Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

高千穂鉄道、「全線復旧」断念。

2005-12-10 20:27:14 | 鉄道(地方・専用線など)
「高千穂鉄道廃線」。
この速報が流れてから一夜が過ぎ、続報が入ってきた。
9日時点の状況は「全線復旧が断念された」ものの、「全線廃止」の決断が下された訳ではない事が明らかになってきた。
結果的に速報の内容はミスリードという事になるが、依然として状況が極めて厳しい事に変わりはない。

「TR全線復旧を断念 部分運行は20日判断」(宮崎日日新聞・12/10)
「台風被害の3セク・高千穂鉄道、全線復旧を断念」(読売新聞九州発・12/10)

両社の記事要旨は次のとおり。
○高千穂鉄道は9日、延岡市で取締役会を開催し、延岡・高千穂間の全線復旧を断念する事を全会一致で議決した。
○観光客が多い槙峰・高千穂間約20kmを復旧するか、全線廃止するかについては、20日に開催される次回取締役会で結論を出し、27日の株主総会で最終的に方針が決定される予定。
○取締役会では11月19日に開催された取締役会で明らかにされた、「今後10年間で災害復旧費を含めて約40億円の資金が必要」とした全線復旧時の試算を元に検討を行い、宮崎県と沿線自治体の取締役ら8人が「全線復旧に26億円を掛けて全線復旧したとしても毎年0.7億円の赤字が出る。経営継続は難しい」として全線復旧を断念した。
○槙峰・高千穂間を部分復旧した場合の今後10年間の収支予測も明らかにされた。
 同区間の2004年の利用者実数を基に試算した結果、普通運賃と通学定期代を路線バス並に値上げしたとしても年間0.2~0.3億円の赤字が発生する上、路線復旧3.9億円や車両整備等の経費として13.9億円が必要になる。これらの状況から10年間の収支は2.4億円の累積赤字が発生するものとしている。
 なお、日之影温泉・高千穂間12.5kmについては、「利用者が観光客中心になったとしても、区間が短く需要が見込めない」として部分運行の検討対象から除外された。
 部分復旧が実現した際の問題点として、収支の他に線路がなくなる延岡市と北方町は第三セクターの枠組みから外れるため経営形態をどうするか等の新たな課題も発生する。

 9日の取締役会の内容を見ると、第一報に見られた「全線復旧断念=廃線」という単純な議論はなされていない。まだ部分復旧に向けた極めて僅かな可能性を残していると考えて良いとは思う。

しかし・・・。
 「全線復旧断念」という取締役会の結論を受けて、このような記事が掲載されていた。
「高千穂鉄道が全線復旧を断念、沿線住民から惜しむ声」(読売新聞宮崎県版・12/10)

その中に、宮崎県知事が9日の一般質問で高千穂鉄道について答弁した内容があった。要旨は次のとおり。
○JRからの転換交付金などを基にした高千穂鉄道の経営安定基金(約3.5億円)を昨年度と今年度の赤字補てんや、流出した2鉄橋の橋脚をはじめとする残がいを撤去する費用に充当する必要があり、赤字補てんと残がい撤去で、基金はほとんど底をつく見込み。基金を被害復旧に回す余裕はない。
○県地域生活部(ここの部長が高千穂鉄道の取締役に就任している)によると、高千穂鉄道の昨年度赤字は約0.7億円、今年度赤字見込みは約0.9億円、鉄橋残がい撤去費用は約1.8億円の計3.4億円で、基金残高とほぼ同額。

高千穂鉄道の今後を左右するのは筆頭株主である宮崎県の意向だと見ていた。
しかし、知事答弁の内容を見ると部分復旧は全く考えていない事が理解できる。
昨日の時点では「全線廃止」には至らなかった。
しかし、筆頭株主の意向が全線廃止論にある事が見えている以上、高千穂鉄道の行く末は半ば明らか。
「部分復旧について次回の取締役会で結論を出す」としているが、それは存続を求める株主に対する「ポーズ」と見るべきだろう、そう考えている。
また、部分復旧論で発生する延岡市と北方町が第三セクターの枠組から離脱する問題についても、真剣に検討されている痕跡が記事上から見えない。
今更「問題が発生する」と言われても枠組みが変化する可能性は部分復旧論が出てきた時に検討すべき課題であって、この時期に持ち出す話ではない。

・・・と書いたように、宮崎県が部分復旧に消極的な姿勢を隠さない事が明白な事から残念ながら高千穂鉄道の将来はないと考えざるを得ない。
高千穂鉄道の話をする際に、福井県の越美北線の例が持ち出されるが、明暗を分けたのは福井県と宮崎県の公共交通に対する考え方だった。
前者は「冬季の道路事情等を考えれば既存の公共交通が果たす役割は大きい」として費用拠出を決断し、後者は消極的な事が明白。
これでは結末は見えている。

話を変える。
全線廃止に至った場合、長期的な観点から次の問題点が生じると考えているが、宮崎県は「行政として」どう対応するのだろうか。

・観光資源としての高千穂鉄橋の消失に伴う高千穂地区の「観光地」としての価値の低下
・「観光地」の価値低下に伴う求人需要の低下
・求人需要の低下による延岡市などへの人口流出
・過疎化の進展

「地域における公共交通をどうするか」というのは、極言すれば「地域経営をどうするか」の一部の議論に過ぎないと思っている。
それは地域振興や福祉の問題にも結びついている。
単純にバスに置き換えればそれで良し、というものではない。

宮崎県は赤字の第三セクター鉄道廃止が地域に与える「長期的な」影響をどう考えているのだろうか。
「廃止してから考える」のか、「今考えている」のか。
多分前者、というのが答えになるのだろう。

再三繰り返しているように、高千穂鉄道の存廃に関する結論は現時点で留保条件がついているものの、半ば出かかっている。
しかし、今後の事を考えれば議論自体は無意味ではない。
そういった意味からも高千穂鉄道に残された僅かな時間でどういった議論がなされるか関心を持って見守ろうと思う。


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