HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

崩れた戦略バランス。

2020-08-12 06:24:37 | Weblog
 新型コロナウイルスの感染拡大で、百貨店やSCの休業・時間短縮が相次ぎ、アパレルの経営破綻、ブランド終了や店舗閉鎖、希望退職、資産売却が止まらない。先日もワールドが収益力を向上させるための構造改革として、ブランドの統廃合や希望退職の募集を発表した。しかし、リストラはすでに2015年から行われている。今回はコロナ禍の影響があるにせよ、負の連鎖に歯止めがかからない状況だ。

 筆者が注目したのはブランドの顔ぶれ。どれもワールドでは比較的新しいものだ。しかも、寺井秀藏社長の時代にスタートした業態戦略のうち、「FCOM(ファッションコモディティ)」の「ハッシュアッシュ」「サンカンシオン」、「バイイングSPA」の「アクアガール」「アナトリエ」、「百貨店SPA」の「オゾック」と、「専門店卸」を除き全てが入っている。これは何を物語るのか。


SPAが商品作りの精神を退化させた

 ワールドの中で3業態の代表ブランド、ショップが姿を消すわけだから、今のマーケットでは歯が立たなくなったのは言うまでもない。つまり、FCOM、バイイングSPA、百貨店SPA、専門店卸の4本柱で進めてきた成長戦略は、もはや過去のものなのだ。では、その要因は何なのだろうか。



 まず、FCOMのハッシュアッシュ、サンカンシオンは、ともに母親と子供のカジュアルウエアから雑貨までをリーズナブルな価格で揃えた業態。しかし、SCを訪れるお客が成熟してブランドより質か価格かのどちらかで選ぶようになり、割高なわりに質が低い両者は競争力を持たなくなった。しかも、ODMで生産する雑貨は利益が薄く、ウエアや化粧品などをミックスして何とか凌いできたが、そうしたビジネスモデルも限界に来たということだ。

 アクアガールは、若者が百貨店からファッションビルなどのセレクトショップに移る傾向に対応したショップ業態。スタートから数年は「マーク・ジェイコブス」や「シーバイ・クロエ」などと上手くシンクロしていた。しかし、同レーベルはデザインチームが企画しており、デザイナーの個性が際立つ海外ブランドと比較すれば、どうしても見劣りしてしまう。感度の面で主従関係が逆転すると、バイイングSPAは稼ぎ頭を失い機能しなくなる。

 アナトリエは、アクアガールほど高感度ではないが、肝心な同レーベルはデザイン、テイストで似たものがヤングマーケットの中で群雄割拠し、チープなブランドや全国チェーン店に比べると、割高な価格はどうしても足を引っ張る。なおかつ、雑貨やアクセサリーまでセレクトしながら、奥行きがないMDでは競争優位に立てなかった。いちばん厳しいゾーンで、終了を余儀なくされたと言える。

 オゾックは生産・小売りを一貫させたSPA業態で、シーズン中に人気が出たデザインをすばやく生産し投入するシステムを確立した。だが、根幹をなす「QR(クイックレスポンス)」は、POSデータを見てその時に売れている商品を生産し、売上げを稼ぐもの。そのため、シーズン前から企画に時間をかけて商品を作り込むことはない。結果として、MDが売れ筋追求の紋切り型になり、システムが完全に機能不全に陥ってしまったと言える。

 長らく専門店系アパレルとして君臨してきたワールド(ルーツはニットのコルディア)は、地域一番店の目にかなう商品作りをモットーにFC展開も積極的に行ってきた。バブル崩壊の前後から、そうした取引先が弱体化し、売掛金の回収が難しくなってきたため、卸部門を縮小して製造小売りのSPAに舵を切った。だが、それが逆に売れ筋偏重を生んだのである。

 さらにブランド戦略を拡大したことで、自前の企画チームでは人材が手薄になり、外部のOEMやODM業者を活用したために商品の同質化が否めなくなった。アパレルメーカーとして肝心な商品作りを疎かにしたことが自らの首を締めることに。全く皮肉な話である。

 もちろん、ブランドビジネスの宿命である顧客の高齢化や市場の縮小もある。オゾックは1993年のスタートした。当時20歳だったお客は、今では50歳に近いわけで、新たな顧客を開拓できなければ、売上げの維持は難しい。アクアガールは主要ターゲットが若々しいマインドをもつ層だから高齢化の影響は受け難いが、業態として採算ベースに乗せるだけの市場規模や客数の確保は容易ではない。

 ピークが2004〜05年だったとすれば、当時の20歳前半の顧客はすでに30代後半。結婚、出産を経験していれば、いくら高感度でもハイプライスのブランドにはそうそう手を出せない。アナトリエは新たに若い客層を開拓するにしても、このマーケットはよりチープなブランドとお客の争奪が激しく、クリエーションや価格などをあらゆる点を考慮して企画を進めなければならない。そうした力が今のワールドにあるとは思えない。


売場の意見を聞き、それを超える商品提案



 逆に考えると、存続するブランドは、直営展開で顧客のスライドが上手くいっていたり、卸先がしっかり顧客を掴まえているものだ。例えば、アダルトキャリアの「リフレクト」は、販売スタッフの意見を企画に取り入れる古典的な手法で売れている。コンサバで上品なテイストは不変だし、アンタイトルを卒業した層の受け皿にもなる。百貨店の不振が叫ばれる中でも、働く女性がいる限り求められるブランドはあるのだ。

 ハッシュアッシュやサンカンシオンとは対照的に、FCとして郊外SCなどの引き合いが多いのが「シューラルー」。母親や子供のウエア、雑貨ミックスというMDは同じだが、ディテールなどデザインが秀逸な割に、価格はユニクロと同程度。売れる理由が揃っている。ただ、後発に真似され追い抜かれることもあるので、リフレクト同様にさらに上をいく商品提案が競争を制するカギになると思われる。

 これらを総合すると、ワールドが生き残る道は以下のようになるのではないか。卸は取引先専門店の声に耳を傾けながら、タッグを組んでいかに顧客を魅了する企画を打ち出せるか。ワールドがSPAに走ったことを遺恨に思っているところもあるだろうが、それを引づるのではなく共存共栄の精神に立ち返らないと共倒れする。

 数は減っていても販売力を持つ地域専門店なら、客層にあったブランドFC、リザの小型版を任せた方がリスクは少ないかもしれない。もちろん、バーチャル展示会の開催やオンラインによる営業・商談は当たり前になるし、運命共同体として卸先の与信管理から在庫コントロールや販促、イベント展開まで強化することも必要だ。

 直営展開は、SPA大量閉店の理由から学ぶこと。ロスやコストを上乗せした価格で売るのはもう難しい。求められるのは価格に対し、それ以上の価値を提案できるか。巷にないような上質な素材、秀逸なデザインを作ってくれれば、買いたいというお客のわがままにどこまですり寄れるか。メーカーとして顧客を魅了する個性的な商品提案が必要だが、数は要らない。

 また、デジタル化の整備は急務だ。これから必要とされる店舗は、ECとシンクロするショールーム型だろう。一方で、お客からすればプラットフォーマーにはブランドが溢れかえるが、探し求める商品に出会えることは難しい。顧客がイメージを伝えたり、過去の購入履歴からAIが判断して商品を提案するシステムが理想だが、まず素材やサイズ、着心地などよりきめ細かな情報を提供するサイトを構築し、顧客ニーズに合致させることだ。

 ニーズを掘り起こすなら、イレギュラーサイズだろうか。すでに量産ファッションが限界だと考えれば、日本も体型コンプレックスを気にしない企画に動く覚悟がいる。D2CやC2Mといったデジタルシステムを駆使して、個々のお客に対応した商品づくりが市場を切り開く。イレギュラーサイズもその一つだ。15号以上でも既製のパターンに手を加えながら、着やすくておしゃれに見える服ができれば、まだまだニーズはある。

 ただ、実店舗でのアナログな接客販売だけでは、これ以上伸びようがない。デジタルに対応できるスタッフを育成し、タブレットを携行した接客を当然視する。もちろん、EC購入客に対しては、卸先を含めいくつかの店舗に「ピックアップコーナー」を設けるのも手だ。そこで商品を受け取り、返品もできる「エクスプレスサービス」が求められる。

 昨年9月、ワールドはゴードン・ブラザーズ・ジャパンとの合弁でオフプライスショップ「アンドブリッジ」をオープンした。コードンが買い付けたブランド放出品とワールドの余剰在庫を販売するもので、SDGsへの取り組みと在庫の現金化は新しいモデルと言える。ただ、高級ブランドの放出品は鮮度が落ち、色やサイズの欠品も多く、模造品もある。ワールドの余剰在庫はそれをカバーできるが、セールでも売れなかったアイテムばかりなら、お客は飛びつかない。現金化と在庫処分の一手段という程度で、多くは期待できないだろう。

 ワールドに限らずオンワードHDも三陽商会も、ブランド終了や店舗閉鎖、早期退職というリストラ策を打ってきた。しかし、百貨店の三越伊勢丹を含め、抜本的な売上げ回復の戦略は見いだせていない。現状、事業の仕組みを変えて市場の反応があるのは、「カシヤマ・スマートテーラー」くらいだ。それをさらに進めるワールド独自のビジネスモデルが待たれる。アパレル業界の雄が上げ潮になる戦略が打ち出さない限り、まだまだリストラは続くだろう。


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