7月20日日経平均の動き(途中)
※こんな危険にチャレンジする上場企業も存在します。
格安スマホでも完全かけ放題 日本通信の挑戦
ITジャーナリスト 石川 温
モバイルの達人 ネット・IT コラム(テクノロジー) モバイル・5G
2020/7/20 2:00日本経済新聞 電子版
仮想移動体通信事業者(MVNO)のパイオニアである日本通信が大勝負に出た。7月15日に、音声通話が完全かけ放題、データ容量が3ギガ(ギガは10億)バイトで2480円(税別)という「合理的かけほプラン」の提供を開始したのだ。
音声通話の完全かけ放題プランは、これまでNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが提供していた。MVNOにも一応かけ放題プランはあったが、1回の通話に5分や10分といった時間制限が設けられており、今回のような「MVNOによる完全かけ放題」はなかった。
音声かけ放題のプランを提供することは日本通信にとっての悲願といえる。
ここ数年、MVNOが提供する格安スマホが脚光を浴びていたが、最近では菅義偉官房長官の「キャリアは値下げできる余地がある」という発言をきっかけに、3キャリアが新料金プランを導入。使い方によっては安くなるプランが出そろった。また、第4のキャリアとして「月額2980円(同)で使い放題」を掲げる楽天モバイルが参入した。
これらにより格安スマホは伸び悩んでいる。格安スマホが得意としてきた家電量販店などの売り場では、店員が「格安スマホを売りにくい」という悩みを抱えるようになった。
格安スマホはデータ通信はキャリアに比べて圧倒的に安いものの、音声通話は30秒20円というキャリアと同額の設定になっている。しかも、キャリアには完全かけ放題のオプションが存在するため、電話をたくさん使う人にとっては、格安スマホに乗り換えると逆に割高になるケースがあった。
日本通信の福田尚久社長は「家電量販店の店頭で『1カ月でどれくらい音声通話するか』と聞かれて、きちんと答えられるお客さんはいない。これでは店員が『格安スマホに乗り換えれば確実に安くなる』と提案できない。そこで、キャリアから日本通信に乗り換えても確実に安くなる音声定額のプランを作りたかった」と新プラン提供の理由を語る。
福田社長は「すでに3キャリアで音声定額オプションを契約しているユーザーは8000万人を超えているのではないか」と試算する。キャリアで音声定額を契約しているユーザーは、毎月どれだけ音声通話して従量制であればいくら支払うことになったかをそもそも把握していない。そんなユーザーが格安スマホに移行すれば、音声通話が定額でなくなり請求額が跳ね上がるのは目に見えている。
今回、日本通信が完全かけ放題を提供できたのは、総務大臣の裁定によるところが大きい。
これまで日本通信はNTTドコモと音声通話の卸役務に関して交渉を続けてきたものの、不調に終わっていた。そこで日本通信が総務大臣裁定を申請することで事態が一変した。
日本通信の申請には「かけ放題の定額サービスを、適正な原価に適性な利潤を加えた金額で日本通信に提供すべきだ」という項目があった。しかし「原価割れリスクがあるとしてドコモが拒むのには合理的な理由がある」として却下された。
もう一つ、裁定の議題として上がっていたのが卸料金だ。NTTドコモからの卸料金は現在、30秒あたり14円になっている。MVNO各社は14円で仕入れ、各キャリアと同じ30秒20円という通話料を設定していた。
今回の裁定では「適正な原価に適正な利潤を加えた料金にすべきだ」ということになった。福田社長は「適正な原価」について「30秒あたり、数円、それもかなり下のほうになるのではないか」と見ている。
実際にその料金設定が決まるのが12月末といわれている。つまり、日本通信は具体的な金額が決定する前に、見切り発車で7月15日から新料金プランをスタートさせたことになる。
■赤字のリスクを承知で提供
日本通信は、NTTドコモから「かけ放題の定額サービス」を丸ごと提供されるのではなく、30秒14円だった卸料金が数円に下がることを前提にかけ放題のサービスを始めた。つまり、ユーザーが闇雲に音声通話し続ければ、30秒数円であっても、日本通信がユーザーから得る料金を超え、赤字に陥る可能性もある。福田社長は「当然、リスクはゼロではない」と語る。
日本通信では、総務省の統計値を基に、ユーザーは月間で3時間強、スマホや携帯電話で音声通話していると見ている。
仮に12月までに決まる新しい卸料金が1分10円としてみよう。
日本通信の新料金プランは3ギガで2480円だが、追加でデータを1ギガ購入すると250円かかる設定だ。仮に2480円から3ギガ分の750円を引くと1730円となる。
この計算だと、ユーザーが173分以上音声通話すると赤字になる。日本通信の利益分を考慮すると、本来はもっと短い時間で赤字になるはずだ。もちろん、決定した卸料金がもっと安ければ、日本通信のリスクは小さくなる。それだけに、今後、日本通信とNTTドコモとの交渉が重要な意味を持つ。
ユーザーの中には、大量の音声通話をする人もいれば、かけ放題プランを契約しながら全く通話しない人もいる。こうした定額制のサービスを提供した場合、初期に契約するユーザーは大量に利用しがちだが、サービスが普及するにつれてあまり利用しない人も増えてくる。そうして利用量は平準化していく。
日本通信は、これまで「通話料が高くなるから格安スマホは選べない」と考えていたユーザーをいかに集めるかが課題となる。
ユーザーにとっては「通話料が1分いくらに値下げされる」といった点は重要ではない。すでにLINEでの無料通話が普及するなど、音声通話の料金が下がったところでインパクトは小さい。今後、通話料金の値下げ競争が本格化するわけでもないだろう。
1分いくらの値下げではなく、完全通話定額が重要なのだ。おそらくKDDI傘下のUQモバイルやソフトバンク傘下のワイモバイルもこうしたプランを強化してくるのではないか。
キャリアだけでなくMVNOやサブブランドにも完全通話定額が広がることで、今後のユーザーは「通話料金を意識しない」という思考に変わる。この「通話料金からの脱却」というインパクトが、業界やユーザーに大きな影響を与えそうだ。
石川温(いしかわ・つつむ)
月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜午後8時20分からの番組「スマホNo.1メディア」に出演(radiko、ポッドキャストでも配信)。NHKのEテレで「趣味どきっ! はじめてのスマホ バッチリ使いこなそう」に講師として出演。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(エムディエヌコーポレーション)がある。ニコニコチャンネルにてメルマガ(https://ch.nicovideo.jp/226)も配信。ツイッターアカウントはhttps://twitter.com/iskw226
格安スマホでも完全かけ放題 日本通信の挑戦
ITジャーナリスト 石川 温
モバイルの達人 ネット・IT コラム(テクノロジー) モバイル・5G
2020/7/20 2:00日本経済新聞 電子版
仮想移動体通信事業者(MVNO)のパイオニアである日本通信が大勝負に出た。7月15日に、音声通話が完全かけ放題、データ容量が3ギガ(ギガは10億)バイトで2480円(税別)という「合理的かけほプラン」の提供を開始したのだ。
音声通話の完全かけ放題プランは、これまでNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが提供していた。MVNOにも一応かけ放題プランはあったが、1回の通話に5分や10分といった時間制限が設けられており、今回のような「MVNOによる完全かけ放題」はなかった。
音声かけ放題のプランを提供することは日本通信にとっての悲願といえる。
ここ数年、MVNOが提供する格安スマホが脚光を浴びていたが、最近では菅義偉官房長官の「キャリアは値下げできる余地がある」という発言をきっかけに、3キャリアが新料金プランを導入。使い方によっては安くなるプランが出そろった。また、第4のキャリアとして「月額2980円(同)で使い放題」を掲げる楽天モバイルが参入した。
これらにより格安スマホは伸び悩んでいる。格安スマホが得意としてきた家電量販店などの売り場では、店員が「格安スマホを売りにくい」という悩みを抱えるようになった。
格安スマホはデータ通信はキャリアに比べて圧倒的に安いものの、音声通話は30秒20円というキャリアと同額の設定になっている。しかも、キャリアには完全かけ放題のオプションが存在するため、電話をたくさん使う人にとっては、格安スマホに乗り換えると逆に割高になるケースがあった。
日本通信の福田尚久社長は「家電量販店の店頭で『1カ月でどれくらい音声通話するか』と聞かれて、きちんと答えられるお客さんはいない。これでは店員が『格安スマホに乗り換えれば確実に安くなる』と提案できない。そこで、キャリアから日本通信に乗り換えても確実に安くなる音声定額のプランを作りたかった」と新プラン提供の理由を語る。
福田社長は「すでに3キャリアで音声定額オプションを契約しているユーザーは8000万人を超えているのではないか」と試算する。キャリアで音声定額を契約しているユーザーは、毎月どれだけ音声通話して従量制であればいくら支払うことになったかをそもそも把握していない。そんなユーザーが格安スマホに移行すれば、音声通話が定額でなくなり請求額が跳ね上がるのは目に見えている。
今回、日本通信が完全かけ放題を提供できたのは、総務大臣の裁定によるところが大きい。
これまで日本通信はNTTドコモと音声通話の卸役務に関して交渉を続けてきたものの、不調に終わっていた。そこで日本通信が総務大臣裁定を申請することで事態が一変した。
日本通信の申請には「かけ放題の定額サービスを、適正な原価に適性な利潤を加えた金額で日本通信に提供すべきだ」という項目があった。しかし「原価割れリスクがあるとしてドコモが拒むのには合理的な理由がある」として却下された。
もう一つ、裁定の議題として上がっていたのが卸料金だ。NTTドコモからの卸料金は現在、30秒あたり14円になっている。MVNO各社は14円で仕入れ、各キャリアと同じ30秒20円という通話料を設定していた。
今回の裁定では「適正な原価に適正な利潤を加えた料金にすべきだ」ということになった。福田社長は「適正な原価」について「30秒あたり、数円、それもかなり下のほうになるのではないか」と見ている。
実際にその料金設定が決まるのが12月末といわれている。つまり、日本通信は具体的な金額が決定する前に、見切り発車で7月15日から新料金プランをスタートさせたことになる。
■赤字のリスクを承知で提供
日本通信は、NTTドコモから「かけ放題の定額サービス」を丸ごと提供されるのではなく、30秒14円だった卸料金が数円に下がることを前提にかけ放題のサービスを始めた。つまり、ユーザーが闇雲に音声通話し続ければ、30秒数円であっても、日本通信がユーザーから得る料金を超え、赤字に陥る可能性もある。福田社長は「当然、リスクはゼロではない」と語る。
日本通信では、総務省の統計値を基に、ユーザーは月間で3時間強、スマホや携帯電話で音声通話していると見ている。
仮に12月までに決まる新しい卸料金が1分10円としてみよう。
日本通信の新料金プランは3ギガで2480円だが、追加でデータを1ギガ購入すると250円かかる設定だ。仮に2480円から3ギガ分の750円を引くと1730円となる。
この計算だと、ユーザーが173分以上音声通話すると赤字になる。日本通信の利益分を考慮すると、本来はもっと短い時間で赤字になるはずだ。もちろん、決定した卸料金がもっと安ければ、日本通信のリスクは小さくなる。それだけに、今後、日本通信とNTTドコモとの交渉が重要な意味を持つ。
ユーザーの中には、大量の音声通話をする人もいれば、かけ放題プランを契約しながら全く通話しない人もいる。こうした定額制のサービスを提供した場合、初期に契約するユーザーは大量に利用しがちだが、サービスが普及するにつれてあまり利用しない人も増えてくる。そうして利用量は平準化していく。
日本通信は、これまで「通話料が高くなるから格安スマホは選べない」と考えていたユーザーをいかに集めるかが課題となる。
ユーザーにとっては「通話料が1分いくらに値下げされる」といった点は重要ではない。すでにLINEでの無料通話が普及するなど、音声通話の料金が下がったところでインパクトは小さい。今後、通話料金の値下げ競争が本格化するわけでもないだろう。
1分いくらの値下げではなく、完全通話定額が重要なのだ。おそらくKDDI傘下のUQモバイルやソフトバンク傘下のワイモバイルもこうしたプランを強化してくるのではないか。
キャリアだけでなくMVNOやサブブランドにも完全通話定額が広がることで、今後のユーザーは「通話料金を意識しない」という思考に変わる。この「通話料金からの脱却」というインパクトが、業界やユーザーに大きな影響を与えそうだ。
石川温(いしかわ・つつむ)
月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜午後8時20分からの番組「スマホNo.1メディア」に出演(radiko、ポッドキャストでも配信)。NHKのEテレで「趣味どきっ! はじめてのスマホ バッチリ使いこなそう」に講師として出演。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(エムディエヌコーポレーション)がある。ニコニコチャンネルにてメルマガ(https://ch.nicovideo.jp/226)も配信。ツイッターアカウントはhttps://twitter.com/iskw226