HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

リアルイベントは在庫リスクを解消できるか。

2012-08-09 14:34:38 | Weblog
 ZOZOTOWNが一般顧客向けにブランドの予約受注会を兼ねたリアルイベントを9月15日、16日に開催する。その狙いは前澤社長曰く、「「洋服を予約して買う時代」にしたいのです。これまでアパレルのショップは在庫と顧客ニーズのミスマッチに悩まされてきた。顧客のためには多くの商品を取りそろえたいが、在庫が多すぎればいずれセールを行うことになりブランド価値が毀損してしまう」ということだ。

 つまり、ZOZOTOWNもネット販売に従事する中、ようやくメーカーの在庫リスクについて理解するようになったといこと。しかし、リアルな「ショーイベント」を行なって予約販売、いわゆる受注が進むにしても、簡単に在庫リスクを抑えられるとは思えない。
 なぜなら、メーカーにとってショーに商品を出展する時点で、どの商品、どのアイテムに予約が集中するかはわからない。だから、全アイテムである程度まんべんなく在庫を積むことになる。逆に在庫を少なめにすれば、予約の機会ロスを生んでしまうことも考えられる。
 つまり、ミスマッチは永遠になくならないのだ。さらにそれらを恐れ、定番的な売り筋商品ばかりを企画生産して出展すれば、クリエーション提案やイベント性が無くなり、ショーそのものが価値が揺らいでしまう。

 欧米のコレクションやかつてのメーカー展示会のように、ショーを半年前の時期に行うのなら、サンプル品だけを出展して予約、受注を取り、そこから生産という流れも可能だ。これなら、在庫リスクも抑えられるだろう。
 しかし、9月14日、15日というシーズンインのイベントではそれもできず、結局、手持ちのシーズン在庫によるショー=予約会となって、リスクが解消されることにはならない。メーカーにとってはぜいぜい売上げの前倒しと、予約による売れ筋の確認ができる程度だろう。
 大手のセレクトショップはすでにいろんな販売チャンネルがあるため、新たな販路や販促の一手段として捉える程度かもしれない。しかし、中小零細のメーカーではショーのために新たな在庫を増やすことはできず、従来のサイト販売と大きく違うことはないだろう。

 顧客に対しては、シーズントレンドの商品を直に見ることができる点で、新たなサービスと言える。ただ、ショーはインスタレーションや展示会ではないから、顧客は素材感の確認も試着もできない。リアルイベントといっても、モデルがランウエイを闊歩するだけでは、その辺が中途半端になるリスクもはらんでいる。
 またZOZOTOWNのフォーマットは、商品の受け入れからモデルフィティング、撮影、コピーやスペックの作成を行ってサイトにアップ。顧客の注文を受けると、ピッキング、梱包、発送という流れだ。最近ではこのフォーマットがルーチン化しており、 モデルの体型にフィットしていないものやアイテムのみの着用でスタイリング提案が非常に稚拙など、クリエイティブレベルの課題が浮き彫りになっている。
 少なくともショーならトップからボトム、アクセサリーまでオンリーブランドでスタイリングし、音響・照明などの演出まで完璧に仕上げないと意味がない。それにはメーカーのディレクターやデザイナーの強力は不可欠だし、モデルの選定からフィッター、ヘアメイクなど裏方の協力まで、専門ノウハウが必要になる。そこまでやって初めて顧客サービスと言えるだろう。

 リアルイベントによってメーカーの在庫リスクを抑えたいのなら、やはりシーズンはるか前にサンプルを見せるショーが理想的だ。でも、昨今では商品の企画から生産のスケジュールは、メーカーによってまちまちで、シーズン前でもすべてのブランドを同じ日に集めるのは不可能に近い。
 なぜなら、クリエーションに力を入れるマイナーブランドは、企画から生産段階の価値創造に軸足を置くから、商品ができ上がるまでに半年から1年程度の時間をかけている。つまり、商品に対するデザイナーや企画スタッフの「こだわり」が違うわけで、たとえ納期の余裕があっても注文を受けてそこからササッと生産し、納品なんてできないのだ。
 逆にSPA化した大手セレクトなら、ショーで予約を受けてシーズン内のクイックレスポンスも不可能ではない。でも、すでにある程度の在庫を積んでいるから、ショーオンリーの商品の受注・生産なんてちまちましたことは行わないだろうが。

 結局、リアルイベントによって在庫リスクを抑えたいのなら、ショーの時期を早める必要がある。シーズンインでの予約会で、どれほど在庫リスクが抑えられるかは懐疑的だ。また顧客サービスなら、ショーそのものの完成度を高めなければならない。
 それでなくても、リアルクローズを利用した「客寄せ興行」は盛んだから、ポイント付与率以上に顧客に商品を買わせる仕掛けが不可欠だ。ただ、全国各地でショーを行うことは無理だから、集客は限定的。地方に住む顧客にとってはサイトで予約すれば十分だから、わざわざ出かけて見たくなるような価値が必要になる。
 莫大なコストをかけたショーで、どれほどの予約売上げが上がるか。継続して行くには、その辺のバランスをじっくり検証することが非常に重要になる。また、新規ブランドの出店手数料が30%程度まで上がり、メーカーからは「ボリ過ぎ」との不満がでている。それだけにそうした課題を一蹴するほどのイベントに持って行けるかがカギになるだろう。

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