HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

聖域への挑戦状。

2018-09-26 04:45:35 | Weblog
 ファーストリテイリングがグーグルと協業を強化するという。「グーグルがもつAI(Artificial Intelligence)による画像認識技術などを活用し、商品トレンドや需要を予測して消費者が求める商品をニーズに応じて作り、無駄な在庫を減らしていく情報製造小売業を目指す」そうだ。なるほどである。柳井正社長は日頃から「トップにならなければ」「日々是変革」など、経営者として聞き応えのあるフレーズを吐くだけに、今回も世界の最先端企業とのコラボすることで、自社の立ち位置を明確にしたい意図を感じる。

 しかし、それではどんな商品が売場で展開され、それが本当にお客の支持を受け、今よりも収益アップにつながるのか。それとも、「グーグルと協業する」とのニュースは、投資家を色めき立たせるだけの姑息な手段で終わるのか。ユニクロやGU、他のブランドや事業も見ながら、行きつく先を考えてみたい。

 現在、ファーストリテイリングは持ち株会社として、傘下にユニクロ、GU、リンクセオリージャパン、プラステ、Jブランドなどといったアパレル会社を抱えるほか、フランスのプリンセスタムタム、コントワー・デ・コトニエといったブランドにも中間持ち株会社のFRフランスを通じて100%の出資している。

 今期決算では売上げ2兆1000億円超えも確実だが、国内外で1兆5000億円以上を稼ぐユニクロ、同2000億円を超えるGUが主力になる。好調なブランドはSPAによる量産・量販のスタイルで、売場やサイトに並べた大量の在庫をいかに売り減らすかという原始的なものだ。これまでもPOSなどを利用して、なおかつ新しい情報技術も駆使し、商品投入から在庫消化まで改革して来たはずである。

 それがユニクロで1600億円以上、GUで130億円以上の営業利益をもたらしたのだが、柳井社長にとっては、これくらいでは物足りないようだ。企業として売場に大量の在庫を並べるのは機会ロスを防ぐためかもしれないが、 あれだけの物量を見せられると、「別に今、買う必要はないから、マークダウンやセールを待って買おう」というお客もいるだろう。そして、期末のセールでも売れ残る商品は相当あるはずだ。

 そう考えると、毎年、毎シーズン「無駄な商品」を作り続けているわけで、プロパーで売れないものは「消費者が求めている商品ではない」とも言える。まあ、アパレル業界は長らく人間の勘や感性に依存してきたが、POSが導入されQRシステムが採用されて、少しは客観的データに基づく生産や営業政策が取られるようになった。だが、世界のリーダーを目指す企業にとっては、それさえすでに陳腐化したということだ。

 アパレル業は「人間の創造力と英知、匠の技を駆使して服を作り上げる」側面と、「ビジネスとして量産ラインに乗せ、確実に在庫を消化して収益を上げる」側面をもつ。その二つは得てして相反するものだが、それをどう近づけて「解」を出していくか。経営者の手腕の見せ所でもある。

 ただ、ファーストリテイリングという企業の性格からして、まずは「売れるもの」に重点を置くことから、サイエンスで語られなければ信用できないのだろう。まあ、カリスマ経営者ほど孤独なものはないだけに、頼れるものが人間ではなくAIに行きつくところに、生身のブレーンを育てきれていない焦燥感もあるのではないか。それが今後の綻びにならなければいいのだが。

 他のブランドについても、プラステは価格の割にそれほど主張のある商品とは思わない。出店先も百貨店あり、SCあり、路面ありと、必ずしもターゲットを絞り込んでいるとは言い難い。セオリーと同じ生地を使っているとの話もあるが、それこそプラスJ同様に狙いは効率化でしかない。それに気づいているお客さんもいるだろうし、セオリーのブランドを毀損するリスクもある。ユニクロとの差別化を明確にするには、価格軸ではなく、違ったテイストを固めながらトレンドをいかに起こしていくしかないのである。
 
 海外ブランドを目をやると、 米国カリフォルニアに本拠を置くJブランドもデニムの本場でブランドを確立するまでにはいっていない。日本のデニム織りの技術を生かして行けば、まだまだチャンスはあると思っているのか。

 ただ、デニムだけで市場を開拓できるほど本家米国は甘くないだろう。トップスやインナーのアイテムを含めてトータルコーディネートまで視野に入れなければ、ブランドとして確立するのはほど遠いのではないか。それとも、単品の卸しのみに絞るか、それとて競争相手は無尽蔵だ。本家のAI頼みで、果たして売れるデニムが生み出せるのか。

 フランスのプリンセスタムタムやコントワー・デ・コトニエも、特に好調とは言えない。この2ブランドを世界攻略できるように育てるには、企画デザインなり、素材調達なりのテコ入れが必要になると思う。

 ファーストリテイリングとしては2ブランドを買収し、傘下に収めた理由はユニクロのテイストとあまり遠くない点だったと感じる。そこにもジル・サンダーなどとのコラボで見られた素材調達や縫製仕様などを共有化で、生産効率をあげる狙いもあると思っていた。でも、この2については買収以降、企画の面で大きな変化は見られない。

 柳井社長のことだから、毎度上がって来る決算報告や財務レポートを見る度に、口酸っぱく問題点を指摘し、改善策を指示していると思う。ところが、一向にその動きがないし、現地のスタッフには「ジョーヌなんかに、モードはわからねえよ」と、陰口を叩かれているかもしれないと、疑心暗鬼になっているのではないか。

 柳井社長とすれば、ファッションの本場で仕事をしている人間に対し、いかに現状の問題を認識させ、解決させるか。それには万国共通であるサイエンスの力を使うしかないとの判断だったのではないか。それがフランス人も認めざるを得ないグーグルとの協業ということだ。

 しかしながら、グーグルはアパレルの救世主となり、AIはファーストリテイリングをさらに成長させるのか。死角や弱点はないのか、である。ファーストリテイリングが協業で画像認識技術を活用しようというクラウドAIは、AWS(アマゾンWebサービス)やマイクロソフトが先行している。シェアはAWSが31%、マイクロソフトが18%に対し、グーグルは8%しかない(2017年のデータより)。後塵を拝するシステムで本当に役立つのかと疑問が残る。

 また、画像認識技術の活用で、商品のトレンドや需要を予測し、不要な在庫を減らす仕組みを作ると言っても、協業するわけだからファーストリテイリング側にも優秀な技術者が必要になるが、現状ではそこまでの人材がいるとは思えない。しかも、ファッション、ベーシックなアイテムを認識できる仕様に焼き直していかなければならないわけだ。それにしても、検索エンジンとアルゴリズムで培ったノウハウで、ファッションアイテムのディテールや素材感、微妙な色合いまで体系的にデータ化できるのだろうか。

 例えば、こういうケースが考えられる。「紺が売れたのは、本当は黒がなかったからか、ミッドナイトブルーがあればそちらが売れたのか」「生成り(きなり)は白の範疇に入れるか、黄色の範疇に入れるか」「ベージュは海外で黄土色に近い色になるが、日本でもっと薄い色に解釈されている」などの微妙な色の問題をAIは判断できるのか。

 また、画像認識技術は色や形は識別できたにしても、「生地厚」や「風合い」、「素材のクオリティ」をどう判断するのだろうか。生地を平面というか、側面から撮影すれば、こしや厚みは測定できなくはないが、風合いは人によって感じ方が異なるし、クオリティは画像だけではわからないのではないか。

 つまり、「微妙な」部分をAIがどこまで認識できて、データ化して何が売れるかの答えを出せるのか。現状でもAmazonや海外の通販サイトで、リサーチに特定の色や生地を入力しても、アバウトな検索結果しか出て来ない。それは非常に不便だし、不満だ。微妙に対する解釈は個人の感性差が出るし、統計データと商品のトレンドは、異質な次元のような気もするのだが。

 それとも、ファーストリテイリングは生地厚やクオリティは無視というか、統一した規格のもとで品番によってはフルサイズ、フルカラーは生産するが、売れにくい物は数量を減らしていくのだろうか。ユニクロやGUくらいの品数、サイズ、カラーならそれも可能だろう。ただ、データは時としてゴミにもなると言われる。だから、マーケットがその通りに動かない可能性もあるし、逆に大味なMDになっていくような気もする。

 まあ、ファーストリテイリングとしては人間の頭で考えるのは限界に来ている=売れづらくなっているから、人工知能を使って発想を変え、トレンドやお客のニーズの答えを探ることで、素材開発から企画デザインにまでフィードバックして商品を作る。また、それで物流や販売の仕組みまで変えていこうということなのだろう。

 グーグルだけでなく、クラウドのプラットフォームであるAWSまで活用すれば、必ず何かが変わる。もしかしてこのところ不在だったヒット商品が生まれ、プラステやJブランドはMDが磨き上げられ、プリンセスタムタムやコントワー・デ・コトニエが世界で売れるようになれば、グーグルとの協業は適切な決断だったということになる。少なくともマーケットはそう判断する。そこが柳井社長の狙いなのかもしれない。

 穿った言い方をすれば、ITが進化していく中で、最後に残された人間の仕事は、クリエイティブな作業と言われている。ファーストリテイリングが生み出す数々の商材がクリエイティビティの結晶かどうかは疑問だが、すでに人間の創作にまでAIが介入するのは避けられそうもない。そして、柳井社長は暗にアンタッチャブルと言われてきた領域に挑戦状を叩き付けるつもりだろうか。それとも、人間の知恵と技は決して侵されることはないのか。それがハッキリする日が刻々と近づいている。

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