Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「ポケットの中のレワニワ」伊井直行著(講談社)

2010-01-20 | 柴田元幸
「ポケットの中のレワニワ(上・下)」伊井直行著(講談社)を読みました。
レワニワっていう生き物知ってる?
こどものとき父親から聞いた不思議な生き物の話、レワニワ。
コールセンターの派遣社員の俺、アガタ。昔の同級生で現在は職場の上司のティアン、親会社の社員・徳永さん、コヒビト、偏頭痛持ちの三浦さん、SEXフレンドあみー。
俺をとりまくさまざまな人々の生きるかたちとレワニワを描いた物語です。
柴田元幸さんが雑誌モンキービジネスのサイトで「2009年の一番の小説」とすすめていたので読みました。内容について触れますのでご注意ください。

人の願い事を聞いて人間になり、ついには他の人を食らうようになる、トカゲのような生き物レワニワ。レワニワに(他者に)かなえてもらおうとする自分の欲望はふくらみつづけて、ついには他の人が食われても(食い物にしても)なんとも思わないようになる、という比喩のようです。
アガタと同じ姿をとったレワニワ。「幼生」を「妖精」と誤植したり、レワニワはアガタの分身そのものです。
アガタが殺したかったのは、レワニワ(自分のかなえられない欲望)だったのか、それとも過去も含めた自分自身(好きになれない現在の自分)のどちらだったのでしょうか。
アガタはレワニワを殺しきれず、ついに自分の願いを放棄します。

徳永さん(小説の登場人物の中で、私は彼が一番好きです。)の言葉も心に残ります。
「俺は願い事はしない。神様、仏様でも。まして、そのなんだか分かんないレワニワなんかには・・・。自分で何とかしたい」
「願い事、徳永さん、ありません?」
「自分でしたいと思うことについては、自力でやりとげたい」

「自分はこうありたいのになぜなれない?」という葛藤を、自分の頭で考え、自分の足で歩いていく。特別なヒーローではない、一介のサラリーマン。
でもレワニワに囚われる事はない徳永さん。

アガタは一大決心で貯金をはたいてベトナムに行き、ティアンに自ら別れを告げます。
でも結果的にはティアンの方から心をきめて帰国し、アガタの横を歩くようになりました。

アガタがティアンに語った科白。
「変わらないでいることは、すごく難しいよ。わたしたちが変わらなくても、世の中が悪くなることだってある。」
「そうなったら、なったで考える。何とかするよ」

「何とかなるよ」ではない、自分の足で歩き始めたアガタの変化を強く感じました。

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