こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
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悲しい決断

2011-06-03 23:55:21 | 訪問看護、緩和ケア
看護学部の学生実習の最終日。
カンファで一人の学生さんが泣いていました。

思い出すとよみがえるようで、実習最終日にどんな悲しいことを経験してきたのだろうかと聞いていました。

それは、このところ病状が悪化していて、傍目で見ても苦しそうなS子さんの訪問での体験だったようです。

S子さんは寝たきりの生活が長いのですが、どうしても家に居たいという希望の中で、独居で在宅療養をされていました。
もちろん、ヘルパーさんがしっかり入っていましたし、ご家族も仕事の合間に交代できていました。
定期的に医師も看護師も入っていましたので、病状が落ち着いているときは、夜間の時間も大きな問題もなく過ごされていました。
ご本人は、聴力もなく自分で寝返りさえできない状況ではありましたが、とても強い意志を持っていて、どうしても在宅を希望されていたので、ご家族も多忙の中いろんな形で関わりながらその思いに沿ってきたわけです。
それでも、家に居たいSさんは、いつもより元気なふりをして、もう声にならない声で「ありがとうね」などというので、担当の看護師も毎回切ない思いをしていました。

けれど、さすがにこのところの衰弱は激しく、ご家族も私たちも、彼女を一人残して家を後にするのは辛いとしか言いようがなく、まして一生懸命通っていた息子さんは、とても悩んでいました。

今日訪問すると、さらに病状はひっ迫していて、息子さんと担当看護師と話し合い、やはりもうこの家に一人でおいておく事はできないということになりました。
S子さんも息子さんの頼みに、これ以上迷惑をかけると思ったのでしょうか、あきらめたように了解しました。
それから、救急車を呼んで家を出るまで、彼女は家の隅々まで確認するように見ていたそうです。

そして、S子さんが救急車に乗せられ家を後にするのを、学生さんは一緒にずっと見送っていたそうです。
帰りの車の中は、一度にいろんな思いがわきでてきたのでしょうか、ずっと泣いていたそうです。

とても好奇心があって、いろんな質問をしたり、積極的に訪問についてきた学生さんです。
いろんな事を感じたのでしょう。

カンファレンスでも言葉にならないなかで「もう、あの家に帰ってこれないのだと思って・・」とまた涙。

ずっとS子さんの思いにこたえるために、ぎりぎりまで家にいました。
でも、本人だけの思いだけでは、やっぱり無理なこともあります。
病床にある最愛の母を、たった一人で置いておかなければならないご家族の気持ちも、汲みとらなければいけないと思います。
どこでそれを決断するのか、タイムリミットをいつとするのか。
受け入れてくれる病院の都合もあります。
ご家族が後悔しないよう、ご本人も納得できるよう、どこかで決めなければならないのです。

「もう、この家に帰れないかもしれない。」というのは、きっとS子さんもわかってたのだと思います。

私たちは、いろんな形で患者さんを見送ります。

本当にたった一人で亡くなって、誰ひとりそばにいる人のなかった亡骸を乗せた霊柩車が、昼下がりの乾いた道に消えていくのを見送ったこともありました。
荷物をたくさん載せたワゴン車に乗せられて、施設に入る患者さんを見送ったこともありました。

別れは、悲しいです。
もう、逢う事はないだろうと思えばなおのこと・・・。
想いでの詰まった家を、後にする気持ちを思えばなおのこと・・・。

学生さんは、実習初日と、最終日の今日S子さんを訪問し、今までの流れをある程度知っていたので、なおさら感じることがあったのでしょうね。
でも、ただ悲しかっただけで終わらないで、これから患者さんがどんな思いで入院してくるのか、家に帰ると言う事をどんな思いで切望しているのかということも考えて向き合えるようになってほしいなと思います。
短い在宅実習のなかで、とても貴重な経験だと思います。

一人一人にそんな思いがあることを、ずっと忘れないでほしいです。