Sketch of the Day

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ロイヤル・クレッセントのハハー

2005-04-15 | Great Britain
Royal Crescent, Architect: John Wood Jnr., Erected: 1767-75, Bath, England, UK

ロイヤル・クレッセントにハハー(Ha-ha 写真)があるということは訪れるまで知らなかった。ハハーと言えば普通はカントリーハウスでみられる仕掛けである。それがタウンハウスの古典、ロイヤル・クレッセントにつくられているのだから面白い。とはいえ、このあたりは創建当時、バースの町はずれで牧草地や入会地(Common)が広がっていた。実際、先日、ある書物(書名は忘れた)をぱらぱらと捲っていたら、ロイヤルクレッセントの古い写真が載っていて、驚いたことに、ハハーの外側に実際に羊が放牧されていた。あたりまえとは言え実用を兼ねたものであったのだ。そのような立地とこの建築の規模、それから後述する建築の性格からすれば、やはりハハーがつくられてもおかしくはないのだ。

この、ハハーがある芝生地は、いわゆるプライベート・ガーデン(Private Garden)でクレッセントの住人だけしか入ることができない。写真に写っている人物の立っている側は、公園(Royal Victoria Park)から地続きのクレッセント・フィールド(The Crescent Field)と呼ばれる区画で、恐らくクレッセントの地所の一部と考えられるが、このカップル達は公園のほうから歩いてきたのであろう。しかし、立ち入れるのはここまでである。このハハー、写真ではそのようには見えないが実際には人の背丈近く高低差がある。よく見ていただきたい。カップル達の影がハハーを超えていないことにお気づきであろうか。

ロイヤルクレッセントのあるバースの街は古くからの温泉地。そこに建てられたクレッセントは今で言う高級コンドミニアムで、著名人や実業家ら一級の金持ちたちをテナントにもつ別荘であった(現在は定住型のテラスハウス)。彼らがクレッセントに何を期待したかと言えば、都会では味わえない「パストラル」であったことは容易に想像がつく(イギリス人とはそういう人たちだ)。それでいて、都会的な利便性、居住性、上質な空間をも期待したところにこの物件が生まれ落ちた背景があるだろう。正真正銘のパストラルな、カントリーハウス的な風景を備えているという点で、とてもユニークなタウンハウスと言えるのではないだろうか。たんなるプライベートガーデンを内包したタウンハウスとは明らかに一線を画すものである。ハハーの存在がそのことを雄弁に物語る。