HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

どこまで変えられるだろうか。

2014-10-15 04:45:04 | Weblog
 10月7日、ファーストリテイリングがクリエーターのジョン・C・ジェイ氏を新役職の「グローバルクリエイティブ統括」に起用すると発表した。

 リリースをそのまま解釈すれば、 傘下のユニクロほか、「GU」「コントワー・デ・ コトニエ」「プリンセス・タムタム」「セオリー」など、ファストリすべての事業に参画することになる。

 そこで気になるのが、ジェイ氏のキャリアだ。オハイオ州立大学でビジュアル・コミュニケーションを専攻。 1993年、オレゴン州ポートランドに本拠を置く広告代理店「ワイデン+ケネディ」のクリエイティブ・ディレクター兼パートナーに就任した。

 同氏はここでナイキはじめ、コカ・コーラ、マイクロソフトといったグローバルブランドの「広告」および「ブランディング」を数多く手がけている。実はこのワイデン+ケネディ社がマーケティング力に長けているのは有名な話だ。

 同社はグローバルブランドの広告を制作するとき、世界を数ブロックに分けて行っている。例えば、ナイキの場合、米国本国、アジア、太平洋、南米と北米カナダ、そして欧州という形で分割している。

 エリアマーケットによって、コミュニケーション戦略のクリエイティ手法、平たく言えば「広告表現」を変え、成功に導いて来たのである。

 ただ、これはもっともなことだ。いくらグローバルブランドだと言っても、それに対するニーズや価値判断はエリアごとに異なる。言語、ライフステージ、年収、生活実態、嗜好、気候で、求められるものが変わってくるからだ。

 ナイキが狙うスポーツマーケットを見ても、北米はアメフトやバスケット、南米はサッカー、アジアは野球、ヨーロッパはランニングやサッカーと、それぞれのエリアで人気があるジャンルは一様ではない。

 また、気候や風土が違うので、求められるウエアの機能も異なる。赤道直下の国々なら、即乾性やクールダウン力。カナダや北欧では、防寒や保温性が重視される。だから、ナイキ側もそれぞれのマーケティングを行っている。

 当然、市場に沿って広告表現を変えていないと、コンシューマーと円滑なコミュニケーションができず、的確なアプローチにはならないということである。

 だから、同社はナイキのCMでも、エリアごとに違うものを制作している。例えば、サッカーW杯のアルゼンチン大会が開催された時に制作したのは、アルゼンチンだけの市場を対象としたものだ。

 米国本国向けでも、NYでオンエアされるスポットCMと、ロサンゼルスで流れる提供CMは異なっている。同じ米国の都市でも文化が違うから、ナイキはエリアごとに、広告のクリエティブ戦略を変えるのだ。

 つまり、同氏がこれまでワイデン+ケネディ社で手がけたコミュニケーションワークの中で、巧みなマーケティングのノウハウと、広告ビジュアルに見られる秀逸な表現力に、ファストリの柳井正会長がフリース以来、再度着目したということだろう。

 ファストリとしても、傘下のブランドで狙うターゲットは違う。ユニクロはベーシックで、GUはトレンドを取り入れているから、メーンの客層は異なる。

 また、コントワー・デ・ コトニエやプリンセス・タムタムは同じフレンチテイストでも、プライスラインやターゲットは同じではない。セオリーはNYのキャリアブランドで、価格はブリッジラインだ。

 コントワー・デ・ コトニエは数年前、ケリガングループ傘下のレッドキャッツで通販にも参入していた。しかし、コストパフォーマンスに優れたブランドが数多く、通販ビジネスで一定のポジションを確保するまでにはいかなかった。

 ブランドバリュが認知されていなければ、ただ単に新たなチャンネルを構築しようとしてもうまくいかないということである。

 つまり、ファストリが世界有数のファッションコングロマリットを目指す上では、今以上に傘下ブランドのプレステージを上げていかなければならない。それに加え、各ブランドが狙う市場を的確にセグメントするには、コミュニケーションのクリエイティビティは、最重要なファクターになる。

 尤も、ユニクロの広告表現は従来は、ギャップを手本とした。アメカジブランドに見られる特長として、シンプルでインパクトのあるビジュアルづくりがうまい。白ホリのスタジオでのモデル撮影で、お客の目がアイテムそのものに行くように仕向ける。

 「インディビジュアル広告」と呼ばれる手法で、ユニクロは店舗販促ではこの手法を盛んに取り入れていた。最近ではH&Mが店舗やビルボードに使用している手法と言えば、おわかりだろう。テレビCMについてはイメージ型へと移行しているが。

 ところが、欧州のファッションは違う。ブランドに合致したストーリーやシチュエーションをしっかり組み、ロケなどを駆使してブランドの世界観やイメージを訴求する。ブランドが生まれる土壌で、広告表現も大きく異なるのだ。

 これはグッチやアルマーニのようなラグジュアリーブランドに限った表現ではない。コントワー・デ・ コトニエのようなカジュアルブランドにも共通する。市場やターゲットが違うのなら、表現する感性も変えないと人の心は打たないのである。

 柳井会長は今後のクリエイティブ戦略について、「今のビジネスのグローバル化を進めていく。そして世界を変えていく」と、いつもながら大風呂敷を広げたが、とどのつまりジェイ氏を起用した背景はそういうことだと思う。

 まあ、柳井会長は「私と、そして時には私に代わって、各ブランドがどうあるべきか判断していってもらう」と、今回も佐藤可士和氏を起用した時と似たようなことを付け加えていた。

 ただ、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」と言っても、商品ありきで始まる広告づくりでは、自ずと限界があるは言うまでもない。

 ここからはファッション的なアプローチで考えてみよう。確かにユニクロはブランドとして確立したし、収益も好調だ。しかし、他のブランドは必ずしも良いとは言えない。

 現にコントワー・デ・ コトニエとプリンセス タム・タムの二事業を統括したナンシー・ペドットCEOは今年9月、就任からわずか1年足らずで退任している。

 仮に理由が「ブランドの立て直しが期待外れに終わった」ということなら、どうだろう。広告のクリエイティブ戦略を磨いた程度で、他のブランドも売上げがアップするほど、簡単なことでは無いということである。

 ファッションマーケティング的な視点に立つなら、なおさらだ。グローバル戦略を進める上では、市場ごとに商品を作り替えていかないと商品は売れない。これは鉄則である。ヨーロッパ人と中国人の好みが同じとは考えにくいからだ。

 ユニクロはアイテム数が多いから、十分に対応できそう言ったところで、たかが知れている。ユニクロよりはるかに売上げが大きなナイキやアディダスですら、アパレルでは欧州と米国とアジアではデザインを変えている。

 もちろん、ファストリもその辺は理解しているはずだ。そのため、コントワー・デ・ コトニエやプリンセス タム・タム、セオリーといったM&Aによるブランド確保だけでなく、+Jなどの欧米受けするデザインも仕掛けている。

 しかし、コラボブランドが必ずしもサクセスしたとは思えない。 商品のテイストが変われば、店づくりも展開方法もVMDもオペレーションも変わってしかるべきだ。なのに、それらはユニクロのままだった。それではうまく行くはずが無い。

 9月末には店舗&期間限定で、+Jを復活させた。ところが、初日にファンがどっと駆けつけたため、売れ筋のデザイン、サイズがすぐに欠品。2日目で売場はグチャグチャになっていた。前回の+Jの反省点がほとんど生かされていなかったのだ。

 コントワー・デ・ コトニエとプリンセス タム・タムについては、経営トップの首を付け替えても、好転しなかった。やはり、ファストリにはファストリの血脈があり、そのDNAによってブランドが生きるか否かが決まっていると言わざるえない。

 また、新しいブランドを仕掛けるにしても、商品だけでなく売場から販売まで新しくしないと、孵化しないということである。柳井会長のコメントからは、傘下ブランドにおけるその辺の運用面も、ジェイ氏に期待しているようなニュアンスが読み取れる。

 ただ、ファッションのクリエイティビティとなると、素材から色、デザイン、パターン、縫製・加工、VMDや販売手法、店づくりまで条件が機能して、実現する。

 素材ひとつをとっても、糸選びや織り方で、組織が変わり、肌触りや風合いは大きく変違ってくる。それが最終的なデザインを左右する。また織りや染めの一つ一つがブランドの価値を上げていく。秀逸で手練な技によるフォルムが着心地を生む。

 条件が揃ってこそ形になり、いろんな手法のもとで展開され、優れたコミュニケーション戦略によって、ブランドへと昇華していくのである。

 ファッションのクリエイティビティとはそういうものだ。ジェイ氏が世界的なクリエーターと言ったところで、それはビジュアル表現の専門家であって糸へんの人間ではない。本来ならマーケティングは商品づくりにフィードバックされてはじめて体を成すはずだ。

 だから、ファストリが各ブランドにおける商品づくりはそのままで、コミュニケーションやビジュアル表現のみに注力したところで、服が変わり、ブランドのプレステージが今以上に上がるとは思えない。

 稼ぎ頭のユニクロが工業製品的である限り、ブランディングと広告表現のみでどこまでマーケットを広げられるか。限界値はあると思う。まして、他のブランドのマーケティングもどこまで広告のクリエイティブ戦略に生かしきれるかは疑問である。

 「CMは変わったけど、商品は全然変わんないね」。少なくとも北米や欧州、日本のような成熟したマーケットでは、そんな声が多数派を占めるかもしれない。
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