降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★中日はセンチュリー=「北海タイムス物語」を読む (134)

2016年07月04日 | 新聞

(7月3日付の続きです。写真はイメージです)

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目——の第134回。

【小説「北海タイムス物語」時代設定と、主な登場人物】
1990(平成2)年4月中旬。北海タイムス札幌本社ビル。
▼僕=北海タイムス新入社員・野々村巡洋(ののむら・じゅんよう)。東京出身23歳、早大卒
▼萬田恭介(まんだ・きょうすけ)=北海タイムス編集局次長兼整理部長。青学英文科卒45歳


【 以下、小説新潮2016年1月号=連載④ 469ページから 】
「こうやって糊で貼って大組するシステム、切り貼りって言うんだけど、うちみたいな県紙レベルの地方紙とスポーツ紙が採用してる。
朝日や読売なんかの全国紙ではスーパーコンピュータを使った大組をやってる。ブロック紙の道新、中日新聞、西日本新聞もそうだ。
俺は他社の見学に廻った❶が、朝日のコンピュータシステムにはネルソン、中日にはセンチュリーと名前がついてる❷。
この切り貼りのほうが優れている部分もたくさんあるんだ。文字を斜めに流したり、見出しを斜めにしたり、いろんなことが簡単にできる。だからスポーツ紙もあえてこのシステムでやってる❸んだ。
あと漫画雑誌もこのシステム。吹き出しとかこれで作ってる」
「はあ…………」
「夕刊のとき『早く降ろせ!』って騒ぎになってただろ。ここで大組ができて刷版にまわすことを降版っていうんだけど、文字通り〈降ろす〉っていうのは下の階に降ろしていくことだ。
新聞社っていうのは整理部のベルトコンベアみてもわかるように、ホット時代から重力を利用してる。
だから工程が後ろに行くほど下の階に物が流れていくように建物ができてるんだ。
ほら、こっち来てみろ。この機械で大組全体を上から写真に撮る。レントゲンの機械みたいだろ」
たしかにレントゲン台に似ている。



❶見学に廻った
「廻った」。
校閲部は「まわる」という語句には素早く反応する(と思う)。
新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集 第13版」では、
まわる(周る、廻る=漢字表にない音訓)→回る
——回る、に統一しましょうとしているけど、著作物なのでこのまま行ってください。

❷朝日のコンピュータシステムにはネルソン、中日にはセンチュリーと名前がついてる
各社の初期CTSシステム名は、次の通り。
▽日経新聞=アネックス
▽朝日新聞=ネルソン
▽読売新聞=パーフェクト
▽毎日新聞=MARS
▽中日新聞=センチュリー
▽富士通系=ロジックス
——読売のPERFECTってカッコいい。

さらに、ホストでは
▽富士通=毎日新聞、読売新聞、西日本新聞、北國新聞、京都新聞など
▽IBM=日経新聞、朝日新聞、中日新聞、北海道新聞の2大ブロック紙のほか、徳島新聞、大分合同新聞など
——に分かれた(いずれも1980〜90年代)。

❸この切り貼りのほうが優れている部分もたくさんあるんだ。文字を斜めに流したり、見出しを斜めにしたり、いろんなことが簡単にできる。だからスポーツ紙もあえてこのシステムでやってる
——あくまで、1990年代の話。
たしかに当時のCTSはグラフィックや画像処理が遅く、手の込んだ組みかたはできなかった。
例えば、写真と文字凸版重ねの場合……
▽切り貼り=切って貼るだけ→3秒!
▽CTS=画像処理遅い遅い→20分!
これでは降版時間に間に合わない。

ただ、この切り貼りには2種類あって、
①LDT(レイアウト・ディスプレー・ターミナル=編集組み版端末)で大組みしてから、全面印画紙を出力→単品で地紋や写真を貼りこむ
②LDTが無い。記事一本一本・写真一枚一枚を台紙に貼りこむ(北海タイムスの組みかた)
——があった。
文中「スポーツ紙もあえてこのシステムでやってる」は①のことで、あくまでフルページCTSまでの過度期システム。
北海タイムスの②は、複数の版をとらない新聞向きだったと思う。

————というわけで、続く。

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