破船（吉村昭）新潮文庫

感情移入をゆるさない客観的な文体なのに、なぜか心が揺さぶられる文体、さすが吉村昭である。
読み手に媚びない余計な誇張や思わせぶりがないだけ、迫力あるリアリティで迫ってくる。

村人が身売りをせねば食べていけない寒村で行われる「お船様」の到来を願う行事がある。
海が荒れたとき塩焼きをし、その灯を港と勘違いした船を座礁させ積み荷を奪い取る、その村に古くから伝えられてきた行事である。
お船様の到来は、何年かに一度、何年も来ないときもあれば、続けてくる時もある。
お船様は村に多大な恩恵をもたらす。
もちろん、犯罪であり、お上に知れれば、村人は極刑に処せられるだろう。

吉村昭らしい自然と人との関わり合いの描写を楽しんだ後は、まさに自然の真ん中に生きることとはどういうことか思い知らせれることになる。