョーン・アディア)を訪ねたモーティーマ(ケーリー・グラント)。ところが二人には「貸間あり」の新聞広告で釣った身寄りのない老人たちを、毒入りワインで安楽死? させるという困ったクセがあった。彼は自分にも伯母たちと同じ精神異常の血が流れていると思い込み、必死になって婚約者に秘密を知られまいと画策するが……。
普段は“人間の善意”を前面に押し出すキャプラが唯一撮ったブラック・コメディー。高齢化社会の今あらためて見るとゾッとしたりもするが、人間は笑っている時は日常の不愉快な出来事も生活の苦労もほんの一瞬だが忘れられる。そう、笑っている時、人は幸せなのだ。ならばこの映画を観て、一時でも憂さを晴らして大笑いしてみては。
プロ野球のペナントレースもいよいよ佳境に入る。というわけで、野球=ベースボールを扱った映画について書いてみようと思う。
「映画で見る野球 その1」実在の選手編
まず実在の選手を描いたものとしては、ゲーリー・クーパーが不治の病に倒れたニューヨーク・ヤンキースの至宝ルー・ゲーリッグを演じた『打撃王』(42)、ジェームス・スチュワートが事故で片足を失いながら奇跡のカムバックを果たしたピッチャー、モンティ・ストラットンを演じた『甦る熱球』(49)がある。どちらも監督はサム・ウッドで、野球映画というよりも夫婦ものの名作。古き良き時代のヒーロー話だ。前者で妻のエレノア・ゲーリッグを演じたテレサ・ライトと同じく後者でエセル・ストラットンを演じたジューン・アリスンは、終戦直後の焼け跡世代のアイドルだったという。
ウィリアム・ベンディックスがベーブ・ルースそっくりだったという『ベーブ・ルース物語』(48)と黒人初のメジャーリーガーを本人が演じた『ジャッキー・ロビンソン物語』(49)は残念ながら見ていない。変わったところでは神経症に侵されたボストン・レッドソックスのジミー・ピアソルをいかにものアンソニー・パーキンスが演じた『栄光の旅路』(57)という珍品も。これはなんだか父子の葛藤を描いたアメリカ版の『巨人の星』のようだった。
テレビムービーにも佳作がある。伝説の黒人投手サチェル・ペイジを描いた『ドント・ルック・バック=伝説の速球王/サッチェル・ペイジ物語』(81)ではルイス・ゴセットJr.がペイジ役を好演。ピッチング・フォームがそっくり! そして片腕のメジャーリーガー、ピート・グレイをキース・キャラダインが魅力的に演じた『ア・ウィナー・ネバー・クワイエット=片腕のヒーロー・大リーグへの道』(86)もある。こちらもキャラダインがちゃんと片腕で打ったり守ったりしていたのには驚いた。
ところで、こうした伝記映画は時代の変化と共に、名選手の単なるヒーロー話としてではなく、彼らの屈折も描くようになった。シューレス・ジョー・ジャクソンたちが巻き込まれた1919年のワールドシリーズのブラックソックス・スキャンダルをドキュメンタリータッチで描いた『エイトメンアウト』(88)。ベーブ・ルースの恥部も含め、ジョン・グッドマンが見事なそっくりさんぶりを披露した『夢を生きた男/ザ・ベイブ』(91)。問題児タイ・カッブを憎みきれないろくでなしとして描きトミー・リー・ジョーンズが好演を見せた『タイ・カップ』(95)。これらは野球映画というよりむしろ人間ドラマで、その描き方には賛否が分かれるところだろう。
そして昨年はジャッキー・ロビンソンとブルックリン・ドジャースのオーナーのブランチ・リッキーを中心に描いた『42~世界を変えた男~』(13)が公開された。まさに多士済々。次回はチームを中心に描かれたものをピックアップしてみようと思う。
(旧マイブログ『ペーパーバックライター/桑畑四十郎』の記事に加筆訂正)
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