「やらないと取り残される」 株ブーム、世界に広がる
個人が揺らす市場(4)
ルポ迫真2021年4月1日 23:00
ロシアでは個人投資家が急増した(モスクワ)=ロイター
エカテリーナは貯金30万ルーブル(約43万円)を10倍以上に、アレクサンドルはローン完済に成功――。3月16日夜、ロシアの株式投資スクールが開いたセミナー。オンラインで参加した約90人に向けて、金融コンサルタントと称する男性講師が個人の顔写真付きで株式投資の「成功体験」を矢継ぎ早に紹介した。
ロシアでは2月下旬、モスクワ証券取引所経由で取引する個人投資家が1000万人を突破した。2020年は過去最多の500万人が証券口座を開設。富裕層に限られていた個人投資家の裾野が広がってきた。「偉大な成果だ。ロシア企業の資金調達の機会が広がる」。同取引所最高経営責任者のユーリ・デニソフは高揚して語った。
個人の株式投資ブームは世界で広がっている。
20年3月に全土で厳しいロックダウン(都市封鎖)が敷かれ、経済がまひしたインド。大手金融機関に勤めるジェイ・ラランピリアは、株式投資にのめりこんだ。「昔は給料の10%ぐらいを株式投資に充てていたが、20年3~11月は毎月、給料の25~30%ぐらいを投じた」
主要株価指数SENSEXが20年3月下旬に直前の4割安まで急落すると、底入れしたと見たラランピリアは金融、製薬、IT(情報技術)、消費財などの銘柄を買いあさった。彼だけでない。「友人や親戚ら周りの10人以上が株式投資を始めた。私にアドバイスを求めてきたよ」と笑う。
「株をやっていないと話題について行けない」。韓国ソウル市の化粧品会社で働く28歳の鄭鎬民(チョン・ホミン)は打ち明ける。友人の7割が株式投資をしており、ほとんどがこの一年で始めた。証券大手のキウム証券では、1日平均1万件の口座開設申請があるという。
鄭も1月、貯金500万ウォン(約48万円)を元手に証券会社のオンライン口座を開設した。初めて買ったのはサムスン電子株。将来の結婚や子育てのための資金を殖やすのが目標だ。学歴至上主義が根深い韓国では家計に占める教育費負担が大きい。「単純に働いているだけでは貯金できない。現金持ちが一番損」と言い切る。
経験の浅い個人が複雑な商品に手を出して市場の混乱を招くこともある。それでも世界で高まる個人の株式投資熱は収まりそうにない。(敬称略)
宮本岳則、吉田圭織、須賀恭平、張勇祥、小川知世、早川麗、細川幸太郎が担当しました。
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