彼は、幼いころからサンタクロースの存在を信じていなかった。
学校の友達が言うように、クリスマスの朝の枕元にプレゼント包が置かれていることは無かったからだ。
見ず知らずの子供におもちゃを配る年寄りなどいるはずがない。
サンタが入ってこれるような煙突がある家など見たこともない。
トナカイに引かれたソリで、どうやって海を渡って日本までやってくるのだ。
子供が眠っている間に親がプレゼントを置いていくだけだ。
そんなことを孤児院の仲間たちと語り合ったものだった。
そんな彼が大人になった今、軽ワゴン車にランドセルを十個積み込んでいる。
彼はハッチバックを閉め、運転席に向かう。
エンジンキーを回す。
排気ガスが吐き出される音がする。
孤児院の方向へハンドルを切った。
彼は少し前の出来事を思い出した。
木枯らしが初めて吹いた日、孤児院の前を軽ワゴン車で通った時だった。
心に幼いころの思い出がよぎった時、心のドアをノックされたような気がした。
扉の向こうには、赤い服をまとった白いひげのおじいさんが立っていた。
「遅れてきたね」
白いひげのおじいさんは、軽く会釈をして握手を求めた。
「ほんとうはずっと待っていたのです」
彼は、おじいさんを扉の中へ招き入れた。
軽ワゴンの助手席には、無造作に置かれた封筒が一つ。
お世辞にも達筆とは言えないマジックで書かれた文字。
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送り主は「伊達直人」