降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★「北海タイムス物語」を読む ㉚

2016年01月10日 | 新聞

( きのう1月9日付の続きです。写真は、本文と関係ありません )

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人デスクがいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第30回。

( 小説新潮2015年11月号 292ページから)
ときどき整理部や地方部の人が立ちあがって廊下へ出ては階段を下りていくが、みな長い物差しを手に持ったり、ズボンの後ろポケットに差したりしていた。
耳に鉛筆やボールペンを挟んでいる人までいて、記者というより畳屋か桶屋か襖屋か何かの職人❶みたいだ。
ほとんどがサンダル履きで、若手はジーンズにくたびれたダンガリーシャツ❷、ベテランは古いスラックスにくすんだ色のポロシャツ姿で、誰もネクタイをしていない❷のが余計にホワイトカラーには見えず、格好悪いことこの上ない。
河邑太郎が内ポケットから煙草を出し❸ながら溜息をついた。
「なんか寂しい光景だな。地方紙ってこんなものなのか。昨日の金玉コースも安上がりの歓迎会だったし」
「おまえは声がでかいんだよ。いい加減にしろ」
武藤達次が小声で強く制した。



新入社員・野々村くんが見た整理部は——。
❶耳に鉛筆や……何かの職人
「職人」は、整理記者へのほめ言葉かしらん(でもないかwww )。
整理マンは、赤鉛筆やボールペン&サインペン、サシ(倍尺)、モニターゲラ(喫煙者はたばこ&ライターも必携ですね!)などを制作局に行くときに必要なので、ペンぐらいは耳にも挟まないとならないのだ(中には電卓を携行する人も!)。
……しかし畳屋、桶屋、襖屋の職人さんには見えないと思うよ。

❷ほとんどがサンダル履き……誰もネクタイをしていない
「サンダル履き」は、整理記者が社外に一歩も出ない内勤だから。
実は、ここの「ベテランは古いスラックス」というところ、描写が細かいのだ。

昔、活版組み版時代の新聞社編集局で、僕は見た!——
出社後、夕方の編集局でいきなりズボンを脱いでパンツ一丁になっていた整理部先輩や大先輩がいてビックリした(目の前にバイトの女のコがいても脱いじゃう←今ならセクハラ)。
そして、ロッカーに入れてあった汚い〝古いスラックス〟に履き替えていた。
小さな声で整理部デスクに聞いた。
「あのぉ~、なぜズボンを履き替えるんすか?」
「あん? 大組み台の黒インクで汚れるからだよ。だから、整理は格好つけて白いスラックスなんか履いてこれないの!」
確かに、活版組み版だから、大組み中にインクがベタベタつくのだった……なるほど。
*社内でズボン履き替え整理マン=僕は同じ話を複数の新聞社の整理部知人に聞いたから、活版時代は全国的な事例だったのではないか。

❸内ポケットから煙草
この小説の時代設定は1990(平成2)年だから、社内喫煙がうるさく言われていない頃(見出しがつかない時の、原稿が来ない時の、机でプハァ~~はおいしい)。

ちなみに、
新聞用字用語集「記者ハンドブック」では、
たばこ(煙●草●)タバコ[植物]、
たばこ[製品]紙巻きたばこ、刻みたばこ、葉タバコ
[注]固有名詞の「葉たばこ審議会」に注意。

とある。
だから、新聞表記なら
「内ポケットからたばこ」
なんだけど、著作物なのでかまいませんよ(←エラそうだな)。

———というわけで、続く。

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