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リビング・ランドスケープ:欧州ランドスケープ条約の研究展望

2011-03-05 | Review Articles
表題の学術会議について、日本都市計画学会誌Vol.60/No.1(通巻289号)に報告しました。

2010年10月18日、19日の二日間、フローレンス大学(イタリア)にて表題の学術会議が開催された。この会議はUNISCAPEと呼ばれる、欧州ランドスケープ条約(The European Landscape Convention、以下ELC)実現のための大学ネットワークと、Landscape Europe(ランドスケープに関する研究機関の国際ネットワーク)が、ELC発効10周年を記念して実施したものである。10周年という節目の年にこの会議がフローレンスで行われたのは、ELC(別名「フローレンス条約」と呼ばれる)が、2000年に欧州評議会(The Council of Europe)によってこの地で採択されたことによる。筆者は科研「欧州ランドスケープ条約が各地域の景観・観光政策に及ぼす効果発現の実証的研究」研究代表者:芮京禄(国土交通省国土技術政策総合研究所)の海外調査の一環でこの会議に参加した。

会議は、学術シンポジウムと論文発表会から構成され、会議の期間中、ポスター展示も催された。会議初日は、欧州評議会からのメッセージ、地元トスカーナ地方政府の空間計画局長によるランドスケープ政策の紹介の後、UNISCAPE代表による開会挨拶が行われた。続いて、フローレンス大学のGian Franco Cartei氏から「ELC実施の法的展望」、Landscape Europe代表のMarc Antrop氏から「ELCの研究展望」と題して開会講演が行われた。続いて、ブダペストクラブ代表のErvin Laszlo氏による「人間と生きている自然」、ノルウェー大学のMichael Jones氏より「効果的参加の手法」と題して基調講演が行われた。午後は、2会場(「認識」及び「ランドスケープの同定と類型」をテーマとするパラレルセッション)に分かれ、各セッション5名のスピーカが研究発表を行った。二日目は、「ランドスケープの政策効果」と「参加」をテーマとするパラレルセッションの後、二日間にわたるセッションの結果と提案を持ち寄り全体討議が行われた。最後に、エヴォラ大学のTeresa Pinto Correia氏から「ELCの挑戦:協同研究戦略に向けて」と題して総括講演があり、二日間の全日程を終えた。

会議では、ELCの実現に科学研究がいかに貢献してきたか、欧州のランドスケープの将来を考えるうえで主たるトピックスは何かについて、欧州各国からから集まった研究者らによって活発な議論が戦わされた。ELC10周年と銘打った会議ではあるが、ELCに直結する話題というよりはむしろ、「急速に変化する世界におけるランドスケープ研究への統合的、学際的アプローチを開発するために、ランドスケープに関わる科学的で文化的な側面を深く議論する機会」(会議のリーフレットに記載)と捉えてテーマ設定されている講演や研究論文が目立ったのが印象的だった。また、造園、建築はもとより、経済学や政治学、法学、考古学等々、人文科学系の研究者が一堂に会してランドスケープを巡り議論する状況は、日本の同種の会議では想像しがたく、頗る刺激的であった。

欧州評議会の「欧州ランドスケープ条約」の紹介ページ:
http://www.coe.int/t/dg4/cultureheritage/heritage/landscape/default_en.asp
UNISCAPEウェブサイト http://www.uniscape.eu/
Landscape Europe ウェブサイト http://www.landscape-europe.net/

フローレンス大学での会議風景