Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

黒部ルート踏破記。(その6)~上部専用鉄道で仙人谷へ~

2005-11-19 00:13:15 | 鉄道(地方・専用線など)
いよいよ、待望の「列車」の旅が始まる。
今いる黒部川第四発電所の標高は869m。
ここからバッテリー機関車が牽引するトロッコ列車に乗り、延長6.5km、所要時間にして32分を要して標高800mの欅平上部へ向かうことになる。

このトロッコ列車が走る線路は「上部専用鉄道」、通称「上部軌道」と呼ばれている。正式には「関西電力(株)工事用資機材運搬装置」と言う。
この正式名称からもお判りのように、通常は黒部川沿いに建設された関西電力の各発電所への人員輸送と工事用資材の輸送に使用されている。

我々の目の前にはそのトロッコ列車が停車し、乗車を待っている。

客車は黒部峡谷鉄道で使用されている物より一回り小さい二軸車。
この客車に参加者は身を寄せ合って乗車する。

周りを見回すと、ここが一人前の「駅」である証拠に駅名標と時刻表が掲示されている。厳密に言うと「乗降施設」という事になるが、ここでは「駅」と標記する。

これらを見ていると、普通の地下駅とそう異なる所はないと思うが、ここは名にしおう「黒部ルート」。

発車直前に先頭部まで行って良いとの係員の許可が下りたので、バッテリー機関車を撮る。
この小さな客車列車の先頭に立つのはBB71。トモエ電機工業で製造された10トン機である。


そして発車時刻である13:10。
構内に発車ベルが鳴り、係員の合図と共に欅平上部行の列車は動き出した。
瞬く間にトンネル内へ突入する。
トンネルを少し入ると、2002年の紅白歌合戦で中島みゆきが「地上の星」を歌った地点が写真を入れたモニュメントとして残してあるとの事だったが、それらしき物が一瞬見えただけで、あっと言う間に見えなくなった。

それにしても小さな客車に身を寄せ合って乗車しているため余裕はない。
しかも室内高が低いため、ちょっと頭を上げようものなら天井に頭をぶつけてしまう。ヘルメットを被っているから別に良いけれども。

トンネル内を走っている間にも関西電力の係員による説明は続く。
内容は写真を交えた「泡(ほう)なだれ」や黒部川に点在する発電所に関するものだった。これから訪れる仙人谷ダムの建設時にはこの泡なだれで宿舎が壊滅し、約80人が犠牲になったというから、自然がもたらす破壊力は凄まじい物がある。

ちなみに、この上部専用鉄道の平均時速は20km。欅平と宇奈月温泉を結ぶ「下部軌道」こと黒部峡谷鉄道の列車の平均時速は約16kmというから、意外と速い。
また、車両が小さい事、二軸車である事も手伝ってか、結構揺れる。
何とも野趣あふれる乗り心地だと思う。

黒部川第四発電所を出てからここまで、僅か数分。
列車はトンネルを抜け、仙人谷を渡る鉄橋へ出た。
鉄橋に列車が差し掛かる直前、引き込み線が進行方向左手に見えた。
そこには黒に塗装された貨車が数量留置され、紅葉のカラフルさと好対照をなしていた。

この鉄橋上に仙人谷「駅」が設置されている。

ちなみに、この鉄橋部分だけが上部専用鉄道唯一の地上区間となる。
開放感があるかと言われるとさにあらず。
鉄橋には冬季の降雪による運休が生じないよう、屋根が設けられている。
これでは些か興ざめだが、通年運行を考慮した処置と考えれば仕方がない。
逆に言えば、観光用として考慮されていないからこそ、こういった処置が執れるのだろう。

鉄橋から外を見ると、こんな魅力的な風景を見ることができるのだが・・・。

進行方向右側は一面、紅葉真っ盛り、という事で趣ある風景を見ることができた。
下を見ると、黒部ダムから流れてきた黒部川の流れが。


進行方向左手には仙人谷ダムの偉容が。


景色を見るのもいいが、やはりトロッコ列車が気になる、という事で少し前の方へ歩いてみる。
すると、客車の前に有蓋車が連結されていた。
この列車は資材を運ぶ混合列車でもあった。


列車前方を見ると黄色い湯気が見える。
それと共に、硫黄の臭いが漂ってきた。


仙人谷を出ると、いよいよ「高熱隧道」で有名な「高熱地帯」へ進入するが、果たしてどの位の温度になるのだろうか。
通常であれば並行して設けられた発電用水路トンネルを流れる水で気温は下がっているというが、この日は発電していないため水は通っていない。
という事は本来の「高熱隧道」を経験する事になる。

係員曰く、こういった事は滅多にないという。

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