隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1164.死の枝

2011年06月18日 | 短編集
死の枝
読 了 日 2011/06/11
著  者 松本清張
出 版 社 新潮社
形  態 文庫
ページ数 286
発 行 日 1974/12/16
ISBN 4-10-110932-X

 

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本清張氏の作品をこうして読むたびに、昭和30年代の初期にむさぼるように読んでいた時期を思い出す。というようなことは毎回清張氏の作品のつど書いてきたが、それでも清張氏の作品は膨大な数に上るから、読み耽ったとはいえ、その数はたかが知れてる。読んでない方が圧倒的に多いだろう。
本書もその読んでない方の1冊だ。実はこの「死の枝」(当初は「十二の紐」とされていたのを11編となって、後に改題)と題された短編集は、かなり以前から読みたいと思っていた本なのだ。この中の1篇「家紋」は1990年と2002年の2度にわたって、テレビドラマになっている。僕が見たのは2002年にBSジャパンで放送された方だが、記憶力のあいまいな僕にしては珍しく、そのいくつかの場面が心に残っている。
多分それは、優れた脚本や、原作に込められた味わい深い雰囲気を忠実に再現した演出、さらにはその演出に従った役者さんの演技にもよるのだろう。
こういうことを書くたびに何時ものことながら、僕のミーハー的資質を暴露しているようで、気恥ずかしい想いもあるのだが、いまさら気取ったってどうなるものでもない。
そう、そのドラマのエンド・クレジットで原作が「死の枝」より、となっていたことでこの本を知ったのだ。

 

 

今、そのドラマの場面を思い起こしながら読んでみて、気負いのない穏やかに進められる文章が、不気味な味わいを醸すことに驚く。ドラマの脚本は多くの清張作品を手掛けている(たぶん、ほとんどのドラマ化に際し、と言った方がいいかもしれない)大野靖子氏だ。
彼女の脚本は、この短編を無理なく2時間ドラマに仕上げていたことにも、感嘆する。小説は被害者の娘が大学生になった時に、おぼろげながら両親の亡くなった事件の真相に気付くところで終わっているが、ドラマはその先までを追って描写する。主演の岸本加世子氏や、大地康雄氏、吹越満氏らの好演が思い起こされる。
前にも書いたが、清張氏の短編には「さて、お集まりの皆さん・・・」といった名探偵が謎解きの演説を打つ場面は排して、スパッと切り落とすかのような終盤を迎えているところに、魅力がある。特にこの1篇では、犯人の動機に至る部分までもが、読者の想像にゆだねるかのごとき様相を示す。
もちろんドラマではそういう訳にはいかないから、そうした状況を巧みに見せてはいたが。刑事コロンボでおなじみの、倒叙ミステリーの形式を思わせるストーリーは、ここに収録されたほとんどに当てはまり、コロンボをそこに配置することもできるだろう。

 

 

んなことを考えると、またこれまでとは違う形のドラマができるかもしれない。全く関連のない短編作品が一人の主人公を加えることによって、ミステリードラマのシリーズが生まれる可能性もあると思うと、面白いではないか。
ドラマといえば、この作品の中で、僕の知る範囲では、先述の「家紋」の他には、「年下の男」と「不在宴会」が、テレビドラマになっている。
「年下の男」は1988年にKTV(関西テレビ)で制作され、関東ではフジテレビ系列で松本清張サスペンスというシリーズの中の1編として放送された。小川真由美氏の主演で年下の男と深い関係になった女の悲劇が描かれる。
うろ覚えだが、このシリーズは1クールで2シーズンに亘って制作されたのではないかと思う。清張ドラマは、割と当たり外れが少なく、このシリーズも1時間ドラマでは結構好評だったと記憶している。
「不在宴会」の方は、比較的新しく、2008年にBSジャパンで、三浦友和氏の主演で2時間ドラマとなっている。2時間ドラマといっても、CMを除いて正味90分前後なので、短編のドラマ化には適していると思うが、多くは長編も2時間に収めようとするから、どうしても中途半端な言葉足らずのような感じになってしまうのが残念だ。
ドラマの話ばかりになったが、この作品集はどれをとってもドラマになるという思いがする。

 

初出(小説新潮)
# タイトル 発行月・号
1 交通事故死亡1名 1967年2月号
2 偽狂人の犯罪 3月号
3 家紋 4月号
4 史疑 5月号
5 年下の男 6月号
6 古本 7月号
7 ペルシャの測天儀 8月号
8 不法建築 9月号
9 入江の記憶 10月号
10 不在宴会 11月号
11 土偶 12月号

 

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