HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

生地がものを言う服。

2023-11-15 07:45:05 | Weblog




 今年もようやく冬入りしたが、業界ではもう2024年~25年秋冬のテキスタイル展が始まっている。メディアがまとめたキーワードランキングでは、上位2つが目を引いた。まずサスティナブル。ここ数年のトレンドでもあるが、繊維を再生して使用するのはもはやものづくりの必須条件だ。次に天然原料。素材が持つ性質を強調したもので、単なる風合いや質感だけでなく、リサイクルしやすいことも関係していると思う。

 展示会は生地メーカーやコンバーターなどが企画した商品提案の場なので、必ずしもこちらが欲しいような織り組織や風合い、色、質感の生地が並んでいるわけではない。それでも、実店舗の売場に並ぶ既製服にそれほど欲しいものがなくなった今、生地なら「コレだ!」と言えるものが見つかるかもしれないと、発信される情報には期待を持っている。

 まあ、好きな生地が見つかったところで、一着だけの服が作れるわけではないのだが、好みの生地に触れると、「こんな生地で作られた服がないかな」と妙にテンションが上がる。店をめぐるウィンドウショッピングよりも、買う気が湧く瞬間でもあるのだ。ただ、ほとんど実現する可能性はないのだが、仮に見つかったら確実に購入することになるので、テキスタイルの力は侮れないと感じている。

 生地を重視する条件は、まず用いられている素材。冬物ならウール100%なのだが、最近は合繊が含まれているものが多いので、20%程度の混紡なら良しとしている。次が織りを含めた柄。メンズに限定すれば、バリエーションは多くないが、レディス向けではたまに「こんな生地もあるのか」って素材や織り柄に出会うことがある。これでメンズアイテムを作ると意外に面白いかもしれないと思いながら、そうしたアイテムが世の中に出ることはほとんどなく、淡い期待でシーズンは終了してしまう。



 暖冬の影響もあって、上質なウールのテーラージャケットに合わせるパンツを購入しなくなってもう20年以上になるだろうか。オフィシャルでもカジュアルスタイルが浸透し、服の原価が引き下げられて素材のコストダウンが進んだため、よほどの高級ブランドでない限り気に入った質感の生地には出会えないこともある。だからと言って、色や質感が自分に合うかと言えば、それも別問題だ。もう80年代のようなデザインと生地が絶妙なバランスで、なおかつ値頃感があってすぐに気に入る既製服には出会えないのだろうか。

 そんなことを考えながら何シーズンも過ごしてきたが、この秋冬で思ったのがインポートの生地を豊富に揃えるオーダーの専門店で、ジャケットとパンツを誂えるのはどうかということ。気に入った生地さえ見つかったなら、デザインはシンプルなもので構わないから、あとは縫ってもらうだけ。ただ、生地探しから入手までが難しいので、在庫を抱えるオーダー専門店が最後の砦になる。



 筆者は社会人になってからも仕事柄、ほとんどビジネススーツを着る機会がなかった。かと言って色落ちやブレイクしたジーンズ姿ではクライアントに失礼に当たるため、小綺麗に見えてそこそこ主張のある「ジャケパンスタイル」で通してきた。80年代後半はDCブランドが佳境に入った時期でもあり、定番の柄を採用しつつデザインはその年風にして特徴を出すブランドも少なくなかった。

 そこで、柄と無地のコーディネートでうまくまとめたスタイリングをしていた。それを今シーズンに復活させるのもいいかなと思ったのだ。その柄というのが、定番の「千鳥格子」、英名でいう「Hound’s tooth(ハウンドトゥース)」だ。英名を直訳すると「犬の牙」。柄を構成する一つ一つの要素が犬の牙の形をしているというところから来ている。基本的な配色は牙の部分が黒で、下地が白。日本では千鳥が飛ぶような感じに見えることから千鳥格子と呼ばれている。


大小2つの柄を、ジャケットとパンツに



 80年代に着ていたのは、千鳥格子のジャケットやパンツ。インナーにはタートルネックのニットという組み合わせ。と言っても、上下共地では漫才師の衣装のように見えるので、ジャケットを千鳥格子にすれば、パンツは黒の無地。それと逆のパターンも取り入れてバリエーションを出していた。当時の女性ファッション誌が定番企画にしていた「1着のジャケットで1週間分の着こなしを楽しむ方法」を応用し、自分流にアレンジしたものだ。

 千鳥格子はほとんど流行に左右されない柄だから別にいつ着ても構わないのだが、逆にオーダーにすれば長く着ることができるし、飽きのこない着こなしが楽しめるのではないかと思う。もちろん、ディテールでは多少のトレンド感は出したいので、最近はどんなシルエットのジャケットやパンツに使われているのか。参考のために改めてPinterestで確かめてみた。

 80年代当時はジャケットがボクシー調で、パンツもツープリーツだった。それに対し、ピックアップされた最近の写真を見ると、柄はそのままでジャケットやパンツは体にフィットしたものが多い。ヤングではルーズなトレンドに揺り戻してはいるが、ジャケパンスタイルで上下ともダボダボでは間抜けに見えてしまう。多少トレンドを意識するにしても、大人のスタイリングとしてはトップスがタイト、ボトムスがややルーズなら、何とか格好がつくだろう。



 問題はこちらが思い描く柄が見つけられて、実際にジャケットとパンツをオーダーできるのかである。東海地区にある某有名生地メーカーの方に言わせると、千鳥格子を取り巻く状況は以下のようだと言う。「テキスタイル営業していた昭和末期は、千鳥格子は梳毛で2/30.2/48.2/60と3種類くらい、紡毛のツイードでも何種類かを必ずリスクで大量に持ってました。柄も千鳥以外にギンガム、市松、グレンチェックなどなど白黒定番」。

 「それが価格のファスト化でポリエステル・レーヨン、ポリエステル・レーヨンストレッチ、プリントされたストレッチとチープ化の一途でした。オーダースーツ用のバンチブックにはまだあるはずです。千鳥格子、ハウンドトゥースっていう言葉も通用しない業界人もいるかも

 なるほどである。こちらが感じている通り、既成服にかつてのような風合いを感じるものがなくなったのは、低価格が進む中で素材のコストダウン上ではやむを得ないからだ。それでも、インポートで上質な生地を抱えるオーダー専門店で誂えるなら、こちらがイメージするものが出来上がるかもと期待する。ちょうど、全国展開するオーダー専門店が移転オープンしたようだから、この機会に出かけてみようかと思う。

 イメージとしては、ジャケットの方の生地は大柄。いわゆる「ジャイアント・ハウンドトゥース」だ。パンツも同じ柄でもいいと思うが、80年代当時は小さめのハウンド・トゥースだった。その通りの生地が見つかるかどうかわからないが、オーダー専門店でバンチブックから探すしかない。おそらく一年通して定番色柄が提案できるようにしていると思うので、専門家に相談するしかないだろう。

 オーダーではビジネス向けのスーツばかりがクローズアップされているが、その傍流としてジャケット、いわゆる代え上着やパンツのオーダーをオンオフ兼用のウエアも有りかと。オフィスカジュアルが定着しているのだから、ボトムには色落ちしていないジーンズ、足元にはレザースニーカーを合わせることもできる。そんなスタイルはスーツよりも汎用性が高く、IT系や自由業の人たちのニーズは高いと思う。



 今年のプロ野球ドラフト会議では日本ハムの新庄剛志監督が大きめのチェック柄のスリーピースを着ていた。他の球団でも元選手の方は体が大きいため、オーダースーツの方もいただろうが、紺やグレー系だった。一方、新庄監督のスーツは市販のものにはない配色の柄で身体にもフィットしていたため、おそらくオーダーではないかと思う。

 会議後にメディアが報道した写真を見ると、生地はグレンチェックのような柄をベースにした光沢のあるアイアングレーに大きめのチェックが入ったものだった。色目は地味だが、柄が派手だったので、ボトムにはチェックのラインと同系色のパンツを穿けば、ジャケパンスタイルにもなると感じた。

 オーダー用の生地なら千鳥格子は在庫がある可能性は十分に高い。探してみる価値はある。だから、ビジネスモデルとしてもスーツ以外にジャケットまたはパンツのオーダーを仕掛けてみてもいいのかも。やはり、服は生地がものを言う。そんなことを考えても暑苦しくないシーズンに入った。いろんな服、スタイリングを考えるのも、また楽しい。

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