HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

提灯記事でネタ作り。

2017-03-01 07:32:14 | Weblog
 福岡は小売り主体の街だが、卸が全くないわけではない。筆者が生まれ育った博多部でも店屋町にはかつて卸商が集まっていたし、九州各地から仕入れに来る人々の利便性を考え、博多駅周辺にメーカーが支店を出していた。その後、モータリゼーション、高速道路の発達で東区の福岡インター近くに流通センターが開業した。

 博多駅にほど近い「福岡ファッションビル(FFB)」も、卸やメーカーを集めた専門ビルだ。ここは小学生の頃、プールにスケート、ボウリングと楽しんだ福岡体育館があった場所。地元を離れている間に閉館し、建て変わったようである。それも今年で開業36年というから、誕生は1981年のこと。そんな前だったんだと、改めて思ってしまう。

 東京や大阪を拠点を置く知り合いのメーカーが九州展を行う時に借りるので、たまに覗かせてもらっているが、常時入居するのは度・コンサバのメーカー。マーケットが縮小してジリ貧の一途を辿り、訪れる度に一つまた一つ退去しているように感じる。まあ、卸やメーカーの事務所ビルだから、来客が多いのは展示会の時くらいだろう。それでもシーンと静まり返って活気はなく、唯一、来店客が多いのが中洲で働くお兄ちゃん御用達のオーダースーツ屋なのだから、卸を集めたビルにとしては全く皮肉な話である。

 先日も知人が働くメーカーが秋冬物の展示会を開催した。「今の時代に半年先のトレンドがわかるの?」と思いつつ、企画した商品についてアドバイスがほしいとのことで、忌憚のない意見を言わせてもらった。その時も「テナントが歯抜け状態」との話になった。知人は「福岡では若手がアパレルを創業しないの?」と聞いてきたが、「小売りの方が東京や海外に仕入れにいくから、よほどの企画力や独自性がないと目に止まらない」「このビルの雰囲気じゃ、テンションが下がるし、創作意欲がわかないだろうし」と答えた。

 知人はビルの関係者から聞いたのか、「地元の若手デザイナーがここでショーイベントを開くらしいよ」という。その時は「これだけテナントが撤退したら、オーナーだって賃料を下げてでも埋めたいだろう。そのための懐柔策じゃないの」と答えたが、よくよく考えるとビルを1軒挟んだ西側には福岡商工会議所がある。

 ここに事務局を置く福岡アジアファッション拠点推進会議は、発足当時から学校生向けのインターシップを FFBに入居するアパレルに打診していた。それがスムーズにいったとの話は聞かないが、過去のファッションウィーク福岡でもイベントに利用したし、人材育成という目的でショーイベントを開催できないことはない。問題は資金である。

 そんなことを考えながら数日たった2月21日、繊研PLUSが若手デザイナーのショーイベントについて報道した。http://www.senken.co.jp/news/startup/fukuoka-ffb/

 記事によると、福岡ファッションビル運営会社のエフ・エフ・ビーは、「博多駅からすぐという立地もあり、オフィスとしての需要も高まっているが、『ファッションの軸はぶらしたくない』と、若いデザイナーを支援し、FFBや福岡ファッション全体の活性化を狙っている」とある。

 加えて「ショーと連動し、3月1~17日には、福岡パルコの『ウォール』で3ブランド(ショー出展)の期間限定店を開く。同18~26日のファッションウィーク福岡期間内には、FFB1階で展示もする」とのこと。

 さらに「福岡市は地方創生の一環として、クリエイティブ関連産業の振興に力を入れている。デジタルやIT情報技術分野が主だが、ファッションも対象の一つだ。FFBも「市の方針とリンクし、今後も若手ブランドのショーを継続していきたい」という。

 なるほどである。補助金は福岡市のクリエイティブ事業予算から引っぱり出したようだ。この事業は記事にあるようにゲームクリエーターやWebデザイナーが支援の対象になるが、予算割当や執行についてそれほど明確な根拠はない。担当部局へのアプローチ次第で、割り振りはどうにでもなるように感じる。

 もっとも、事業におけるファッション振興関連の予算枠は、客寄せ興行の福岡アジアコレクションに注ぎ込まれている。そのため、ファッションウィーク福岡は予算が少なく、地元企業にスポンサーとして資金拠出を願い出る有り様だ。ファッション分野における「本来のクリエイティブ事業」で、駆け出しのデザイナーは蚊帳の外だっただけに、少しは事業の恩恵が受けられるようになったようである。

 それはともかく、記事には「ショーには、地元のファッション関係者やモデル事務所関係者、メディア、ウォールの顧客など約300人が来場した」とある。ここからの行はメディア向けの話題づくり、箔付けがみえみえに思えてならない。

 「地元のファッション関係者」とは、実に都合の良い言葉である。その範疇は限りなく広いから、誰でも関係者となってしまう。本来のショーならバイヤーが観覧してしかるべきだし、そう書かれないところがデザイナーが地元の評価を得ていない証左。それに「東京や大阪の専門店数軒と取り引きしている」というのなら招待してもいいし、来ないにしても店名ぐらい記しても良さそうなものだ。

 マイナーなデザイナーズものをお客に売るのはまだまだショップだし、有名店や敏腕バイヤーが見に来てこそデザイナーの格が上がる。それがファッション業界だ。もの作りは確かか、 お客の信頼を得られるクリエーションか、フォローはきくのか。その辺がハッキリしないのでは、記事を読んでも新規に取引する気にはならない。そもそも地元の有名店から地元デザイナーの話を聞いたことがないのだが。

 「モデル事務所関係者」は、一連のクリエイティブ関連事業でようやく地元の事務所も仕事をもらうことができたから、バーターで出席を要請されたのだろうか。福岡アジアコレクションが東京からタレントをつれて来るばかりで、地元に中々おこぼれが来ないのはわかる。しかし、ショーの写真を見る限りでは、抱えるモデルたちが東京の事務所からオファーがあるほどのレベルではない。それが現実だからしょうがないのだが、それでも少しはガス抜きになっただろう。

 結局、来場者300人というのは、ショーのレベルを取り繕うために嵩上げした評価数値と言わざるを得ない。アッシュペー・フランスが運営する「ウォール」の顧客もそれなりにいるだろうが、専門学校生もかなり含まれていると思われる。集客の人数を稼ぐために学生を動員するのは、以前から主催者の常套手段だった。ショーイベントをこの時期に開催したのも、後期の授業がちょうど終了し、頭数を確保しやすいからと考えられる。



 本来ならファッションウィーク福岡の期間中にショーを開催するのがベストなのだが、春休みに入ると県外出身の学生が帰郷してしまうので、この時期しかなかったわけだ。ととのつまりが、この行には「ショーには多くの人間が観客として訪れた」という「権威付け」の意図が透けて見える。これも主催者側はプレス活動と考えたのだろうが、見え透いた魂胆でショーの体裁だけ「パルコレ風」を装って記事を書かせても、どんなステイタスになるのだろうか。業界人が読めば、「提灯記事」以外の何ものでもないのがわかるのだ。

 デザイナーが本当に実力の持ち主なら、東京でも海外でも出て行くだろうし、メーカー側からもオファーがあるはずである。そうではないところに、福岡在住のデザイナーの実力が知れる。その証拠に記事中に登場しているデザイナーは、「香港のカットソーメーカーに呼ばれて半年間働き、帰国した後にブランドを本格的に始めました」とあるが、たかが半年で技術やノウハウを身につけられるわけがない。

 もし、海外メーカーから請われるほどの実力なら、メーカー側が半年で手放すだろうか。第一、香港の就業ビザが降りる条件は、専門性の知識や経験が必要になる。英語も中国語もできず、仕事の経験もない専門学校出が、簡単にビザ取得をできるとは思えない。それ以上に法令では「初回のビザ取得時は2年の就労が認められる」のだから、雇う側が半年で帰国させる方がおかしいというものだ。

 出身校名を見ると、その謎も何となく解けた感じである。福岡アジアファッション拠点推進会議の企画運営委員長の学校である。この御仁が卒業生に恩を売るためにショーイベントを仕切って、パブリシティを繊研新聞にゴリ押しするなど、水面下で申し合わせたのは想像に難くない。でも、記者がその辺のいい加減さを突っ込めないところに、提灯記事に成り下がった元凶があるとも言える。それとも、何らかのリターンでもあったのだろうか。ともあれ、税金でカネをバラ撒いて一過性のイベントをするくらいで、デザイナーが育つわけがないことは確かである。

 FFBが言う「博多駅からすぐという立地もあり、オフィスとしての需要も高まっているが、『ファッションの軸はぶらしたくない』と、若いデザイナーを支援し、FFBの活性化を狙っている」にも、首を傾げたくなる。コンサバメーカーがジリ貧状態の中で、なに浪花節をヌカしているのだろうか。今、アパレルに必要なのは発想の転換であり、活性化させるには異業種からの参入に他ならない。ベンチャー系など気鋭のビジネスを仕掛ける企業をどんどんテナントに迎え入れ、積極的に意見交換を行うなどで自社に足りないものは何なのかを検証しなければ、変わるきっかけすらつかめない。

 デザイナーが自分が好きなデザインの服を作って売ったところで、ビジネスの展望など開けるはずもないのである。ビルオーナーは駆け出しのデザイナーにイベントスペースを貸したくらいで、彼らが恩義にかられて将来店子になってくれるとでも思っているのか。営業力のない若手デザイナーを迎え入れたところで、家賃収入を得られる保証などないのである。今のデザイナーアパレルにはレップのような営業面のフォロー、マーチャンダイザーなどの態勢、さらにベンチャー的発想やITのノウハウが不可欠なのは言うまでもない。そうしたビジネスモデルを構築できてこそ、FFBにとっても魅力あるテナントになるはずだ。

 そのためにはデザイナー側も地元の店舗が売りたくなるような服を作って、実力を証明べきだと思う。ウォールにしても仕入れる側が小物や雑貨を主体にしたがるのは、店舗スペースが限られ、在庫負担が軽いからだし、服なら東京や大阪にもっと優れたデザイナーが大勢いる。こうした状況を知った上で、だったらどんな服を作ればいいのかを察知しなければ、地方のデザイナーなど注目されるはずもない。テレビ局の事業に税金を注ぎ込み、専門学校の学生集めに利用されるようでは、地元ファッション全体の活性化なんて、ほど遠い話である。

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