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リマインドと想起の不一致(2)

2016年02月13日 | リマインドと想起の不一致
リマインドと想起の不一致(2)

 なかなか主役(ぼく以外のもう片方の)を登場させないことに楽しみを覚えている。

 ぼくは手書きという古い手法で、記憶からもれなかったものをノートに書き付けようとしている。ワープロ・ソフトは便利だ。漢字も正確に呼び出せる。いままでは多用したが、今回は後で清書に用いるだけにする。断りをいれなくても、このときのぼくは電子機器に囲まれていなかった。そして、彼女も手紙をくれた。あの日々の少女たちは文字を指先で打たずに、きちんと紙に書いた。手編みのセーターのように市販のものより不格好であっても、ぬくもりがあった。ぼくも、デザインが優れていなくても、そのぬくもりを求めていた。

 守秘義務という開かずの門がある。個人が特定の個人に送ったものなど、その規定に入れるべき最たるものだろう。だが、たくさんの手紙(恋文)が表面で流通している。日記もそうだ。ユダヤ人の少女には秘密を地下や隠れ家に温存させることすら許されなかった。

 ぼくは取りとめもないことに時間を費やしている。直ぐに戻ってくると思っていた記憶は意外にも引っ込み思案な一面を見せた。手紙が残っていれば、過去の解凍は簡単なのだろうが、もう手元にはない。どこにも残っていない。ある日、燃やされて空中の見えない成分に戻った。記憶のどこかにとどまっているのかと、古い通帳の残高のように薄れた記帳された文字を点検する。その数字は意味があるのかもしれないが、実際には、すでにぼくの所有物ではなくなっている。いまは、金庫の奥で増えているのかもしれないし、減っているのかもしれない。その銀行の名前は変わり、彼女の現在も、苗字として前の半分だけ異なってしまっているのだろう。



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