「最後の物たちの国で」ポール・オースター著(柴田元幸訳)白水社を読みました。
住む場所も食物もなく、盗みや殺人がもはや犯罪ですらなくなった国に、アンナは行方不明の兄を捜して旅立ちます。この作品はアンナが旧友にあてて、自分の歩んできた道を書簡にしたためる形式で描かれています。
常に死を意識しながら、一分たりとも気を許せない日々。すべてが刻々と姿を変え、生きる術さえ見つけられずなりゆきにまかせるしかない国。
架空の舞台でありながら現実の国を描いたような、リアリティのある作品です。
作中でアンナが「生きるためには自分を殺さなければいけない。」と語る場面があります。このパラドックス・・・。それでも人は生きつづける。生き延びる。
このような国で生きることを思えば、私の現実世界での悩みなどなんてたわいもないことだろうと思ってしまいます。
一番心が痛んだのはアンナの赤ちゃんが流産し、サムと離れ離れになった場面。
オースターは重苦しい世界を描きながら、決してそれだけではなく温かい子供時代の記憶や、時折おとずれる他人とのやさしい邂逅も巧みに織り交ぜています。
それがこの作品を単なる「世界への嘆き」にしていない大きな理由ではないかと感じました。
住む場所も食物もなく、盗みや殺人がもはや犯罪ですらなくなった国に、アンナは行方不明の兄を捜して旅立ちます。この作品はアンナが旧友にあてて、自分の歩んできた道を書簡にしたためる形式で描かれています。
常に死を意識しながら、一分たりとも気を許せない日々。すべてが刻々と姿を変え、生きる術さえ見つけられずなりゆきにまかせるしかない国。
架空の舞台でありながら現実の国を描いたような、リアリティのある作品です。
作中でアンナが「生きるためには自分を殺さなければいけない。」と語る場面があります。このパラドックス・・・。それでも人は生きつづける。生き延びる。
このような国で生きることを思えば、私の現実世界での悩みなどなんてたわいもないことだろうと思ってしまいます。
一番心が痛んだのはアンナの赤ちゃんが流産し、サムと離れ離れになった場面。
オースターは重苦しい世界を描きながら、決してそれだけではなく温かい子供時代の記憶や、時折おとずれる他人とのやさしい邂逅も巧みに織り交ぜています。
それがこの作品を単なる「世界への嘆き」にしていない大きな理由ではないかと感じました。