こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
在宅緩和ケアのお話や、日々のあれこれを書き留めます。
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手・・

2011-03-19 23:29:52 | 訪問看護、緩和ケア
病床の患者さんと向き合うとき、私は手を握ります。
家族を支えようとするとき、思わず肩を抱いてしまいます。

手は、不思議です。

私が新人看護師の時、当時の呼吸器内科の医師が、亡くなろうとしている患者さんを前に、教えてくれたこと。
「人の手はすごい力を持っているんだよ。」
両手を擦り合わせて、ほとんどフラットになった心電図を見ながら、その手のひらを胸に当てると、少しの間また鼓動が始まりました。

「ね。これを手当っていうんだよ。」
「たとえばおばあちゃんの患者さんが、膝が痛いって言ったら、そっと手を当ててごらん。きっと痛みが楽になるよ。それが、手当だ。」

もちろん、心電図の関しては電気的な刺激なのだとは思いますが、それは新人の私には、未だに忘れないほど衝撃的な場面でした。

「人の手はすごいんだよ。人を治す力があるんだよ。」ぽってりした身体に眼鏡をかけたいつもひょうきんなドクターでしたが、、救急病棟だった私は(当時は救命センターなんてなかった。)そんな言葉を新人ナースにかけてくれるそのドクターが大好きになりました。

昨日、初めてお会いした患者さん。

訪問するとひどく痩せて骨ばった手を、胸の上で組んでうとうととされていました。

ご挨拶をすると、薄く目を開け「やあ、元気な人が来たね。僕もすごく元気が出てきたよ。」とうれしい言葉が返ってきました。

胸の上で組まれた指は蝋のように白い部分と、紫色の混ざった色をしていました。

SPO2はLOの表示も出ないほど冷たかったので、私は自分の手のひらをその手に重ねました。
氷のように冷たい手でした。

「気持ちいい!温かいね。なんてあったかい手なんだろう。」
そういって、私の手を強く握り返してきました。

私は、両手で手首から指先を包みながら「私は、お肉が人より多い分温かいんです。」と冗談交じりにさすっていました。
彼の冷たい手は少しずつ温もりが戻ってきたようで、逆にかれは私の前腕にまで手のひらを押し付けて、暖を取るように手を離しません。
「温かいなぁ、気持ちいいなぁ。」

奥様が「あなた、それじゃあ看護師さんがお仕事できないでしょう。」と言っても、かれこれ10分ほどそうしていました。
やがて、肌の色が戻ってくると「ありがとう。もういいよ。」そう言って手を放してくれました。
(SPO2が85%まで測れるようになりました。)

私のエネルギーがまるで、手のひらを通して、相手に入っていくような気がしました。
それは少しも嫌なことではなくて、なんというか、本人の気の済むまで触らせてあげたいという思いになっていたと思います。

それから彼は、今はどこも苦しくない事、海を見に行きたい事などを話してくれました。

口渇が強いようで、氷片を勧めると「これはいい。美味しいなぁ。うん気持ちいい。もう一個。」と何回もお代わりをしながら、お話をしてくださいました。

手は、人の思いを伝えるのでしょうか。

手を握りながら、その指に込められた力の強さでも、思いが伝わります。

『アナタノチカラニナリタイ』 時にそう思いながら。

『ソバニイルヨ。』『ハナシヲキクヨ』時にそう思いながら。

そして、じっと耳を澄ませば、患者さんの本当の気持ちを聞くことが出来たりするのです。

もし、新人の看護師さんや介護士さんで、どうやって患者さんと接したらよいかわからないと悩んでいる方がいたら、手を握って、なるべく近くで、じっと耳を傾けてみてください。

きっと、気持ちが通じるはずですよ。