打倒!破廉恥学園

旋風寺武流PLが意味もなくただ、だらだらと掻き散らかすブログです。

旋風寺武流 えぴそおど ぜろ その4

2009-06-21 17:05:29 | Weblog
「ここの料金……ひょっとして俺も払わないといかんのかなあ?」

 川上秀吾は、自分を指さして大笑いする翔子と延長をするマドカを見ながら漠然とそんなことを考えていた。

「笑っちゃわるいよ翔子」

「だって……びくうっ……だって、あはは」

 みっともない所見せてしまったなあ、亀村隊長からあれほど平常心を持てと言われてきたのに……考えてみれば、自分がここにいる事を剣道部の連中は知らないだろう。昨日の件で、部室が血まみれになり清掃業者を呼んでいるとかで今日は休みなのだ。

「そ、それでですね。亀村隊長と旋風寺さんの話なんですけども」

 ようやく話が戻る。翔子は興味深そうに、マドカはそれほどでもない様子だった。ウーロン茶で喉を湿らせてから秀吾はそれからの事を語る。

「隊長は旋風寺さんに防具をつけるよう言ったんです。木刀ってまともに当たると骨折もありえますから」

 だが、他人が使っている剣道の防具って臭いからという理由で旋風寺は拒否した。その気持ちはわからなくもなかったが、温情を無碍にされたことで亀村の怒りはますますヒートアップしていた。

 旋風寺が逃げ出さないように入り口の前に立たされていたが、ひょっとしたら道場で殺人事件がを起きてしまうのではないかと秀吾は慄いた。額が血管の集合体みたいになっている亀村の顔を見れば、そんな心配をしてしまってもおかしくはなかった。。

「翔子、剣道の防具ってそんなにくさいの?」

「あたし剣道やらないから着けたことないけどさ、この季節にエアコンのない剣道場で、あんなに重たそうなものはつけたくないかなあ……秀吾に聞いてみたら?」

 今朝初めてあったばかりなのに、自分を呼び捨てにする翔子に秀吾は少し驚いた。

「お、俺の口からはちょっと……」

 口には出さなかったものの、夏場の剣道は地獄だ。暑いは蒸すは水が飲めないわ……秀吾は小学生の時から剣道をやっているが、こればかりは未だに慣れない。

 木刀を持った旋風寺は、大きくゆっくりと振った。剣の軌道はへにゃへにゃで間違いなく剣道をやったことがない者の動きだった。振っているというよりも、木刀の重たさに体が引っ張られているという風に見えた。

 思い切り素ぶりをしたら、木刀の重さに耐えきれず床を叩いてしまい、腕を痺れさせて笑っていた。それほどに旋風寺は素人だった。

 あまりにも無様だったので、竹刀同士でも良いと隊長は言ったのだが、旋風寺はドラマの宮本武蔵がどうしたのと、のらりくらりと言葉をかわして、結局防具なし木刀同士の勝負となった。

「随分と長い前振りだなあ。氷みんな溶けちゃったよ。けっきょくどうして亀村先輩が負けたのさ」

 翔子が汗を掻いたアイスコーヒーのグラスを持ち上げる。水滴がテーブルにぽたぽたと垂れた。

「東山さん、話には順序ってのが……」

「この場合にはなぁい!」

 きっぱりと言い放つ翔子に秀吾は何も言い返せなかった。マドカも勝負の経緯に関しては興味があるようで、フォローも入れてくれない――



『ごつん!?』

 翔子とマドカの声がはもる。

「ご……ごつんって……後頭部に?」

「木刀で……?」

 二人が信じられないといった様子で秀吾を見つめてきた。

 それは試合開始の直前のことだった。一応練習試合の形をとっており、亀村も礼儀にはこだわる方なので、実際の試合の形式で勝負は行われた。

 審判が、互いに礼と叫んで亀村が頭を下げ……つまり一瞬だけ、旋風寺から視線を外した刹那のこと。

 旋風寺が振り下ろした木刀が亀村の後頭部を打ち据えたのだ。まるで畑に鍬でも振り降ろすかのような、力任せの一撃だった。その威力の凄さは、木刀の先端が割れたことでも理解できる。

「隊長は……いや、俺らも何が起こったのか一瞬わかりませんでした。でも隊長のでっかい体が倒れて痙攣しだした辺りで……誰かが救急車って叫んだんです」

 それからの事後処理は大変の一語に尽きる――みんな旋風寺の事を隠すのに必死だった。体験入部を申し出てきた一年生に練習試合をさせたという体裁にはなっているが、強制的に連れてきた生徒に仕合を挑んだ副主将が頭をかち割られましたなどと他言できるわけがない。あくまで練習中の事故ということで片付けたのである。

「気がついたら、旋風寺さんはいなくなってました……窓にも全部鍵がかかっていたし……入口は俺たちが固めてましたから……どこから逃げたのかは」

 混乱の中、霞のように消えたのだ。後で道場の片づけをしていたら天井の板が一枚ずれていた。秀吾は旋風寺が忍者のようにそこから逃げたのではと考えたが、余りに荒唐無稽な話なのでマドカたちには言わなかった。

「剣道を知らないふりをしてたのかな……で、いざ試合となったら本気を出したとか」

 旋風寺が剣道に精通していると仮説をたてたマドカに秀吾は慌てて手を振った。

「俺は違うと思う。あれは間違いなく昨日初めて木刀を触った人の反応だったし」

 自分も初めて木刀を握った時、その重さに耐えきれず床を叩いた事がある。まるで竹刀とは違う木の硬さと破壊力に驚いたのも忘れていない。旋風寺もあの時に木刀の威力がわかっていたはずだ。それなのにあっさりと人の頭に振りおろせるその神経が、何より秀吾は恐ろしかった。

「じゃあなんで旋風寺が勝ったのさ。素人と剣道部の副主将が仕合して負けるなんて剣道部の名誉問題じゃない?」

 心臓に悪い事をずばずば言ってくれるなあ。秀吾は頭を掻いて苦笑いするしかなかった。

「まともにやったら亀村隊長の方が間違いなく勝ってたよ……剣道の試合だったらね。たぶん……俺でも」

 もし竹刀や木刀を持って規則に沿った練習試合なら、百回やっても旋風寺に負けないだろう。だが、真剣を握り合った実戦――ルールなしの命の奪い合いなら……何万回やろうとも勝つ自信がなかった。幾度となく頭の中で闘ってみても、胴と首が泣き別れになっているのは自分の方だった。おそらく予想だにしない行動をとって白刃を首に差し込むだろう。

「命がけの勝負で悠長に相手に礼をする奴なんていませんからな。あの戦いを仕合と取った亀村先輩と殺し合いと取った旋風寺さんの差が出たんだと思います」

「殺し合いって……」

「時代劇じゃないんだから……」

 マドカと翔子の絶句の後、しばし無言の時間が流れた――

「で、でもさ。不幸中の幸いじゃない? 旋風寺があっさり逃げちゃったから、アイツがいくら吹聴しても、証拠がないから剣道部の面目は保たれるわけじゃん」

「先生たちも練習中の事故だって認めてくれたみたいだしねー」

 重くなった空気をなんとか明るくしようとしたのか、翔子が手をぽんと打つ。マドカも同調して大きく顔を頷かせた。

「俺は……」

 秀吾がようやくぽつりと呟いた。

「俺は、旋風寺さんは剣道場に連れ込まれた時から、ずっとこうなるように計算してたと思うよ。どうやって剣道部との関わりを後腐れなく斬るかを」

 亀村が入院した事で、もう剣道部が旋風寺に関与することはなくなった。旋風寺のあまりの汚さと残忍さに恐怖したからか、亀村の仇討を狙う部員も今のところ出ていない。

 剣道場に連れ込まれた時に旋風寺は妙にそわそわと周囲を見回していたが、あれは逃げ道を捜していたのではなかろうか……わざと大騒ぎになるように勝負を終わらせ、混乱のうちに誰にも気づかれずにすぐに逃げだす……旋風寺がすぐ消えてくれたお陰で野次馬に姿を見られず、彼がいた証拠もないので学校側にも練習中の事故と納得させることもできた。

 どこまで考えていたのだろうか。考えれば考えるほど袋小路に落ちていく自分に気づき、秀吾を恐れをはらうように頭を振った(続)

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