HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

素材に見るもう一つのW杯。

2014-05-28 12:50:38 | Weblog
 いよいよ2014FIFAワールドカップブラジル大会が6月12日から開催される。日本代表には、なでしこのアジア杯優勝を追い風にして、ぜひとも前南ア大会以上に決勝トーナメントで、ジャパン旋風を巻き起こしてもらいたい。

 一方、ワールドカップは、スポーツメーカーのマーケティングと市場の拡大という絶好の機会にもなっている。大手ブランドは各国の代表チームと契約し、胸についたロゴマークは世界中に露出するわけで、大会前から後にはブランドのジャージやレプリカユニフォームの売れ行きにも直結する。

 それが繊維メーカーや製造アパレルには、市場の拡大、売上げを左右することになり、スポーツショップにとっても競技用とは違う商品の拡販につながっていく。日本人だから日本チームの商品を購入するだけでなく、ファッションアイテムとして他国のジャージやユニフォームを購入する層も出てくるはずである。

 ところで、昨年11月、アディダスが製造する今大会の日本代表ユニホームがお披露目された時、円陣デザインや軽量化とは別の話題が業界を驚かせた。それは前回の南ア大会で採用されたのが東レの「ファブリックダブルエックス」だったのに対し、今回は日本メーカーの製品では無くなったことだ。

 アディダスは採用した繊維メーカーの詳細を明らかにしていない。でも、業界ではもっぱら中国のS社や台湾のN社、韓国のB社といった世界の名だたるポリエステル繊維メーカーではないかとの憶測が飛び交っている。

 東レは前回、それまでの素材に比べ、吸水性は3倍、乾燥速度は2倍向上し、30%も軽量化した高機能素材を提供したと自負していた。当然、日本チームはベスト16入りを果たしたわけだから、ユニフォームや繊維も選手たちの高いパフォーマンスをサポートしたと言っても過言ではないだろう。

 ところが、今回はそうした日本メーカーの高い技術力は、アディダスにとっては何の採用条件ではなくなったということか。と言うより、もう日本メーカーの技術=格上、アジアメーカーの技術=格下というのは、過去のもの、単なる過信になってしまったのかもしれない。

 筆者の知り合いである産地やテキスタイルメーカーの関係者も口を揃えて、「日本製品、日本ブランドが最良ではない」と言っている。つまり、アジアメーカーの製品開発力は、日本メーカーのレベルに限りなく近づいているということだろう。

 であるからこそ、アディダスのような大手スポーツメーカー、特にサッカーを主力にしてクローバル戦略を進めるところは、素材コストに対する機能レベル、クオリティを考え、調達先の繊維メーカーを決めているのだ。それが日本メーカーが自負してきた「高機能素材」が大手ブランドにとって絶対的価値では無くなったことを如実に表す。

 もっとも、選手のユニフォームなら、まだ機能追及の面は残っている。しかし、一般向けのジャージ、特にファッションアイテムを意識したものでは、量産の繊維が使われているのは当然だ。ここにもグローバル戦略の性格が表れているように感じる。

 アディダスの場合、おそらくマーケティングは本国のあるヨーロッパの他に、アジア、北米、南米というエリアごとに行っていると思う。それぞれの市場性にあった商品を開発するということだ。当然、気候や風土に沿った繊維が使われることになる。

 先日、懇意にするフランスの問屋からも、ワールドカップに関わるアディダスの情報が入ってきた。この問屋では日本同様に現地まで応援に行くサポーター向けに、アディダス・ヨーロッパの製品を軸にいろんなアイテムを仕掛けているとのことだ。

 ブラジルはこの時期は冬になるが、亜熱帯気候だからそれほど寒くないかと言うと、試合会場によって気温較差は激しい。だから、コットンの混紡率を上げて汗の吸収を高めたり、メルトンや裏毛にして防寒対策をとった仕様も加えているとのこと。

 例えば、日本代表がコートジボアールと戦うレシフェは、熱帯雨林気候で日本以上に蒸し暑いと言われている。ギリシャ戦のナタールも同様だ。コロンビアと戦うクイアバは、アマゾンの内陸部にあることから平均気温の日格差は、13度以上ある。選手以上にサポーターの温度調整は、難しくなるかもしれない。

 これは他国のサポーターにとっても同じ。だから、スポーツアパレルにとって、ブラジル大会ではアマゾンの内陸と大西洋沿岸、高地と低地でウエアや繊維のマーケティングができることも意義深い。今回大手ブランドの契約先ではアディダスが9ヵ国、ナイキが10ヵ国、プーマが8ヵ国と、ほぼ互角の戦い。

 他には洗濯したら縮んだとクレームがついたドイツの「ウーシュポルト」、ベルギーチームに提供しているスイスの「ブルダ」など、サッカー専門のスポーツメーカーも顔を並べている。

 でも、こうしたスポーツアパレルに素材を提供するのが、ほとんどがアジア系の繊維メーカーだと思われる。いつの間にか日本がお家芸としていた「ファブリック&テキスタイル」がアジアシフトに変わりつつあるのだ。

 でも、それに日本メーカーも指をくわえて見ているだけではないと思う。サムライブルーを纏った日本代表チームの快進撃と並行して、大会後には日本メーカーの覇権奪還への戦術、戦略も興味深く見ていきたい。
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