Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「風神秘抄」荻原規子著(徳間書店)

2007-11-20 | 児童書・ヤングアダルト
「風神秘抄」荻原規子著(徳間書店)を再読しました。
坂東武者の家に生まれた16歳の草十郎は、ひとり野山で笛を吹くことが多かった若者。彼は平安末期、平治の乱に源氏方として加わります。
源氏の御曹司・義平に付き従い京から落ち延びる途中で、草十郎は義平の弟、幼い源頼朝を助けて、一行から脱落します。そして草十郎が再び京に足を踏み入れた時には、義平は、獄門に首をさらされていました。
草十郎はその六条河原で死者の魂鎮めの舞を舞う少女、糸世に目を奪われます。自分も笛を吹き始める草十郎ですが、二人の舞と笛には異界を開く強大な力がありました。二人の特異な力に気づき、自分の寿命を延ばすために利用しようとする時の上皇・後白河。
一方草十郎は、自分には笛の力だけでなく、「鳥の王」と言葉を交わすことができる異能が備わっていることに気づきます。

すでに一度読んでストーリーを知っているはずなのに、何回読んでも荻原さんの作品にはそのたびにひきこまれてしまいます。
天上から降る花、したたかな上皇、鳥の国。
そして荻原さんの描く作品はいつも脇役もとても魅力的。
この作品で私が好きなのは日満。僧侶なのに(だから?)女性に弱いあたりがなんだかかわいいです。
最後熊野で上皇と草十郎が対峙する場面はひりひりとしてかつ神秘的。

「また会う日まで」ジョン・ア-ヴィング著(小川高義訳)新潮社

2007-11-20 | 外国の作家
「また会う日まで(上・下)」ジョン・ア-ヴィング著(小川高義訳)新潮社を読みました。
01年に発表された「第四の手」以来4年ぶり、アーヴィング待望の最新長編小説です!
逃げた父ウィリアムは教会のオルガニスト。刺青師の母アリスは幼子ジャック・バーンズとともに彼の後を追い北海の国々へ。
父を知らぬ息子は、やがてカナダ・トロントの元女子高セント・ヒルダ校に入学します。そこでであった6年生の女の子エマ・オーストラーとの出会い。
その後さらにジャックは全寮制の男子校レディング、そして大学エクセター校へ。
さらにジャックは俳優になりハリウッドで活躍します。
この後ネタバレありますので、未読の方はこの先ご遠慮ください。



北の冷たい空気にどっぷりつかって読んでしまいました。
北欧が舞台になる場面、作品では決して多くはないのですが(ほとんどはジャックが暮らしているカナダかアメリカが舞台)、印象的なできごとが起こる場面はほとんど北ヨーロッパなので、ジャックが(そしてウィリアムがアリスが)石畳の道を歩いている場面が目に浮かびます。
冒頭、アーヴィングらしい風変わりな人物設定からまずしびれてしまいました。
体中に楽譜を刺青したオルガニスト、ジェリコのバラを彫る女性刺青師。
ジャックが幼きときにめぐった父を探す旅、そのはしばしで感じた違和感。
(母は小さい兵士のどこに刺青したの?お父さん僕の姿を見たことあるの?など・・・)
ジャックが再び30年ぶりに北欧の地をめぐりそこで改めて知った父の姿。

一番せつなかったのはオランダでジャックを見送る父ウィリアムが泣き崩れたこと、そしてそれをジャックが知ったシーン。
父は深く自分を想っていてくれたのだ、
自分は本当はいくらでも父に会うことも愛されることもできたはずなのだ、
でもそれをずっとすることができず、父を思い違いしていた。
自分の「女癖」を父の遺伝子のせいにし、自分は父と同じで子供を愛せないと思っていたが、すべて自分の(母の意図による)思い込みのせいだった。
こんな辛くせつないシーンがあるでしょうか・・・。

妹ヘザーとの邂逅はあまりに幸せすぎるような気がしましたが、ジャックは今まであまりにも長く孤独を抱えてきたんだから、これくらいのハッピーはあってほしいので、読者としては心温まるいい場面でした(とくに飛行場の読唇術の場面!)。
最後、ジャックがお父さんに会えて本当によかった。
レスリングの試合を見に来てくれていたと聞いたときのジャックの感動を思うと私も胸が熱くなりました。
そして父の病を知ったジャックが「でも父さんは父さんだ」と今まで憧れていた以上の愛をそそごうという決意を予感させるラストもとてもよかったです。

訳者あとがきでは本国アメリカではこの作品は賛否両論だそうで「長ったらしい」という意見もあるとか。
確かに私もジャックがセント・ヒルダ校を一年一年進級していくあたりはちょっと長いなと思いましたが、でもこういうのがないとアーヴィングじゃないという感じもします。長編こそがアーヴィングの独壇場。アーヴィングの作品を読むと、いつも人生は一本の筋の通ったストーリーだけじゃないと感じさせてくれるのです。

「爆笑問題とウルトラ7」の中にあるインタビューにはジェシカ・ラング主演の「サーカスの息子」(もう完成しているんでしょうか?不明)の脚本を書き上げ、「マイ・ムービー・ビジネス」というノンフィクションを出版した後はもう映画に携わる予定はないとか。
インタビューは99年当時のものですから今アーヴィングがどんな気持ちでいるかはわかりませんが、個人的にはこの作品ぜひ映画で見てみたい!
シュワルツネガーとオスカー像を抱えたジャックがトイレで会うシーンが見てみたい。主演はジョニー・デップがいいけど、ちょっと年がいきすぎかなあ?