HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

同じ轍を踏みそう。

2018-02-21 07:14:57 | Weblog
 昨年暮れに閉園した北九州市のスペースワールド跡地にイオンが進出することになった。イオンモールが跡地と周辺の約27万㎡に集客施設を2021年に開業する計画という。

 すでに地権者の新日鉄住金との間で土地賃貸借の仮契約が結ばれており、イオンモール側はショッピングからエンターテインメント、カルチャー、フードまでを融合する「これまでにない施設」を作るらしいが、既存のモールとどう違うかは現時点ではわからない。おそらくこれから詳細な計画が詰められるのだと思う。

 ただ、イオンはこれまでのモール開発でも、自社のスーパー事業を補完する範囲内でテナントを集めてきただけだ。「これまでにない施設」と宣ったところで、旅行客まで呼べるような時間消費型のエンタメ施設なんかをどこまで充実できるのか。イオン自体はそこまで行えるノウハウは持ち得ていないから、自ずと限界があるのは素人目からもだいたい想像がつく。

 「イオンがスペースワールド跡地に進出」とのニュースが発信された途端、ネット民が脊髄反謝しているようだが、地元福岡に住む業界人として背景に絡む事情なども含めて考えると、正直期待薄である。

 昨年の4月時点で、新日鉄住金がイオンモールと優先的に交渉しているのは発表されていた。隣接地ではイオンモール八幡東(延べ床面積約6万7,500㎡)が営業しており、これにスペースワールド跡地の開発が加わると、埼玉の越谷レイクタウン(総店舗面積約18万4,900㎡)を超える国内最大規模になる。そこで気になるのが核店舗、キーテナントがどんな陣容になるかである。

 レイクタウンの例からスペースワールド跡地にも「アウトレットモール」がリーシングされるのでは、との見方がある。問題はエンタメ施設の充実だろうと、アウトレットだろうと、はたして軌道に乗せられるかである。エンタメ施設は、スペースワールドの失敗という前提を考えれば、ハードルはかなり高いと思う。そもそもがバブル期のプロジェクトであり、製鉄所の遊休地を活用するテーマパークという言葉だけに踊らされた面が強いからだ。

 実際に開業して見ると、とにかく施設がしょぼかったのは確かである。目玉のアトラクションもジェットコースターくらいで、別に無重力を体験できるわけでもない。テーマパークが成功する条件として語られる「作ったら、終わりではない」も、端から集客を続けるだけの投資は行われず、自ずとジリ貧になっていた。

 東京ディズニーランドや大阪のUSJのような後背地に大都市圏が控えるわけでもないから、集客できる人数なんて高が知れている。昨今のインバウンドも旅行者が成熟し、来日動機が変化していくことを考えると、全く未知数だ。だいたい、今のエンタメでアニメからパフォーマンス系まで考えても出尽くした感は否めず、とてもキラーコンテンツ足るものがあるとは思えない。イオンだろうと、プロデュースは容易ではないのだ。

 一方、アウトレットモールは、九州では福岡市と鳥栖市にあるだけだが、仮に北九州市に開業しても目新しさは感じられないはずだ。本来のアウトレットは、有名ブランドが製造課程に出したキズものや規格外となった商品、また小売業が売れ残りの持ち越し品を処分するものである。だが、商品以上に施設が増えているため、一部のレアなブランドに専用品をミキシングして、業態として体裁を整えているに過ぎないのである。

 大量生産の米国ですらそうなのに、製造をセーブしている日本ブランドでB級品や規格外の商品が大量に出るかどうか、冷静に考えればわかることである。多くの消費者が「素人騙し」的なデベロッパーの開発思想を感じており、宝探し的に掘り出しものが見つかれば購入しようくらいの来場動機しかもっていないと思う。

 それに景気が良くなれば、プロパーで商品が売れるから、必然的にアウトレットに流れる商品は少なくなる。すでに格安の商品なら掃いて捨てるほどあり、ブランドのユーズドを個人間で取引する市場も生まれているわけで、安さだけで集客できる時代は疾うに終わっている。だから、エンタメをリンクして集客しようという狙いなのだろうが、それぞれに勢いがなければ相乗効果にも現れていかないのは自明の理である。

 マクロ的に見ると、北部九州は福岡市のみが人口増加を続けており、商業販売は福岡市での活発な消費に支えられている。JR博多シティのアミュプラザ博多が18年3月期決算で初めて400億円突破を確実にしたことが何よりに証しだ。ただ、エリア全体の商業販売額は頭打ちなのに売場面積は増えているのだから、北部九州でも完全にオーバーストア状態なのは間違いないだろう。

 それでも、イオンは大型施設の展開で、北部九州での空白を埋めようと躍起になっている。さらに出店余力のあるスーパー事業者も、勢力の拡大を図っている。新たに出店する事業者にとっては、新規参入することでトップシェアを奪い取ればいいわけだから、オーバーストアへの警鐘など出店を抑える理由にはならないのだ。

 福岡市の商業販売が活発と言っても、それは他地域からの収奪とインバウンド効果がシンクロしたに過ぎない。だが、北九州市とて、エンタメやアウトレットで対抗したところで、持ち出された売り上げが奪え返せるとは思えない。過去にはスペースワールド跡地から西に5kmの黒崎駅前でもコムシティが開発されたが、 開業当初からテナントが集まらず、運営者の第三セクターが2003年に130億円の負債を抱えて自己破産している。

 その後、約10年間はホテルを除き、閉鎖されたままになっていた。商業施設部分は07年に沖縄那覇市の建設会社に売却されたが、11年に北九州市が同社から床を買取り、再生計画案を発表、商業フロアの運営主体として福岡の西日本鉄道を選定するなど、再開発に筋道をつけたという例がある。

 他にも小倉駅前コレットの伊勢丹撤退や駅裏のコストコ進出断念、ラフォーレ原宿撤退などがある。それほど、北九州市は大型商業開発でうまくいかない土壌なのだ。今回、イオンに開発が任されたのは、市場のポテンシャルから他社が敬遠したと見ることもできる。

 一方、スペースワールド跡地から東に7kmほど行けば、北九州市の中心部、小倉がある。駅ビルのアミュプラザ小倉、百貨店の井筒屋、魚町商店街、旦過市場などが立ち並んでいることから、市としてはこうした商業地、プロパー業態と直接競合しないことを考え、イオンモールではエンタメやアウトレットに特化させたい狙いもあるだろう。

 許認可に関わる北橋市長は、「市全体の小売業の発展に向けて検討していきたい」と述べるに留まるが、工業都市として栄華を誇った後の人口減少や高齢化など課題が山積の中では、市外から人を呼び込んでカネを落としてもらうには、ハコを作る以外に適当なものが見あたらないというのが本音ではないだろうか。

 JR博多シティが開業から7年ずっと増収増益を続けていることを見れば、首長としては福岡市だけに一人勝ちさせたくない思いは強いはずである。なおさら、東大卒のプライドを賭けて、格下京大出の小川福岡県知事を説き伏せ、TGC(東京ガールズコレクション)in北九州の開催と県予算の拠出にこぎつけたところをみると、今回も自らの政策能力を市民に問うくらいの覚悟で臨んでいるかもしれない。

 ただ、越谷レイクタウンの開業は今から10年前の2008年。当時はインターネット通販もそれほど浸透してはいなかった。しかし、イオンモールがスペースワールド跡地に集客施設を完成させるのは、3年後の2021年になる。ネット通販はさらに進化しているだろうし、娯楽や小売りの姿すら大きく変わっているかもしれない。

 仮にエンタメ施設を主力にするにしても、ディズニーランドに行かなくてもバーチャルで楽しめるくらいの施設を作らない限り集客は難しいだろう。また、消費者が商品を買うことにすら飽きていることを前提に、だったら何にお金を落としてもらうかを考えなければならないと思う。果たしてイオンにそれができるかである。



 熊本でも地震の影響でとん挫しかけたSC「アンビー熊本」がこの秋に一部開業する。こちらは東京のコンサルタント日本エスシーマネジメントが合志市庁舎南側、JT工場前の土地区画整理事業の敷地約10万㎡を開発するものだ。他社が手を引いたことで、地元のメガネ店ヨネザワが手を挙げ、30億円を投じて約3万9,000㎡の土地に大型物産館や飲食店など20店舗を誘致する計画を進めている。また、東側の約3万9,000㎡では鹿児島市のニシムタがスーパーとホームセンターを合わせた大型店を展開する。

 しかし、2kmほど離れた光の森地区は新興住宅街になっていて、ゆめタウンを中心に大小のロードサイドショップががっちりと顧客を掴んでいる。さらに大津、阿蘇方面にかけてもイオンからドンキホーテ、ハンズマン、アベイル、インテリアショップのアクタス、スーパーからドラッグストアまでが揃い、買い物には不自由しない場所だ。
 
 デベロッパーの日本エスシーマネジメントは、「地震の影響で次々とテナントが撤退したり、計画変更を余儀なくされた」と言うが、道の駅に毛の生えたような物産館や鹿児島のスーパー程度の能力で、新たな市場を開拓できるとは思えない。それ以上に地方のマーケットこそ、生鮮品を扱い始めるアマゾンの格好の標的になり得るかもしれない。

 実力差がハッキリしている後発業者が既存の市場を切り崩せるほど、流通ビジネスは甘くないのである。

 消費者はすでに店舗に出かけても、品揃えの限界やMDの浅さに辟易している。だから、なおさらネット通販で買い物するのだ。また、物にそれほど投資をしないのがハッキリしてきているから、エンタメや食で何とか惹き付けなければならないのである。しかし、エンタメや食は消費者が熱しやすく冷め易い典型で、売り上げを維持するのは容易なことではない。

 小売りや不動産の事業者がこれまでとほとんど変わらない業態開発を試みても、消費者の胸を打たないのは火を見るより明らかである。イオンモールもアンビー熊本も途中で戦略転換という同じ轍を踏む予感がしてしょうがない。いい加減、これ以上店を作っても商品は売れないことに気づくべきではないか。まず取り組むべきは、店舗、業態を開発する前にお客を感動させるモノやコト、時間消費とは何かをしっかり考えることである。

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