(「ドイツ兵士の見たニッポン」の著者Hさんからの投稿です。)
「世界の民よ、兄弟たらん」
平和を求める祈りの音楽「第九」
かつて憲法学の大家・宮沢俊義博士は「憲法第9条の精神は、『世界の民よ、兄弟たらん』と歌い上げるベートーヴェンの『第九』に通じているのだ」と語られたそうです。「第九」は1824年5月7日にウィーンで初演されて以来198年間、苦難の中で平和を求める祈りの音楽でした。昭和19年には学徒出陣に赴く東京大学の学生が演奏会を開いた、といった逸話も、以前このブログでご紹介しました。
年末はなぜ「第九」なのか? - 住みたい習志野
ベートーヴェンが「第九」の作曲に本格的に着手したのは、ナポレオンによる戦乱の中でした。同時に作曲が進められた「荘厳ミサ曲」の中では、ナポレオン軍の軍鼓や大砲の響き、そして「我らに平安を与えたまえ」という祈りの叫びが聴かれます。
そして、ナポレオンに続くメッテルニヒの言論弾圧の中で、「第九」は産ぶ声を上げたのでした。
(荘厳ミサ曲)
9‘06“~9’50” 12‘40“~13’20” 14’55”~15‘30“ あたりに、進撃してくるナポレオンの響きと平和を求める人々の悲痛な祈りが聞こえてくると思います。随所に「パーチェム」「パーチェム」と聞こえるのが、ラテン語で「ピース」「ピース」と言っているわけですね。「主よ、我らに平安を与えたまえ」と歌っているところです。
全曲をお聴きになりたい方はこちらをどうぞ。
来日中のウクライナ管弦楽団・合唱団
今、戦乱のウクライナから、ウクライナ国立歌劇場管弦楽団・合唱団が来日しています。
演奏曲目は「第九」。昨日の横浜を皮切りに、29日・30日は新宿で演奏されるそうです。
(テレ朝ニュース)
一部の団員は戦禍のために来日を断念し、日本の演奏家が急遽応援に入って演奏会開催に至ったとも伝えられています。戦火の中に家族や同僚を残してきた彼らのメッセージには、真剣に耳を傾けなければならないでしょう。また、それを受け止めたら、何か自分なりに行動を起さなければおかしいでしょうね。
「第九」が、かつてナチス・ドイツのプロパガンダに使われた
こうした「第九」の精神が、みごとに踏みにじられたことがかつてあります。ナチス時代のドイツでは、ドイツ芸術の至高の名曲として戦意高揚のプロパガンダに巧妙に使われたのです。大指揮者ヴィルヘルム・フルトヴェングラーやハンス・クナッパーツブッシュが協力させられたのでした。
フルトヴェングラー 昭和17年(1942)4月19日のヒトラー誕生日前夜祭
クナッパーツブッシュ 昭和18年(1943)同
戦後、がれきの山の中からドイツの音楽界が再出発したとき、二度とこのような利用を許してはならないと真剣な議論が行われたそうです。
習志野市のその場限りのパフォーマンスとは次元も切実さも違うウクライナの「第九」
ウクライナ戦争が勃発して、習志野市役所はさっそく、庁舎最上階を夜間、青と黄のウクライナ・カラーにライトアップしてみせました。
しかしその後、習志野市が他市に先駆けてウクライナ救援に何か特別のことをしているという話はさっぱり聞きません。結局、俗受けを狙ったその場限りのパフォーマンスだったのでしょうか?
去る18日には現在の習志野文化ホールとしては最後の「習志野第九演奏会」が行われ、市長さんも合唱団の一員としてステージに立たれたそうです。どこまでドイツ語の歌詞を理解して歌われたのか知りませんが、ウクライナ国立歌劇場が「第九」に込める思いとは、次元も切実さも違うものだったでしょうね。来春に迫った市長選のためのパフォーマンスだとは思いたくないです。
日本ではすっかり、年末の「大衆音楽」になってしまったベートーヴェンの「第九」ですが、その原点である「祈り」を置き忘れた演奏は空しいです。全聾のベートーヴェンは、そんなことに精魂を傾けたわけではないのです。
「第九」にこめられたウクライナの声、ロシア国内で弾圧されている人々にも届け
ウクライナから来日して「第九」を歌ってくれた、という事実は、200年に及ぶ人類の第九演奏史の中に残すべきものでしょうね。そして我々は「日本は平和でよかった」などと高みの見物を決め込むのではなく、彼らのメッセージに対して、何か自分なりの行動を起こすべきでしょう。
この声が、ロシア国内でプーチンに弾圧されている人々にも届くことを念じたいと思います。
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