広く浅く

秋田市を中心に青森県津軽・動植物・旅行記などをご紹介します。

三重の電気バス

2015-02-16 20:41:55 | 旅行記
間が空きましたが、伊勢旅行の続き。※前回の記事
内宮参拝を終えた帰り。乗りたかったバスがあって、時間を調整していた。

以前述べた通り、伊勢市街・外宮-伊勢神宮内宮を結ぶ路線バスは、一般路線バスだけでも昼間はおおむね10分間隔で運行されている。
それとは別枠で、1日4往復(2時間に1本程度の間隔)ほどこんなバスが走っている。
黄色いいすゞエルガ
時刻表では「電気バス」と表示されている通り、充電した電気でモーターを回して走行する電気バス(EVバス)である。

「三重交通グループ70周年記念事業」として、国土交通省(地域交通グリーン化事業)、三重県、伊勢市などの低炭素社会を実現する事業の支援を受けて、ディーゼルエンジンのバスを改造して電動にしたもので、2014年3月31日から営業運行されている。
三重交通の発表によれば電気バスの運行は東海地方では初、「国産大型バス改造の電気バス(11mクラス)が通年営業するのは国内で初めての事例」。

車体の外観は、黄色地に「ポケットモンスター」のキャラクター「ピカチュウ」がちりばめられている。ピカチュウは電気を発する設定なので、電気バスにふさわしいとして起用されたようだが、ポケットモンスターのキャラクター管理をする企業「株式会社ポケモン」の社長が伊勢出身(鳥羽市生まれ伊勢高校卒)という縁もあるのだろう。
株式会社ポケモンが経営するグッズ販売店「ポケモンセンターナゴヤ」の広告や伊勢のキャッチフレーズもわずかに掲出されている。

僕はポケモンの世界観は全然知らないが、ピカチュウというのは1匹(特定の個体の名前)ではなく、何匹もいる(種名みたいなもの)のか。だから車体にたくさん描かれていても、おかしくはない。

ナンバープレート並びに三重交通で用いる車両管理用の社番は、ともに「1000」。同社の社番の法則として、千の位「1」はいすゞ製を示すので合っているが、百の位以下は法則を無視しているようだ。


内宮のバス乗り場は、一般路線バスと同じ。運賃も同額。
内宮前の伊勢市街方面時刻表。下段が電気バス
一般路線バスが10分間隔である間に電気バスが入るダイヤなので、ここだけ5分間隔となる。(実際には増発の臨時便もあるので、さらに間隔が詰まる場合も多い)
そんなわけで、黙って列に並んでいると、普通のバスに乗ることになってしまいそう。

【18日追記】内宮前発の一般路線バスは、宇治山田駅→伊勢市駅→外宮(終点)の順で運行するのに対し、電気バスは外宮→伊勢市駅→宇治山田駅(終点)と末端部で逆回りになるようだ。そう言えば、案内の社員も宇治山田駅へ急ぐ客は電気バスではなく一般路線バスのほうが少し早い旨を案内していた。(実際にはほとんど同着だったが)

タイミングを見計らって列につき、電気バスに乗車でき、運良く座ることもできた。
乗り場にいるバス会社社員は、「次の宇治山田駅行きは電気バスでーす」と、電気バスであることを少々案内してくれるが、それを分かっている人、僕以外に狙って乗り込む人はどれほどいただろうか。
小さな子どもが「ピカチュウだ!」と喜んだり、カメラを向ける人はいた。(内宮の乗り場はやや狭いので撮影しづらいかも)
ポケモンの大ブームから20年近く経ち、今は妖怪ばかりかと思ったら、そうでもないようだ。

ルームミラーにピカチュウがぶら下がる
正面の行き先表示は、差込プラグのイラストに「EV」が反転して抜かれている(後部は反転表示だがプラグの絵ではない)。一般路線ではある英字表記は省略。
【17日追記】逆方向では「直通 内宮前 Naiku」と英字も表記されるようだ。

側面の行き先表示は「宇治山田駅前←伊勢市駅前←外宮前←内宮前」とあり、上段に「途中は停まりません」と表示。
だったら、外宮前や伊勢市駅前は停まらないのかと思ったが、そうではなく、表示されている各バス停だけは停車し、その途中の表示されていないバス停(五十鈴川駅前や猿田彦神社前など)は通過するということだった。
なお、宇治山田駅発の側面は「内宮前←(直通)←外宮前←伊勢市駅前」と表示されるようだ。だったら、内宮発も「内宮前」は不要では?

正面・後部には「直通」とあるが、これもヘン。一般路線バスだって乗り換えずに行けるのだから「直通」だろう。
「急行」とかのほうが適切な気がした。


電気バスは往復で経路が異なり、宇治山田駅発が「御幸道路」経由、内宮前発が「御木本道路」経由。一般路線バスの「徴古館経由」と「庁舎前経由」とほぼ同じ道のようだ。(バス停通過順は往復とも同じで、途中乗降できないのだから、景色が違う以外にはあまり意味はない)
僕は行きは一般路線バスの庁舎前経由に乗ったから、行き帰りとも同じ経路に乗ったことになる。

通路に人が立つ状態で発車。
人が多くてあまり観察できないが、車内は改造前のディーゼル車とほとんど同一。座席の配置や柄も、三重交通の一般路線バスのものと同じようだ。
ただし、車外から見ると黒いガラスに見えるリアウインドウは、車内側は全面が塞がれている
確認できなかったが、災害による停電時などに電気を外部へ提供できるように、交流100ボルトの家庭用コンセントが車内に備えられているそうだ。

三重交通の一般路線バスと同じ、かつて秋田市営バスの放送も担当していた人による、音声合成式自動放送が使われるが、最初に途中停車しないことと「このバスは環境にやさしい電気バスです」といった説明が流れた。

電気バスの乗り心地。
発進→加速、減速→停止は、極めてスムーズかつ快適で、車内は静粛。
後方の席に座っていたが、小さく「ウィーーーン」と音がするばかり。速度が上がると「クンクンクン」という小刻みな音も聞こえたが、それに伴う振動などは感じられなかった。

加減速はアクセルとブレーキのペダルのみで操作していたようだ。
一般的なバスにおいてシフトレバーが設置される運転席左側には、細長い箱があって、赤くて丸いボタン1つと白くて丸いボタンが縦に3つ。白いボタンは上から「N」「D」「R」の順で表示されていた(はず)。赤はシフトロック解除用?

改造前のこの車は「QPG-LV234N3」という型式だそうで、「QPG」は6速マニュアルトランスミッションのようだ。電気バスに改造されて、オートマのような操作盤になったのだろう。
いすゞエルガにはオートマ仕様もあり、現行車種ではレバーでなくボタンでレンジを選択する、「アリソントランスミッション」社製の装置を搭載している。
この電気バスのボタンはそれを意識しているようには感じたが、デザインやボタンの配置は違う(アリソンは上からR・N・D)。手作りっぽい操作盤だった。


車内前方、運転席の背後(よく広告が掲出されるスペース)には、液晶ディスプレイが設置され、円形のメーターとデジタル数字が3つ表示されて、バスの動きに従って針(の画像)と数値が動く。
モーター回転数、バッテリー残量、モータートルクを示しているそうで、よく分からないけれど、走行中は回転数は335付近、バッテリは-200~+100で頻繁に増減、トルクは25付近をよく示していた。


乗り合わせた乗客は、伊勢市駅と宇治山田駅で半分ずつぐらい降車した。
宇治山田駅には、先に出た経由の違う一般路線バスとほぼ同着。“直通”便だからと言っても、所要時間短縮はごくわずかのようだ。【18日追記】上記の通り、電気バスと一般路線バスでは末端の道順が異なることも考慮しないといけないが、実際にはほとんど差がない。


ちなみに、充電器は車庫である三重交通伊勢営業所にあり、このバスの1回の充電での走行可能距離は53キロ。
宇治山田駅-内宮前を1往復すると10キロ強になり、それが4往復だから、車庫の往復を入れるとギリギリ持つかどうか。2往復を終えた昼過ぎにダイヤが2時間近く空くので、そこで車庫へ戻って充電しているそうだ。また、冷房などを使うと、走行可能距離は約30キロになる。(伊勢志摩経済新聞より)
【17日追記】乗車した日は、伊勢としては寒い日だったのだろうが、適度に暖房は作動していたのか車内で寒さは感じなかった。


環境にやさしい電気バスと言っても、実際には火力発電で作られた電気で充電しているかもしれないから、どんどん導入しろとは言い切れない。1台だけで、よそから来る人が多い路線での運用なので、地元での認知に難があるという話もあるようだ(伊勢市の資料より)。
ただ、静かさや排気ガスがなくて車体周辺のクリーンさは大きなメリットだし、ディーゼルエンジン車並みかそれ以上に乗り心地が良かった。
他の大型バスとともに、伊勢神宮参拝客の輸送に存分に威力を発揮しているように見受けられた。
※明日17日から19日は、車検のため運休するとのこと(代走はないのかな?)。

【17日追記】車体の外装について。「電気バス」などと表示はあるものの、ピカチュウに負けてしまっている。予備知識のない人には単なるピカチュウのラッピングバスに見られてしまう可能性が高い。電気バスとして周知させるには、もう一工夫必要だとは思った。



さて、電気バスと言えば、秋田の「ELEMO-AKITA」である。
僕は三重と秋田の電気バス両方に乗ることができたわけである。
三重と秋田では、その実施主体も運行目的も異なるので一概に比較はできないが、公共交通機関に投入するからには「不特定多数の客を乗せて走るのに相応の安全性・快適性」が求められ、目新しいものを通常より割高であろう費用をかけて導入するのだから「多くの人の注目を集めさせる」必要があるのは、どちらも同じだと思う。【17日この段落の表現を一部改訂】
それを踏まえると、平日のみマイナー路線を1日1往復(突発的運休あり)、なぜかギアチェンジが必要でその度にガックンガックンする秋田の電気バスは、三重と比べると…と悲しくなってしまった。
【17日追記】秋田の電気バスは、大型よりやや小さい中型バス。EVへの改造は、三重のは神奈川、秋田のは東京の企業が行っている。

【17日追記】2014年04月09日の伊勢志摩経済新聞によれば、
・「車両価格約1億900万円(車両約1億100万円、充電器約500万円ほか)」
・国交省から5,100万円、県と市から1,250万円ずつ補助金を受けている。

※旅行記の次の記事はこちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする