HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

老舗ブランド存続に必要なのは、新しい血か、潤沢な資金か?

2012-07-18 17:11:50 | Weblog
 また一つ欧州の「老舗ブランド」が金満アラブの投資家に買収された。物件とはイタリアの高級ブランド、ヴァレンティノなどを所有するヴァレンティノ・ファッション・グループ(VFG)。買収したのは、天然ガスで潤うカタールの投資家グループ、 メイフーラ・フォー・インベストメンツ(MI)。金額は約7億ユーロ(686億円 1ユーロ:98円換算)と言われる。
 
 ヴァレンティノと言えば、仏のギ・ラロッシュなどで修業した創業者デザイナー、ヴァレンティノ・ガラバー二がパリにオートクチュールのアトリエを開いたのがルーツだ。そして、抜群の経営手腕の持つジャンカルロ・ジャンメッティーをビジネスパートナーに迎え、米国市場での成功やライセンスビジネスなどで、ブランドをワールワイドに成長させた。
 個人的にそのデザインセンスは、1984年に開催されたサラエボ冬季五輪のイタリア選手団のユニフォームが印象に残る。フランス選手団のデザインが意外にも米国のカルバン・クラインだったことをみても、この頃のデザイナーブランドの勢いは最高潮に達していたと言えるだろう。

 しかし、家族的な経営スタイルをとるイタリア系ブランドも、世界的な不況には勝てない。98年、マルツォット家に経営権を売却したのを境にヴァレンティノにも翳りが見え始める。01年にはディフュージョンやカジュアルのラインを発表し、一旦はヒューゴボスなどを傘下に持つコングロマリットに成長するも、ガラバー二自身がオートクチュール出身だけに、他社のように既製服を量産することには、どこか相容れない気持ちもあったのではないか。
 それが影響したかどうかはわからないが、07年、投資ファンドのペルミラ社が買収。70歳を過ぎていたガラバーニも一線を退いた。ところが、ここからさらに迷走が始まる。
 07から毎年のように主任デザイナーが交替しているのだ。アレッサンドラ・ファキネッティからマリア・グラツィア・ キウリとピエール・パオロ・ピッチョーリに、メンズではフェッルッチョ・ポッツォーニ。

 現在はキウリとピッチョーリがレディス、メンズとも手がけているが、この二人についても去就は不透明。今回の買収で経営権が投資家グループに移ったため、企業として短期に収益が上がらなければ、デザイナーの解任や交替は止むなしだからである。
 2000年ぐらいから、欧米のラグジュアリーブランドは、コングロマリット化していった。ルイ・ヴィトンを中心としたLVMHグループ、グッチやボッテガ・ベネタなどで構成するPPRグループ等がそれ。株式市場に上場するメゾンブランドを買収して、次々と傘下に収めたのである。
 それはまるで「ブランドは多い方がいい。同じブランドだと飽きられる。服は作りすぎても、少な過ぎてもダメだ」なんて、経営陣の囁きが聞こえてきそうな動きでもある。
 
 またコングロマリット化によって、傘下ブランドのデザイナーの交替や新規登用は激しくなった。例えば、ルイ・ヴィトンは米国人のマーク・ジェイコブスをクリエイティブディレクターに起用し、ブランドを見事に活性化。同グループのクリスチャン.ディオールも英国人のジョン・ガリアーノがデザイナーに就任すると見事に若返り、新たな顧客を捉まえた。
 じり貧状態にあったグッチは、米国人のトム・フォードがクリエイティブ、コミュニケーション、ビジネスの全権を委任され、V字回復を果たした。
 一方で、トム・フォードの勇退後は前出のアレッサンドラ・ファキネッティがレディス、ジャン・レイがメンズ、フリーダ・ジャンニーニがバッグ、アクセのデザイナーに就くも、現在まで残るのはフリーダ・ジャンニーニのみだ。

 欧州ブランドが米英系のデザイナーを起用するのには理由がある。それは彼らがマーケティングやMDの能力に長けているからだ。どんな客層にどんな商品をどんなプロモーションで伝えるかが、実にうまい。ディオールやグッチの成功は、それなしでは成し遂げられなかっただろう。
 では、フランスやイタリア出身で職人肌のデザイナーではダメなのか。決してそんなことはない。アルマーニは北イタリア・ピアチェンツァ出身のジョルジオ・アルマーニが依然としてデザインしているし、グッチのフリーダ・ジャンニーニはローマ出身だ。
 これらのブランドには仏伊出身のデザイナーが得意とするクリエイティビティが生きている。さらにアルマーニは非上場企業で、世界一等地の店舗展開からホテルまで、経営は自己資金で賄う。コングロマリットの傘下入りやファンドの力を借りなくても安定経営は行なえるのだ。

 メゾンブランドが資金調達のために上場すれば、ファンドやオイルマネーにとって格好の獲物になる。かと言ってそのブランドが未来永劫安定的に収益を上げ続けられる保証はない。ブランド存続のためには外部投資による活性化は必要だし、主任デザイナーの交替も止むなしなのである。
 ただ、筆者はコングロマリットではスケールメリットは発揮されるものの、クリエイティビティの面では?が付くと感じる。PPRでトム・フォードはグッチと並び、イヴ・サンローラン・リブゴーシュも担当したが、何となくデザインのテイストが被っていたからだ。
 いくら優れたデザイナーと言えども、それほど多くの引き出しを持っているわけではない。クリエイティビティはそう簡単にはいかないのだ。
 それでも、コングロマリットは全ブランドの売上げ効率を上げるために、垣根を超えて市場の情報や顧客の声に耳を傾け、デザイナーもそれを意識する。結果としてグループ内で似たようなデザインが出現しないとも限らない。売れ筋回れ右の「全天候型経営」ともいうわけだ。

 メゾンブランドはデザイナーだけで成り立たない。彼らに絶大な信頼を置いて、ブランドのすべての熟知した経営者の存在がカギを握る。グッチで言えば、ハーバード大で学んだドメニコ・デ・ソーレCEOの存在なしに再生がなかったのは周知のこと。
 今回のヴァレンティノでも、ステファノ・サッシCEOがどういう方針を示すかにかかっている。新たにデザイナーを起用するにも、マーケティングに長けた英米系か、それともクリエイティビティの仏伊系か。どちらにしてもブランドの活性化は、サッシCEOの手腕次第で決まると言っても過言ではないだろう。
 もちろん、短期で収益が上がらなければ、投資家グループのMIがヴァレンティノを転売するのは目に見えてる。老舗メゾンがマネーゲームの対象になるのは偲びない。でも、これもファッションビジネスがグローバル化する中では避けて通れないことである。
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