爪の先まで神経細やか

物語の連鎖
日常は「系列作品」から
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作品(3)-10

2006年06月21日 | 作品3
システム・エラー
10

普通の人より、歩く速度が遅いのかな。なんでかっていうと、女性と一緒に歩いていて、そのことを思い出そうとすると、女性の後姿しか覚えていないんだ。大体、無防備な後ろの、とくに背中なんかに、その人らしさが表れるよね。自分がどう見られているのかも、よく分からないし。

そうなんだ、前に話した歌手のことを、ついつい思い出してしまうことがよくあってね。もう日常的なものかな。その後姿も、普段街中を歩いているときにでも、背の高さが似ていたり、また髪型がそれとなく雰囲気が同じような場合ね、自然と彼女の立体像と重ねあわすというか、作り直す作業を頭の中で構築するんだろうね。

これが未練ていうのかな。だったとしたら、未練たっぷりだよ。いつか電話をしたことがあるんだ。やり直そうと意を決して、かけてみたんだけど、どうしても最後の言葉が言えなかった。なぜだろう。どうでもよい会話を続けて、切る寸前に、元気で、また、みたいな終わり方になっちゃたけど、もうちょっと勇気があったらね、とか思うよ。

そろそろ、そのことに決着をつけてもよい時期かもね。遅いぐらいなんだ。でも、楽しかったことも多かったし、別れて、その反芻にすら楽しい記憶が紛れ込むよ。やっぱり、ここでも彼女がピアノを弾きながらの、歌うときの背中を思い出すよ。リハーサルの時に、関係者としてライブ会場に入ったんだ。でも、本番のステージが始まったときに、後ろの方の席で見たんだけど、その小さな背中が愛おしかったのと、また逆に、その大勢の前で歌える彼女の度胸に、ちょっとビビッてしまったのも事実だよ。なんで、あんなことができるんだろう? とか正常な神経の持ち主なのか? とかもね。

もう、外は明るくなるのかな。旅に出なきゃいけないんだよ。ぼくの作ったゲームを原作にした映画があってね、外国での公開に向けて、いままで奔走してきたんだけど、やっと実を結んでね。それで今回もろもろのスタッフと一緒に行くはめになったんだ。いつでも旅行ってたのしいな。今度はヴェネツィアにも寄るんだ。そこでもちょっとしたインタビューを受けるんだけど。その前に、ちょっと個人的にもまわって下調べがてら、2月ほど前にも行ったんだけど、その時の旅行会社の担当者が、女性なんだけど、初々しくてね、そうなんだ、ぼくは女性にすぐ心ごと持って行かれそうになるんだよ。今度の、ゲームの主人公のイメージにも合ってね、なんかそれで上手く行きそうな予感も感じているんだ。ゲームの方だよ。さっき未練がまだあるって言ったばかりじゃないか。空港まで、車で送ってくれるんだよね。いつでも、旅立つ前って興奮するよ。好きなんだ、空港で、だらっとしながらジュースを飲んだり、周りで期待を膨らませた旅行寸前のはしゃぐ人たちを見るのが。それから、飛行機に乗って、ラジオを聴いてね。この前、行ったときには、彼女の新しい曲も、その音楽のプログラムの中にも入っていたよ。なんか涙が出そうになった。彼女の頑張っている姿を、とてもよく知っているしさ。こうなったらよいというビジョンを話してくれたけど、売れたことを抜きにしても、そのことに近づいているのか、呼び寄せたのか、そのパワーにも感激するね。そうメジャー的に売れるのが、すべて正しいとも思っていないけどさ、なんか基準だもんね。音楽家の名声って。もう準備は出来ているんだ。みんなが来る前には出るよ。居ないときの予定とか、連絡先も残したし、あとは本人が消えるのみだよ。ぼくがいなくても仕事だけは、楽しく快適に捗っていてほしいな。居ないとき、さぼるような人材はいないつもりだけど、まあ人間だもんね。仕方ないよ。じゃあ、荷物を車に載せるね。ありがとう。話も聞いてくれて。帰ってきたら、旅行中の楽しい思い出も話せると思うんだ。眠くない? 空港のそばのホテルに、帰りにでも寄るといいよ。無理させてごめん。ぼくは飛行機のなかで熟睡できそうだよ。一晩中起きていたしね。

作品(3)-9

2006年06月19日 | 作品3
システム・エラー


会社に遅くまで残っていて、一人で仕事をした後、大事な所に鍵を閉めて、それから、後ろを振りかえって、今日も終わり、なんてつぶやきながら、ビルを出る瞬間が好きなんだ。そして、タクシーの後部座席から、東京タワーが見えてね、今日も輝いているな、とか思って、オレもまだまだ、なんかそうした状況のときに、幸福感が腹の底から浮かんでね。たまには、一人で飲みに行ったりもするよ。その店は誰にも教えていないんだ。良い音楽もかかっているし、素顔を取り戻す瞬間なんだ。

やっぱり、ビリー・ホリディにつながるんだ。格好つけていない気がするもんね。なにもかも引っ剥がしたような潔さがあるじゃんか。なんか体裁とか見栄えとかに、汲々としている自分がほぐれていく気がするよ。そうした部分を誰にもみせたくないしね。どうしても一人で飲んじゃうんだよ。入院なんか、もし仮にすることがあっても、誰にも見舞いなんかに来て欲しくないね。なんか弱った自分を見せるのか恐ろしいんだよ。よく他の人は、あまり親しくない人にも、パジャマ姿とかを見せられるのかな、とか思ったりしてね。

でも、そうして一人で飲んでいても、声をかけられてしまうこともあるよ。雑誌に顔写真を載せてしまったからね。あんなこと、しなければよかった。適当に相槌を打ったりもするけど、本心はそっとしておいてほしいよ。お酒と音楽のある場所ではね。音楽の順位とかも分からないんだ。ジャンルにも拘泥しないしさ。でも、部族くさい音楽が好きなのかな。体臭を感じさせる音楽だよ。

そして、くつろいだ後、やっと自宅に戻るんだ。そこからはメールを返したりさ。いたって普通だよ。テレビ見て、ベッドに入ってさ。そして朝だよ。これも、一番に会社に着くんだ。たまに抜かれるけど。掃除のおばさんが、一生懸命に掃除をしているでしょう。なんかお世辞を言ったりしてね。おばさんに好かれてしまうんだ。なんか知らないけど、こっちはやっぱり若い子に人気が出てほしいと思うけど。なかなかね。それから、たまに打ち合わせと称して、ふらふらと徘徊するんだ。刺激がないと、仕事にも直に影響するし、まあ流行を追っている仕事でもあるし、仕方がない部分があるよ。

ランチを豪勢にしてね。昼間に飲む酒が一番だね。そんなに飲まないけど、ヨーロッパに行ってからの癖でね。なんか労働者に混じって、飲んでみたり。真実の言葉が聞けるのも、そんな場所であったりもするしね。気取っている人って笑っちゃうよね。デパートに行って、ペットと一緒に乗れるエレベーターがあったんだ。そこに、お金持ちそうな女性が、ずっと文句いいながら、その箱に乗っていた。ペットなんか連れてくるなって。あんなに可愛い動物たちなのに。

また会社に戻り、いろいろ心配も出てくるよ。ただ面白いゲームを作っていただけなのに、また作れそうな人間を集めていただけなのに、業績があがると、そうした分野に注目が浴びすぎちゃって、取り巻きも増えるし、会社自体に狙いをつけてくる人たちも出てくるしね。そろそろ本当に危ないんだ。利益追求の結果が見えてきた感じがするよ。また違う方面を模索しなければならなくなりそう。その時は、助けになってくれよな。相談だけじゃないよ。実際に、資金からさ、調達する努力もしてくれよ。ここで、ちょっと成功したけど、あまりこのジャンルにしっくりいかなくなってきたんだ。飽きっぽいのかな? また新たに力を発揮できる分野をみつけないと。誰か拾ってくれるかな。可愛い子犬だったら。放って置かれないけど、こっちは飼い主の手を噛みそうなほど、強暴だしね。そろそろ、この会議室も閉めるのかな? まだ大丈夫かな。もう一杯コーヒーを入れるね。あと少しだけ、まだ大丈夫だろう?

作品(3)-8

2006年06月18日 | 作品3
システム・エラー


 人間って、長持ちしない生命体だと思ってさ。そのことを考えると憂鬱になるんだ。あと、幸せの形態の最高が、家族を増やすことにあるとしたら、なんか南米的な大らかさで、増やすことでもあるんだけど、それぐらい親にしてあげたいな、と考えるのが自然の帰結かなともね。公園で孫と歩いているお祖父ちゃんとか、お祖母ちゃんて、あれぐらい絵になる姿もないと思うよ。でも、欠陥があるんだろうね。駄目なんだよ。そのウエットすぎる関係が。

でもさ、証明したいこともあるんだ。ぼくは、数人の男兄弟なんだけど、誰も料理とかしなくてさ、自分の母親が、意外と料理うまかったんだぜ、とか言っても誰も証明できないんだよ。証拠の未提出だよ。消えゆく記憶かな。少しでも、こうして口には出しているんだけどね。やっぱり、能書きより実物だよね。だからといって、他のものが食べられないこともないし、マザコンでもないよ。料理に対しては、口うるさくない人間の一人だよ。

ただ、親が入院している姿なんか見たときには、自分のバックグラウンドの危機みたいなものを感じない?それを当時の恋人に言ったんだけど、なかなかね、理解してくれなかった。ああいうことから隙間って、広がっていくんだろうね。

でも、いまは多くの時間を、一人で生まれてきて、一人で死んでいくんだろうな、とか考えているよ。刹那的とかでもなく、自分だけが真理をみつけたんだ、とかそういったおごった気持ちはまったく抜きにしてね。実感でもあるし、さばさばした気持ちでもあるんだ。しかしね、たくさん陰で助けられているんだろうな、とかそうしたひっそりとした予感もあるんだ。まあ、一人の人間の実力なんて、たかが知れているものだしさ。

性格って変えられる? それとも、変えられない? なんか、どうしても手抜きができなくてさ。空回りしても、突っ走りすぎちゃんだよ。自分の尻尾を追いかける犬みたいな情景だけどさ。滑稽でも、仕様がないよね。そうプログラミングされているのかな。まあ、成功したかったら、多かれ少なかれ、狂気を含んだ執着も必要になってきてしまうと思うしね。でも、そう考えても無駄にしている時間って、多いよね。中毒だよ。自分を切羽詰った状況に追い込むのがね。だけど、深夜に呼び出される医者に比べたら、ストレスなんか足りないぐらいだけど。

そうなんだ、どうしても人の役に立ちたいな、とか、最後は考えてしまうんだよ。ぼくのゲームが多少、売れたって、機械を持っていない子供にとっては、大人にもだけど、関係ない話になってしまうものね。そう、全員に影響を与えたいとか、名声の範囲を伸ばしたいとも、言っているんじゃないよ。ただ、少しでも不幸とか飢餓とかあるなら、自分もそれに関わらなきゃ駄目だとも、考えるんだ。自分は指示して、対岸にいるわけにもいかないしね。そうした、人が多すぎるんだよ。批評は、一人前にするくせにね。怒りじゃないよ、ただ絶望と悲哀だよ。手を汚したいと思っているんだ。将来、そうしたことに打ち込むよう、いまから道を作っていこうかな、と思案中なんだ。
結局、といってまとめないことも多いけど、人生って短すぎるなと思ったりね。なんか人に良いことをしてあげたいな、としても永続するには、気が散ってしなうことも多々あるし、もっと優しい人間になりたいな、とかそうした人間をみつけたいな、とか思ってしまうね。まだまだいるよね。心底、人のためになるよう生き抜こうと実行している人が。墓になんて書かれたい? 自分のことを最優先させる人でした、自分のメリットしか考えない人でした、とか?

作品(3)-7

2006年06月16日 | 作品3
システム・エラー


育てられ方なんて、大袈裟に言っちゃったけど、大したことないんだ。ただ、運動部のアイデンティティみたいなものがあるでしょう。目上の人や先輩を立てるというあれだよ。自分より能力がない人でも、尽くす美学があるじゃない? あれ、自分に酔っちゃうのかな? こんなに頑張っているオレ、とか認められないのに健気とかさ。神の視線、そんなのに満足感をすり替えちゃうのかね。そうなんだ、人のためになることで、頑張れちゃうこともあるんだろうね。

でも、その小さい世界だけど、一種のセンセーションを起こした形になったんだ。何か変わったって? それは、ぼくは本来、服装とかずっと無関心だったんだ。だけど、そうもいかなくてさ。たどり着いたのが、ボタンダウンのシャツなんだ。あれ着ると、なんか、まあ文化のことも知ってそうだし、ちょっとまともにも見られるのかなと計算もしたりしてね。だから、自分でもボタンダウン・フリークと呼んでいるんだ。あのシャツ、ポロの時にイギリスの選手が、襟がひらひらしないようにボタンで留めたのが、ヒントらしいよ。なんか素敵なエピソードじゃない?

だから、正直女性の服装とかも、よく分からないんだ。そりゃ、一緒に買い物に付き合わされたりするけど、男性って直ぐ飽きない? 本屋とかCDを見てるから、お好きに、とか言ったら、その後、数時間も口を聞かなくなっちゃうし。なんだろうね。そうしたところからも、プレゼントとかも困るよね。「なにが欲しい、今回は?」とか聞きまわりたくなっちゃうよ。でも、それって反則だろう。

とか言いながら、服装のセンスの悪い女性って、セクシーだと思わない。無防備な感じがするのかね。個人的なものかな。まあ、一点のすきもない人よりは、ルーズな印象はするよね。ゲームの主人公のことも耐えず考えているんだ。理想てきな顔の造形とかも興味あるよ。あまり普遍的過ぎて、人の受ける印象が薄っぺらになってしまうこともあるよ。その時には、的確なアドバイスをしてくれる友人がいるんだ。ぼくの最終チェックをする人だよ。最初から、なにかを生み出す人ではないんだけど、そうした枠に合うよう、見栄えを訂正できる人っているんだよね。でも、爆発的な想像力は残念ながら、持っていないんだよね。でも、人なんか役割をこなすのが目的にもなってしまうしね。

先刻のスポーツをしていたので、ちょっと従順さが残っている、という所がもっと知りたいんだね。まだ、修行中で完成されていないんだ。でも、どっかで本気で喧嘩を売ったりすることもあるよ。年下には、しないけど、本気で腹が立つのは、そりゃ、年上の傍若無人ぐらいだろう。なんどか仕掛けたこともあるけど、見事に負けて帰ってきたよ。それでもいいけどね。活力が与えられれば。正しいことをして、栄光を受けないことに、本来の良さがあるんだ、と考えたりもしてね。でも、思ったことが、実行して成功につながる気持ちよさもあるけどね。みんな、どっかで自分は失敗する、成功には向いていないとか、不運を寄せ付けちゃうのかもしれないね。あら、また、本屋のサクセス棚みたいな意見が出てきちゃった。喉渇かない? 喋りすぎたかな。ぼくは飲むね。

次のアイデアもあることは、あるんだけど。具体的にはね。能力が尽きないことを、チームの後輩に見せ付けたいと思っているところなんだ。彼らも、そろそろ個人的な名声を望んでいるところだけど、まだまだ、この分野の先駆けは、自分だった、という証も示しておかないと。そうしたら、やっぱりビーチでのんびりしたいな。犬が砂浜なんか走り回ってさ。ぼくも普通の生活に憧れてきたよ。もう若くないのかな。両親も安心させてあげたいな、とかほんのたまに頭の片隅をよぎるんだ。酔った後に、一人になった時なんか、とくにね。

作品(3)-6

2006年06月14日 | 作品3
システム・エラー


そうなんだ。それで、スピーチもしちゃったんだ。もう、その手前でかなり酔っていたのも確かだけどね。そう、彼女は、とてもきれいだったよ。こうして話していると、ぼくは女性のことばかり考えすぎていないかな? 複数の女性がごっちゃになっていない? いま、話しているのは、ぼくのチームの後輩の女性と、馬鹿な後輩のあの男の話だよ。口が悪いね。いや、その男性も一人前になるまで、ぼくが必死に手をかけたんだ。なんか一人前にしすぎたかな。

話は、なかなか上手くこなしたんだけど、やっぱり一人になると切なくなってくるよ。個人的な意見なんだけど、女性の28歳から32歳までの期間を知りたいと思っているんだ。なんか理想なんだよ。その彼女がちょうど28歳だったんだ。その4、5年の間というものが完成間近みたいな気がするんだよ。それを過ぎたらどうか、なんてぼくの口から言わせないでよ。

また、逆にだよ、ぼくの20代を知らない人と、新たな関係を作るのって、面倒くさくない? もう大人になってからの自分なんて、面白みがないようにも感じるしね。あの失敗とたくさんの格闘をしていた自分を知っている人との方が安心できるんだ。これも、違う考えの人もいるらしいことも知っているけどね。自分のみじめさを認められない人も、どうかと思うよ。

そうスピーチに戻るね。ちょっと誤解を与えちゃったかな。いかにもぼくが彼女のことを職場の仲間以上に考えているのがばれてしまいそうでさ、自分自身に心配したよ。でも一人で強い慟哭、そうだこの言葉だ、一人で悲しんだよ。大体、いつも投げやりなんだけど、失ってから、いつもいつも後悔するのが、ある種の趣味なのかね。でも、幸せそうだったし、個人的な執着で、その幸福を破壊するのもよくないよね。

その後、新婚旅行から戻ってきた二人とも、なかなか上手くやっていたよ。でも、ぼくの手からは離れてしまったね。また、新しい才能を発掘したいな、とも考えたり実際に移行する時期だったんだろうね。また、目の前に表れたんだ。ぼくの存在をおびやかす能力の持ち主がね。でも、追い越されても、ぼくは全然問題にしないんだ。もっと嫉妬深かった気もしたけど、ちょっと違う観点からみれば、ぼくの影響を受けているのが分かってしまうんだ。早く、そんな青い時期から脱出してほしいね。ぼくも、その若い才能から刺激を受けたんだ。それは、眠りを控えるぐらいのことは、するさ。なかなか負けず嫌いだし。

しかし、彼の才能のお陰で、会社自体の売り上げも上がったし、ぼくもつまらない仕事から、弾き出されるように自由になった部分も大きいんだ。人間の魅力ってなんだろう? 良い人間が平和な社会を作るわけでもないし、こんなに問題をかかえた人間でも、子供たちが夢中になるゲームを作ったりできるんだからね。あとからあとから、追われているような感覚はあるよ。ヒットがないと、その人を抹殺するぐらい時代はエネルギーを持っているし。そんな馬鹿げた競争から、はやく脱出したいとも思っているけど、卵を割ってもらうのを待っている雛のように、その作品たちもぼくの手を借りて、生まれてこようとしているんだ。だから、はっきりいうとぼくの才能ではないのかもしれないし、ただの助産婦みたいな役なのかもね。でも、観賞されて終わりじゃないし、ゲームというのも難しいよ。その若い子のお陰で、ぼくは映画の分野とか、音楽の分野に交友の幅もひろげていくことが出来るようになった。簡単なアドバイスで、すごく喜ばれたり、一部の子たちの間では、時代の寵児とかも呼ばれてね。なぜ、浮かれないのか? 不思議でしょう。そんなに、自分が分からなくなってしまうほど、恥知らずでもないし、これが育てられ方の差なんだろうね。

作品(3)-5

2006年06月09日 | 作品3
システム・エラー


友情ってなんだろうね? 真っ先に浮かぶのは、走れメロスかな。え? 知らないの? そういう世代なのかね。若い頃は、同じ悪さをすれば、共同体みたいな意識が芽生えたけど、なかなか、そのままの気持ちはね、抱き続けることは難しいよ。あの時さ、まだ中学生だったよ、夏休みに連発式の花火を互いに向け合って、打ちまくっていた。耳のそばをかすめてね、よく怪我しなかったもんだな。あまりに騒ぎすぎて、近所のおじさんが叱りに来たけど、逃げながらそのおじさんに向けて、やっぱり放ったんだ。いま、もの凄い反省しているよ。

女性は、どうなのか知らないけど、男性同士だと、半年とか一年ぐらい会わなくても、ふとまた会うことがあったら、様子を伺うこともなしに依然の関係に瞬時に戻れると思わない? 不思議だね、時空を超えちゃうのかね。ぼくにも、数人の友達がいるんだ。少ないけど、逆に数人ぐらいで充分だよね。

自分でも呆れるぐらい人の欠点に目を向けてきたけど、今後は、もうそうしたことはしたくないんだ。残された人生、人の悪口ばっかり言って生きていくには、短くてもったいなすぎるよ。あんなに嫌なやつだけど、どっか良いところもあるだろうね。神が誰かを創ったなら、そう見捨てたもんでもないだろうしね。それから、その嫌なやつと、ちょっと合わせて話してみると、その、なんていうのかな自分にもプラスになるよね。マニュアルが作られるのかな、次の機会にでも、同じような嫌なやつにも自然と親しめるしね。でも、半分ぐらいしかできていないんだ。どこかで、こころを閉ざしている自分も、はっきりと存在するしね。

あの歌手と別れたときも、ある友人に話したんだ。とても温かいメールが帰ってきたよ。自分の失敗談も含めてね。同じような境遇にあった証拠としてね。まあ、自分一人ではないと感動したんだろうね。なんか目の奥が、恥ずかしいけど、分かるだろう? あの、泣き出す寸前だね。頑張って泣くのをこらえていたのに、家に着いて、母親の顔を見た瞬間、なにも言わずに泣いた経験なんか誰にだってあるだろう? この冷たい世の中でも、きっと、まだまだ純粋な心って残っているんだろうね。ぼくも、心の深いところでは楽観的なんだ。でも、人を慰めるなんて、自分でもしているんだろうかね。あんまり思い浮かばないな。

そう、ぼくのチームの後輩とも飲みに行ったりもするんだ。仕事中は偉そうな口も聞くけど、こんな時は、わざと羽目を外して、近づきやすいように仕向けるんだ。なんか甘ったれだもんね、直ぐふくれたり、つけあがったり難しいよ。でも、伸びる可能性のある世代だから、頑張ってもほしいんだ。

あと、お金の問題もつきまとうね。友人にお金を貸したりする? あれって、どちらも最後には気まずくなる結果が待ちわびているね。あげるぐらいの方が居心地が良いかも。なんか使い古された説明だけど。ぼくも、古い世代の一人なのかな? 常識がとても好きだし、枠組みもなんか好きなんだ。

友情の話だったね? 女性と友達になれる? 親しくしていると、あれって自然と好きになってこないの? やっぱりぼくは古いのかな。とても、話しやすい人がいたんだ。勘違いしちゃったよ。自分が、ああも自然と伸び伸びといられたなんてね。でも、良く考えれば分かることさ、その人は、ぼく以外の人とも、当然のように上手くやっていけるんだから。そう、チームの後輩の話だよ。今度、その二人が結婚するんだって、そこでぼくに何か簡単でもいいから、スピーチしろっていうんだ。ぼくって、こころの奥では反抗的だろ、ああいう現場に立つと、誰かの神経を傷つけたくなっちゃうんだ。そして、自分も凄い反省したり、後悔したりしてね。でも、いまからよく練って、推敲しているんだ。まあ、見栄っ張りでもあるしね。彼女のためでもあるしね。

作品(3)-4

2006年06月08日 | 作品3
システム・エラー

 
 みんな誰しも、外に音楽を持ち歩いて、耳の中にヘッドホンを入れているね。周りの雑音を聞きたくないのかな。そりゃあね。ぼくも音楽が好きなんだ。最初の影響は母親かな。家にジャズのレコードがあってさ、と言ってもヴォーカルもんだけどね。ビリー・ホリディーなんかだよ。それからなんだろうね。真理を告げる音声って、女性の唇を通じて、この世界に表れるというか、変換されるように考えているんだ。

 やっぱり、この問題に触れないと駄目だよね。そうだよ、ぼくのゲームのテーマ曲を歌ってくれた歌手に、ぼくが惚れていたことぐらい知っているだろう。初めての打ち合わせから、もうまいってしまっていたんだ。そうだよね。あの容姿と、それから、あのハスキーな声だよ。そりゃあ、気持ちを告げるのを我慢できなかったくらいさ。
 
彼女の家には、防音された部屋にピアノが置いてあって、数曲さわりだけど歌ってくれたんだ。優しくってさ、甘酸っぱくってさ、それにあの心の奥からの強さみたいなものも感じられて、ぼくはもう最初から決めていたんだ。でも、そのぼくのグループを説得させなくてはならないし、彼らは、音楽なんか分からないんだろうね。売れている人を使えばいいと考えているだけなんだ。才能を発掘し、丁寧に育て、それから実を結ばすなんか、手の込んだことをしたくないと思っているんだろうね。ぼくは違かった。そりゃ、自分の能力を伸ばすことにも全霊を注ぎたいけど、それ以上に誰かが出来なかったことが出来るようになって、自信をもって、プライドの芽生え、みたいなことを見ることも、とても好きなんだ。優秀な生徒を育てる学校の先生も、気持ちの良いものだろうな、と考えることもあるよ。

それから、ちょっと経って付き合うようにもなった。とても幸せだったな。まあ、人間だから嫌な部分もあるけど、ぼく自身にももっとあるよ、でも、その人の良い部分を発見する喜びも好きなんだ。だって、他人に指摘されないと気付かない、プラスの面って、誰にも隠されているよ。それを見つけてあげたいな。

彼女の、そのぼくのゲームがきっかけになって、段々と世の中に知られてくるようになり、ちょっとずつ疎遠というか、この業界より、存在が大きくなってしまったんだろうね。ぼくも少し嫉妬したんだろうけど、ぼくの手から離れていく実感があったよ。誰も夕日が沈むのを止められないのと同じだよ。明日は来ちゃうんだ。

いまは保護者みたいな気分もするんだ。理想だけど、すべての人に幸せになってほしいけど、とくに自分と一時的にすら深く関わった人とは、それ以上に不幸が訪れて欲しくないと思っているんだ。まあ、考えるだけで無理だけど、実際の手の届く範囲なんか限られているし、そうだよね。

いまでも耳にするよ。やっぱり、幸せだった頃を思い出すよ。徐々に上手くもなっているし、セールス的にもかなりなんだろう? まあ売れればいいという問題でもないのかもしれないけどね。あの才能は、いつか誰かが目に留めたかもしれないが、ぼくが、その原石というのかな、気付いて良かったよ。今でも連絡を取るのかだって? そんなことは、もうしない。未練とか嫌なんだ。自分がそのみじめな感情を、人の数倍もっていることぐらい、自分が一番知っているよ。こんな話を聞いたよ。戦死した子供の訃報を聞いた母親が、そうですか、といって台所に立ち、何事もなかったかのように、お米を研いだんだって。泣かせる話だよね。その心の中では号泣しているんだろうけど、誰にも心配をかけたくないいじらしさが出ている話じゃないか。このエピソードでぼくの気持ちもわかっただろう?

作品(3)-3

2006年06月06日 | 作品3
システム・エラー


農村や、山奥で一家族だけで住んでいるわけにも、現代人はいかないので、やはり都会で生活するには、会話の技術がとても必要だと思うね。いくら、メールとかがあったりしてもだよ。黙っていても、誠実に生きれば、分かってくれると信用したいけど、それは、届かない理想論だよ。力づくの説得とまではいかないけど、可能なかぎりの納得を人には、してもらいたいよね。

まあ、女性との交際で、一番ネックになるのもここだと思うけど。どうして、ああいちいち女性というのは、訂正しないと気がすまないのかね。こちらの気持ちをくんで、理解の歩み寄りみたいなことをしても良さそうなのに。これも、自分の力不足だよ。

でも、最終的には、話を聞けばいいんだろう、という豪快な結論に至るけど。「そうそう、そうだよね、疲れたんだよね」とか、頑張れば出来るんだよ。だけど、時に面倒くさくならない? すべての話好きの異性のこころを射止めている男性に祝福と呪いあれ。

まあ、冗談だよ。自分の仕事のはじめに、売り込むときにも努力が言ったな。成功間違いなしだし、あなたたちにもお金が入ってくる話なのに分かってくれなくてね。いまでは、最初の理解者みたいな顔して、ぼくの才能に、その原石に気付いたのは、おれが最初と、あきれちゃうけど、そんな人々もいるんだ。怒ったりはしないけど、ちょっと動揺ぐらいはするよ。だったら、最初から、ぼくの提案を受け付けてくれても良かったのに。でも、タイミングというのは、人間の力の及ぶ範囲外でも、確かにあるしね。あのぐらいの認められない期間は、いま振り返ると、とても重要だったと思うし。結果が良ければね。実際、良いから仕方がない。

ぼくの友達が言ってたよ。雑誌に文章を書いているライターなんだけど、調子に乗っているときは、文章だけで何でも出来そうだって。不可能なことは一つもないような気持ちになるんだって。その友人は、まあ例にもれず口下手だけど。ぼくも、そうなんだ。自分の作ったゲームを、子供たちが手にして喜んでいる姿を見る前から、このゲームで楽しませることなら何でも出来るような気持ちになるもんね。そういう奇跡の一瞬、ある種の恍惚状態は、とても幸せだよ。すぐ、現実に戻されて、引っ張り回されるけど。

みんなは、どうしているのかな? たまに会う両親とか、彼女の家に遊びに行ったときの振る舞いとかの話しだけど。何かの役をあてがって欲しいぐらいだよ。今日は、彼は孝行息子の役で、実家に帰ってきます、とか帰る前に親にアナウンスしてもらいたいね。じゃないと、家に入る前から、なんかぎこちないし、照れくさいし、ぶっきら棒にはなるしね。普通でいられないんだ、人間関係って。正常じゃないのかな。でも、みんなもこんなものだろう。違う?

さあ、眠くなってきたよ。誰にもなにも話さないけど、理解してもらいたいな。いや、好きな人だったら、なんでも話したくなるのかな。幕みたいなものは作らないで、引っ剥がして欲しいな。それには、酒かな。真理には酒かな。アルコールの力を借りれば、どんなお道化もできるんだよ。自分では、居酒屋飲み、と呼んでいるんだけど、騒いで、笑わせて、そして自分では、もっと笑って。そんな時に、一人でも浮かない顔しているやつがいると興ざめだけど。そいつのために、もっと力を発揮して、努力するけど大体は駄目だね。もっと相互理解の話をしたかったんだけど、まだ腹を割って話していないのかね。ごめん、今度するね。嘘はつきたくはないと思っているんだ。口を開けると、サービスして大事な結末には至らなくなってしまうんだ。

作品(3)-2

2006年06月05日 | 作品3
システム・エラー

小学生の低学年のときに、学校を数週間休んだことがあるんだ。なぜ、いままで覚えているかっていうと、その頃の算数のメーンイベントである掛け算九九を教えられる時期だったからなんだ。ある日、こじれた風邪が治って、それでもまだ完全に体力を取り戻していない状況で、先生に覚えたての九九を、一人ずつ順番に並んで、声に出して、生徒たちが唱えていた。びっくりだよ。一番、大切な期間を逸してしまったのか、と急に不安になったりして。

数字自体は、とても好きなんだ。だって、大体多いか、少ないかの問題でしょう。数字って。そろばんを習ってたこともあるしね。これも、遊んでいるときに突然、母親に呼ばれ、
「あんた、今日からそろばんに行くんでしょう」と言われたりした。行きたいとも言ってないし、本人は楽しく外で遊んでいたのに。

 でも、習うと楽しいんだよ。頭の中に、そろばんが浮かび上がり、いつでも小銭のおつりなんかは自然と計算したりしてね。でも、これも廃れゆくものだよね。誰も、もう習いもしないかもね。なんか一攫千金と結びつかないお稽古ごとだし。
 
 成績も良かったんだ。その生徒たちのなかでも計算が早くてね。自慢じゃないよ。だってきちんと級をもらうような試験を大会場で受けるときは、かならず失敗して帰ってくるんだから。その往き帰りの風景だけ、なつかしく覚えているよ。でも、数字って、最後に帳尻を合わせないと、恐いことが起こるような心配まで、数字にはある。ナンバーに信仰を置いているのかな。

 こんなこともあるが、うちの両親は、勉強については一切、口を出さなかった。勉強をしろ、と一度も言われたことがないし、逆に、良い成績を残しても、一度も誉められたこともないけどね。どっかで、影で言ってたのかもしれないけど、当人に耳に入ってこなければ同じことだよね。最近は、教育の仕方も変わったのかもしれないが、ぼくらの子供のころは、まだこんなだったんだ。思い切り抱きしめるような場面が、アメリカ映画に出てくるが、実際は、もっと淡白な昭和の子供だよ。

 その恐れていた掛け算九九も自然とすらすら言えるようになり、克服したよ。その時の先生が、いま考えると定年間近なんだろうね。生徒に厳しくしないで、優しく包み込むように労わってくれた。あれこそが、教育だと思うね。ある種、枠内に放し飼い。その次のヒステリー気味の女性の先生が来る前までの安楽だよ。どこかで、やはり帳尻が合うのかな。

 でも、大勢の人間に向かって、教えられることなんてたかが知れているよ、個人的なレッスンか、自分で学んだことしか、最終的に残っていないのかもしれないしね。教育について、たくさん話しすぎたかな。多くの人は、若いときに、もっと勉強していたらよかったと後悔するように出来ているよ。学校の校門に刻印していたらよいのに。卒業生の言葉。「あの時、もっと勉強したら」とかね。老眼も迫っちゃうし、早く何とかしたいんだ。

 それと、いつからか、テレビが深夜放送をはじめて、朝まで、どうにか時をやり過ごすことも出来るようになってしまった。あの時間、もっと本を読んでいたような気もするが、これも思い過ごしかな。知識を詰め込みすぎた人間も見苦しい感じもするので、この辺で、教育について語るのはやめようかな。静かな図書館に集まっている若人に、幸あれ、とか言って。

作品(3)-1

2006年06月04日 | 作品3
システム・エラー


あなたの人生の上で、重大なシステムエラーがありましたが回復しました。このメッセージを送信してください。

誰かに話をして解決する努力が必要だと思いますよ。痛い経験でもそうでしょう。子供の時には恥ずかしげもなく人前で泣いたものだね。串刺しにされた思い出。1つの串を抜くと同じような思い出がポロポロと転げ落ちるね。その1つなんだけど、誰かと別れると、ほかの過去の別れも思い出さない? なんであんな失敗を繰り返すのかね。どっかでやめればよいようなものなのに。

でも、確実なものにしか興味を示さないのも、人間としてどうかとも思うしね。チャレンジが好きって言ってるわけではないんだよ。まあ、どう転ぶのか分からないのが、人生だしね。そうしたら、誰もスポーツやギャンブルもやらなくなっちゃうよ。どこかで、負けるかもしれないのを知ってても、やっぱり知らないか。最後に自分に、運が向くと思っているんだろうね。そうじゃないとね、明日の朝も、起きられないよ。

こんなこともあった。そうそう、お互いに好きで、多分ね、趣味の分野でも合うのだけど、なんかね、最後の一瞬に気が合わなくなるんだよね。しっくりいかない一点が巨大化し、不思議だね、あれってどうなんだろう。サインを発しているのかな。ストップだよって。人生を数学的にシステムを組み立てるみたいに考えられるかな。

録音した言葉を再生するように、人生の失敗も貯めておいて、いつか効用があればよいのに。テイク38です、とか言って。かなり失敗が多いよね。

正直に言いたいと思っているんだ。ぼくの失敗が、ぼくと離れて、失敗だけに注目を浴びせたいね。本屋に並んでるのも、成功者の話ばっかり。まあ、まれに失敗した挿話もあるけど、結果的に最後には、逆転して成功に、サクセスにつながりました、っていう結論が見えるしね。失敗を、そのまま形を崩さずに、失敗のままでも魅力を放つとも思うけど。鍋のなかの豆腐のように。

学生時代から、パズルやクイズを作って、友達に廻していたんだ。かなり、評判よかったよ。それが、今のゲームの原案やキャラクターを造形するのに役立っているんだろうね。でも、結論がはやすぎるかな。ただ、簡単にいうと好きなんだろうけど。誰でも、好きなことをしている人の姿が、魅力的だよ。やだな、主張ぽくなっちゃった。

あと、父親が落語がすきで、家でも年中、そういう方面のテープを聴いてたりしてたんだ。だから、あの話の筋とか、流れとか、プロットが現代のゲームにも、ちょっと古風であり、また、しっかりとした核ができているのかな、とかあの評論家が、そう評していたのの受け売りだよ。でも、あの微かな成功もテーマ曲を歌ってくれた人のおかげだろうね。

失敗とか言いながらも、若いうちから存外、お金も手に入れてしまったんだ。日本に住んで、企業に雇われても結果が見えていると思わない。大体、計算つくよね。プランもまるで最後の瞬間まで解ってしまうような。ちょっとぐらい冒険してもいいかな、とか考えてたんだけど、まあ、このぐらい結果がうまくいけば、現時点では上出来かな。詳しく、もっと話すけどね。