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欧米の事例から考える緑の景観形成

2013-09-14 | Presentations
本日平成25年9月14日(土)、公益財団法人東京都公園協会水と緑の市民カレッジ講座(前期)の首都圏大学サテライト講座にて講演させていただきました。今期のカレッジ講座の大テーマは「緑の社会的役割を考える」でした。私は、欧米における緑を主体とした持続可能な景観形成の取り組みについて、実例を通じて紹介させていただきました。環境面だけでなく、社会的・経済的な恩恵を意図した包括的な緑地の計画、緑の景観形成の方法に着目しました。

--- 以下、講演要旨(会場配付資料)を掲載させていただきます。

はじめに
 欧米における緑を主体とした景観形成の取り組みでは、環境の持続可能性だけではなく、社会・経済の持続可能性も重視されます。あるいは、緑の景観それ自体を持続可能にするのが目的というより(もちろん考慮はされますが)、むしろそれを手段として、社会や経済を持続可能にしていくことが問われる、といえます。このことは、現代日本の都市計画・緑地計画が正面切って取り組む課題として前景化しておりませんが、近い将来そうなるのではないかと私は考えています。本日は以上のような視点から、私が主たる研究対象としている英国の取り組みを中心に検証してみたいと思います。
 
1.都市計画における緑地計画の位置
 日本の都市計画マスタープランや都市計画(土地利用や都市施設の計画)を統合したような取り組みとして、英国には開発計画(Development Plan)とよばれる行政計画があります。ただし日本の都市計画と異なり、文化財保護、農政、エネルギー、資源開発・保護、廃棄物処理、観光等の各施策を含んだ包括的な計画(必ず全て含まれているというわけではありませんが)となっているのが特徴です。こうした計画項目と肩を並べて緑の景観や環境に何が期待されているのでしょうか。緑の環境が本来的に有しているレクリエーションや環境保全機能、景観形成等の向上が期待されることはもちろんです。近年では、生物多様性の維持向上、気象変動への対応等が喫緊の課題として浮上してきていることも日本と同様です。しかし、欧米にあって日本にないものがあります。それは、都市計画や緑地計画が地域社会・地域経済の持続可能性に貢献するという視点です。
 例えばロンドン計画(2011)の頁を繰ると、冒頭から市内の貧困状況や雇用の動態・成長率を示すマップやグラフが登場します。都市計画の主たる課題が経済の再生にあることが明白です。またロンドン計画の中の緑地計画(グリーンインフラストラクチャーの戦略ネットワーク)の項を見ると、レクリエーションや生物多様性といったテーマだけでなく、地域経済や健康福祉への貢献が明確に謳われています。グリーンインフラストラクチャーとは、地域によって様々な定義がなされていますが、英国では、戦略的に計画され整備された、質の高い緑地と他の環境的要所のネットワーク(ナチュラルイングランド、2009)を概ね意味しています。

2.東ロンドンのグリーングリッド計画
 東ロンドンのグリーングリッド計画(2008)は上述のロンドン計画に位置づけられた、市内における「グリーンインフラストラクチャーの戦略ネットワーク」の先駆的取り組みです。この計画では、良好な緑地ネットワークが社会的・経済的な利益を下支えする環境的利益の提供に貢献する、としています。ここで、社会的な利益として心身の健康福祉、反社会的行為の減少等があげられています。また、経済的な利益として不動産価値の向上、雇用や投資の促進、医療費の削減等があげられています。
 加えて、この計画には東ロンドンという地域に対する人々の印象や認識自体を刷新することが期待されています。東ロンドンは市内でも貧困の度合いが最も高い地域の一つである一方、近年の都市政策により雇用の成長率が上向いている地域となっています。グリーングリッド計画にはこうした状況をさらに加速させる意図が込められているでしょう。また、2012年のロンドン五輪がこの地域に誘致され、五輪競技場や記念公園を含む一連の公園・緑地群がグリーングリッド計画の一翼をなすものとして計画・事業化されたことは、この地域の経済再生をねらった極めて戦略的な配慮といえます。こうした地域に緑地のネットワークをはりめぐらし、公園や緑地はもとより交通その他の公共施設へのアクセス性を高めることで、市内における物的環境面での地域間格差を是正し、社会経済的な競争力を高めることが緑地計画にも期待されているのです。

3.リバプールのグリーンインフラストラクチャー戦略
 リバプールのグリーンインフラストラクチャー戦略は同市の開発計画におけるグリーンインフラストラクチャー政策を裏付ける根拠として検討されたもので、健康福祉政策としての側面が強調されています。これは国民保健サービス(NHS)が戦略立案に関与し同市の健康福祉水準の改善を企図したことによります。そこでは、緑地の整備水準の低い地区で特定の疾病罹患率が高いことが客観的に明らかにされ、健康福祉水準を向上させるためのグリーンインフラの保全・創出が必要と結論づけています。これは福祉政策と環境政策の統合といえるでしょう。病院の新設・改修の際にも積極的に緑化を推進するようなデザインを働きかけるべき、などとしています。
 グリーンインフラストラクチャーの諸機能が発揮されることで得られる、健康福祉以外の社会・経済的な利益として、経済成長と投資、土地や資産の価値、労働生産性、観光、土地からの生産物等をあげています。そして、これらの利益を導くグリーンインフラストラクチャーには以下のようなデザインあるいはマネージメントが求められるとしています。美的な質や視覚特性に配慮した緑化と種の選定、微気象や防音・遮蔽に配慮した緑化と種の選定、緑地(屋上含む)へのアクセス性、既存樹や原地形の保護、適地開発(洪水危険区域や多面的機能を有する農地での開発の回避)、微気象に配慮したベンチの設置、緑地の連続性を示す標識の設置、果樹や材木・燃料となる樹種の選定、分区園の保護・創出、コンポストの家庭利用等々です。

4.グリーンスペーストラストの取り組み
 エディンバラ ロジアン グリーンスペース トラスト(Edinburg Lothian Greenspace Trust、以下ELGT)は、貧困地域での人々の健康と福祉に積極的な影響を与える質の高い緑地の整備や活用に活動の重点を置くNPO法人です。例えば、エディンバラ市ドライロウ テルフォード地区の、社会住宅(低所得者向けの公的賃貸住宅)に隣接する約1.3haの緑地の修復を行ったプロジェクトでは、市や行政区とのパートナーシップにより、地元住民の参画を得てゴミの不法投棄、アクセスの不便、低い認知度、サインの欠如や少ない出入口、反社会的行為、防犯等々の課題に取り組みました。プロジェクトの総額は107,000ポンド(当時のレートで約1,700万円)で、小規模ながら園路やベンチ、案内板や出入口、植栽等の整備が行われました。疲弊した地域の公園・緑地の改修を、行政その他の非営利セクターからの資金提供や地域コミュニティの参画を得て行った事例は数多く、ELGTの主要な事業の一つとなっています。
 ELGTの活動は、ハードウェアーに関するものだけではありません。例えば、個人の貧困とコミュニティにおける複合的な貧困に取り組むために、スコットランド政府から資金を獲得し(エディンバラ市と国民保健サービスを通じて)、運動能力の低い人々やグループを対象に、ウォーキングや環境保全活動を南エディンバラの緑地で実施しました。
 スコットランド森林委員会の資金を得て実施されたプログラムもユニークです。このプログラムは、市内貧困地区の少数派民族にオープンスペースや森林利用の機会を提供し、社会交流や健康・福祉の増進、環境に関する知識・スキルを開発することをねらいとしています。女性や子供、片親,高齢者、精神的障害者を含む少数民族グループとのパートナーシップにより実現したプログラムの一つです。

おわりに
 地域間における経済格差が顕著な英国のような取り組みが、現時点の日本の緑地計画や緑の景観形成に即必要とはいえないかもしれませんが、今後そのような要請が高まる可能性は大いにあります。例えば日本でも、基礎自治体の税収額と公園緑地の整備水準・維持管理費には一定の相関があり、自治体間での投資額の差異も認められます(森田,2013)。今後、人口減少がさらに進むことが想定される中で、定住人口を維持し、住み、働き、遊ぶのに魅力的で競争力のある地域にしていくうえで、公園緑地や緑の景観が果たすべき役割は決して小さくないように思われます。しかしながら、厳しい財政事情の下で、公園緑地関連予算は真っ先に削られるというのが、多くの自治体の実情ではないでしょうか。英国の取り組みは、緑地や緑の景観が決して財政のお荷物ではなく、むしろ地域の持続可能性を根幹で支える基盤(インフラ)であることを我々に教えてくれているのではないでしょうか。

参考文献
Greater London Authority (2011): The London Plan.
Natural England (2009): Green Infrastructure Guidance.
木下剛(2010):東ロンドンのグリーングリッド計画と地域再生,平成22年度日本造園学会全国大会分科会講演集,131-134.
木下剛・芮京禄(2012):リバプール市のグリーンインフラ戦略にみるグリーンインフラの概念と計画論的意義,平成24年度日本造園学会関東支部大会事例・研究報告集,Vol.30,29-30.
木下剛(2012):エディンバラおよびロジアン貧困地域における緑地環境の再生と管理,都市計画,61(1),295号,91.
森田みずき(2013):環境的正義の視点からみた公園サービスに関する研究,平成24年度千葉大学園芸学部緑地環境学科卒業論文.

International Conference 2013 on Spatial Planning and Sustainable Development

2013-09-03 | Presentations
I and Kyungrock YE participated the International Conference 2013 on Spatial Planning and Sustainable Development (SPSD2013) that was held at School of Architecture, Tsinghua University, Beijing, China, 30th August. to 1st September. The tittle of our research that we made an oral presentation on 31st August is A Study on the Concept and Planning Method of Liverpool Green Infrastructure Strategy in United Kingdom (See Photo 1). I also chaired the Session 3 of SPSD 2013: Sustainable Urban Planning. All chairs were handed out certification of fulfilling their duty as session's chair of SPSD 2013 (See Photo 2). Photo 3 is a commemorative photo taken in front of School of Architecture, Tsinghua University. We visited the Jiuzhou Scenic Area "九州景区" (See Photo 4) in Old Summer Palace "円明園" on study tour of SPSD 2013, 1st September. Photo 5 is the diorama of a people's park of China in the Museum of Chinese Gardens and Landscape Architecture, Beijing International Garden Expo. Additionally we spent supreme time at Zhongshan Park "中山公園", Beijing, 30th August, 2013 (See Photo 6).

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