日本株、潮目変化の足音 楽観相場の揺り戻し警戒
証券部 富田美緒
2020/7/29 20:44日本経済新聞 電子版
日本株の上値が重くなってきた。29日の東京株式市場ではキヤノンやファナックなど市場予想を下回る業績予想や配当減額を発表した銘柄に売りが膨らみ、日経平均株価は4日続落した。金融・財政政策が支える流動性相場が大きく崩れるとの見方は少ないが、投資家の一部からは、潮目の変化は近いのではと警戒する声もあがっている。
「構造問題を抱えた企業と、強風が吹いても倒れない企業の格差が鮮明になってきた」。リブラ・インベストメンツの佐久間康郎代表は4~6月期決算発表の前半戦をこう捉える。29日は減配を発表したキヤノンが21年ぶり安値を付け、日産自動車は10%安に沈んだ。「事業基盤やコロナ対応で弱さがみえた銘柄を大胆に切れるかがこの先の勝負を分ける」とみる。
好決算を発表した東京エレクトロンはほぼ横ばい圏で終えるなど人気銘柄の一角には押し目買いが入り、投資意欲が一気に冷え込んだわけではなさそうだ。それでも楽観相場の揺り戻しを警戒する参加者は少なくない。ある運用会社の日本株マネジャーは「売買が薄くなりやすい8月に向けて、上値を追うための買いをとりやめた」と明かす。
相場の流れを占うのに参考になるのが、世界の投資家心理を示す指数だ。米調査会社サンディアル・キャピタル・リサーチは、投資家のヘッジ取引や先物・オプション取引の動向など複数の指標をもとに投資家のタイプ別にセンチメントを相対指数にしている。
最近の傾向で顕著なのが、個人を中心とする短期志向投資家の楽観ぶりだ。中長期の投資家と比べると楽観の度合いは約半年ぶりの水準にある。上昇相場の流れに乗ってリスクを取る姿勢が見える。サンディアルのジェイソン・ゴープファート最高経営責任者(CEO)によると短期マネーが「強気に傾きすぎると株価調整が起きやすい」。過剰なリスク投資は少しの下げに敏感に反応しやすい。
投資家が上値追いに慎重になる理由は日本株のテクニカル分析からもうかがえる。東証1部上場銘柄のうち、株価が長期トレンドを示す「200日移動平均」を下回ったままの銘柄が7割近くある。例えば東レや三菱重工業、キヤノンは2割下回る。経験則上、中長期の投資家が見切り売りや戻り売りを出すため上値が重くなるとされる。
7割の銘柄の中には指標面から割安で上昇が見込めそうな企業もあるはず。東京海上アセットマネジメントの久保健一氏は「主力の成長株を追うよりは、着実な収益回復が見込める割安銘柄に投資したい」としつつ、「業種や経営のスピード感を考えると期待できる銘柄はごく一部」と話す。
株式市場の外に目をやれば長期の経済停滞を織り込む動きが目立つ。安全資産の代表格である金の価格は史上最高値を更新。米金融緩和の長期化を見越したドル安も続き、円高を通じた日本株の重荷になる。「米中対立がつばぜり合いにとどまらずに深刻化するシナリオにも注意が必要だ」(ラッセル・インベストメントの箱崎真紀子氏)
3月のような急落を予想する声は少ない。それでも企業業績や実体経済の動きを確認しながら、戻り相場がいったん試練を迎える可能性はある。さらなる上値を追う前にリスクを点検すべきタイミングといえそうだ。
証券部 富田美緒
2020/7/29 20:44日本経済新聞 電子版
日本株の上値が重くなってきた。29日の東京株式市場ではキヤノンやファナックなど市場予想を下回る業績予想や配当減額を発表した銘柄に売りが膨らみ、日経平均株価は4日続落した。金融・財政政策が支える流動性相場が大きく崩れるとの見方は少ないが、投資家の一部からは、潮目の変化は近いのではと警戒する声もあがっている。
「構造問題を抱えた企業と、強風が吹いても倒れない企業の格差が鮮明になってきた」。リブラ・インベストメンツの佐久間康郎代表は4~6月期決算発表の前半戦をこう捉える。29日は減配を発表したキヤノンが21年ぶり安値を付け、日産自動車は10%安に沈んだ。「事業基盤やコロナ対応で弱さがみえた銘柄を大胆に切れるかがこの先の勝負を分ける」とみる。
好決算を発表した東京エレクトロンはほぼ横ばい圏で終えるなど人気銘柄の一角には押し目買いが入り、投資意欲が一気に冷え込んだわけではなさそうだ。それでも楽観相場の揺り戻しを警戒する参加者は少なくない。ある運用会社の日本株マネジャーは「売買が薄くなりやすい8月に向けて、上値を追うための買いをとりやめた」と明かす。
相場の流れを占うのに参考になるのが、世界の投資家心理を示す指数だ。米調査会社サンディアル・キャピタル・リサーチは、投資家のヘッジ取引や先物・オプション取引の動向など複数の指標をもとに投資家のタイプ別にセンチメントを相対指数にしている。
最近の傾向で顕著なのが、個人を中心とする短期志向投資家の楽観ぶりだ。中長期の投資家と比べると楽観の度合いは約半年ぶりの水準にある。上昇相場の流れに乗ってリスクを取る姿勢が見える。サンディアルのジェイソン・ゴープファート最高経営責任者(CEO)によると短期マネーが「強気に傾きすぎると株価調整が起きやすい」。過剰なリスク投資は少しの下げに敏感に反応しやすい。
投資家が上値追いに慎重になる理由は日本株のテクニカル分析からもうかがえる。東証1部上場銘柄のうち、株価が長期トレンドを示す「200日移動平均」を下回ったままの銘柄が7割近くある。例えば東レや三菱重工業、キヤノンは2割下回る。経験則上、中長期の投資家が見切り売りや戻り売りを出すため上値が重くなるとされる。
7割の銘柄の中には指標面から割安で上昇が見込めそうな企業もあるはず。東京海上アセットマネジメントの久保健一氏は「主力の成長株を追うよりは、着実な収益回復が見込める割安銘柄に投資したい」としつつ、「業種や経営のスピード感を考えると期待できる銘柄はごく一部」と話す。
株式市場の外に目をやれば長期の経済停滞を織り込む動きが目立つ。安全資産の代表格である金の価格は史上最高値を更新。米金融緩和の長期化を見越したドル安も続き、円高を通じた日本株の重荷になる。「米中対立がつばぜり合いにとどまらずに深刻化するシナリオにも注意が必要だ」(ラッセル・インベストメントの箱崎真紀子氏)
3月のような急落を予想する声は少ない。それでも企業業績や実体経済の動きを確認しながら、戻り相場がいったん試練を迎える可能性はある。さらなる上値を追う前にリスクを点検すべきタイミングといえそうだ。