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「レトロ」なトランプ。

トランプのやろうとしている経済政策は”レトロ“だ。

米国の雇用復活を重視するトランプに配慮し、フォードがメキシコの組み立て工場を断念。代わりに米ミシガンの工場に投資して七百人分の雇用を生み出すことを表明とのこと。トランプはNAFTA(北米自由貿易協定)に反対し、メキシコからの輸入車に関税を課すという保護主義を依然として主張している。NAFTAはこれまで20年以上施行されてきた協定だけに、やらなくても大して影響のないTPPなんぞと比較にならないほど この改訂は慎重を要す必要がある。 

米国内での製造業の雇用を促進し強いアメリカに戻る」という発想がそもそもレトロだ。今回、オハイオなど解雇された製造業で失業した層の支持を集めることが功を奏し当選に至ったわけだが、就任後、公約通りに製造業において国内雇用を促進することでとりあえず、目先の失業率も下がるだろう。

しかし少しだけ長い眼で見ると、結局損害を被るのはアメリカの市民であることが容易に推測できる。

そもそもメキシコや中国などの海外に生産拠点を移転したのか?

ずばり高い賃金・お世辞にも勤勉とはいえない労働力では国際競争力のある製品が出来ないから出て行ったのである。良い品質で価格の安い製品が米国内で調達できていれば、わざわざ海外に出て行かないはずだ。 

あたりまえだ。デトロイト界隈に住み、一家に二台クルマを持ち、9時から5時まで言われた仕事をゆったりやって、適度な給料をもらい庭付きの家に住み週末はウォルマートやターゲットで家族で楽しくお買い物をしてショッピングモールのフードコートでひとり8~10ドルの夕食を楽しむ米国人が組み立てる製品が、中国・東南アジア・メキシコなどの低賃金ながらも朝から晩まで一生懸命働き、節約して安い食べ物を家族で分けて食べあうような生活をしている勤勉で向上心に溢れる作業者が組み立てる製品に勝てるわけがない。

過去に80年代、90年代、昨年と3度にわたりアメリカの自動車産業の組み立て現場を見た。大きく変わったのは時代の流れの中で生産設備や工作機械(多くは日本製)が進化したことだけで、労働者のスローな動き、手待ちの多さは30年以上変わっていない。彼らがニッポンの自動車の組み立て工場で仕事をしたら半日でギブアップするだろう。それほど作業の速度は一見して違う。 

だから各メーカーは海外に生産拠点を移してきたのである。結果的にいたずらに原価低減だけを求めて外に出たわけでない。たとえば日本の自動車産業を手にとってもトヨタの中南米やアジアでの生産比率は伸びている。3~4年前に超円高で日本の自動車産業は海外生産量を増やし空洞化が危惧されたが、その後今日まで海外生産比率は高まってもたいした空洞化も起きてないし、海外で生産したクルマの品質が悪いなどという事もない。むしろグローバル化を確実に進めた企業ほど、海外での開発・生産・販売活動が活発化することで、質の向上も進み世界で活躍する企業になっている好循環が生まれた。80年代のグローバル化の発生から今日までこうした初めは逆風であったことが、結果的には企業の総合力や国際的な柔軟性をつけることに至った。苦難が企業体質を鍛え上げる原動力になっているのだ。

 まして自動車を取り巻く環境は未曾有の変化の時代に直面している。内燃機の時代からハイブリッドを越え、EV、IoTを活用した自動運転などこの先10年、開発・生産システムで業種の垣根を越えた大変な代わりようが予測される。量産工場に関しても日本の進化したトヨタ方式やドイツのスマートファクトリーのような高度な先進工場を自国で開発し生産物を消費する各国に展開して安価な労働力と相まって競争力を維持するのが目指すところだと思う。

すなわち技術革新の競争の中、未来のために成すべき事がたくさんあるのに余計なことで足を引っ張られたくないのが実情だろう。政府とて、トランプのいうような、これまでの製品を前提とした生産拠点の問題に力点を割くより、前述の開発競争で欧・日メーカーに遅れをとらないよう未来の投資やグローバルな相互援助を支援するのが本来の政府のなすべき事だろう。

いずれにせよアメリカが偏った保護主義に陥り、国内生産重視に帰還したらそのコストアップと品質向上鈍化でのしわ寄せは自国の消費者に廻るか、あるいは彼らが愛想を尽かし、ちょうどオイルショック後に輸入日本車が売れ、米国車が売れなくなった二の舞になるかもしれない。ビッグ3はあの時苦境に陥った。重要なことはその中でフォードが早めに立ち直ったのは、保護主義の成果でなく、彼らが日本の開発生産の効率的な仕組みを勉強して取り入れたからだ。

時代遅れの華美で下品なカジノホテル経営と有り余るカネ動かす不動産投資だけで、毎日高層ビルの高い所から下界を見て暮らし、美味しいモノを食べ育ったトランプはこういう局面は見てこなかったと思う。ビジネスマンだから期待出来るという短絡的なつながりは成り立ちそうもない。ビジネスマンとはいえ、たとえば古くさい大企業を再生したジャックウェルチや小売りで成功したサム・ウォルトンとも違うし、イノベーションを成したビルゲイツ、スティーブジョブスなどともやってきたことが違う。 

こうした貿易や経済の問題のみならず外交、移民などあらゆる分野でこれまでとは違う路線を示しているので、失敗すると連鎖的に 株安・ドル安・・・などというシナリオもないとは言えない。だからトランプ期待と低金利でのチョット景気よさそうかな?ムードでお調子に乗ることは避けたい。 

アメリカは日本と違い議会の機能がしっかりしていて大統領とて一気に自らの政策を安部晋三のように強引に進められないので、賢明な議会がトランプの暴走を牽制することで極端な事態は真逃れることを期待する。 

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