HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

コレなら、高くない。

2023-02-01 07:26:06 | Weblog
 1月6日、良品計画が発表した2023年8月期の第1四半期短信(22年9月1日〜11月30日)では、営業収益は新規出店に伴い増収だったが、営業利益は対前年比で54.9%も減少(50億2100万円)した。

 その要因は原材料の高騰やサプライチェーンの混乱。そして、急激な円安による仕入れ価格の上昇もある。そのため、良品計画は1月13日には値上げに踏み切った。さらに2月3日にも値上げ第2弾を実施する。春夏商品の2割が対象で、値上げ幅は平均で25%。カテゴリーは大型家具からプラスチック収納、布製品、食品、生活雑貨までに及ぶ。

 昨年10月、堂前宣夫社長は2022年8月期連結決算発表で、純利益が前期比28%減(245億円)だったことを受け「商品力、品揃えの強化を進める」と公言。衣料品では同年秋冬物から商品開発部にアパレル経験のデザイナー職を増やし、生活雑貨についても体制を強化すると明らかにした。また、工場直取引の比率を24年8月末までに約8割に高めて原価低減を図りながら、残糸などを活用した商品の開発を進めるなど、矢継ぎ早に対策を打ち出した。

 それからわずか4ヶ月という身近い期間では、まだまだ成果が出るとはいかない。一方で、原材料の高騰や円安への対策は限界に来ている。商社依存の生産体制を見直し、コスト圧縮に努めて価格を維持してきたが、ついに利益率を改善するための値上げに踏み切らずを得なかったということだ。



 もちろん、単なる値上げでは客離れを招いてしまう。そこで、値上げ商品とは別に価格を維持した新商品を投入する。水洗いしても乾きやすい素材の「ベッドシーツ」がそれだ。綿製品のシーツは値上げの対象となるため、無印良品が得意とするジュート、竹といった安価な天然素材を活用して乗り切る構え。ただ、これから寝苦しい夏場を迎えることを考えれば、綿以外の素材が消費者にどこまで受け入れられるかは不透明だ。

 家具は商品の回転も鈍く、一度購入すればなかなかリピーターとはいかない。そのため、価格競争はせずに月額定額サービス、いわゆる「サブスク」を導入する。また、不要になった家具の引き取りや修理、ヴィンテージや中古家具の販売にも乗り出す。経営不振に陥った大塚家具の例を見るまでもなく、家具販売は店舗運営費など高コスト構造がネックになっている。かたや売れるアイテムはライフスタイルの変化が影響し、テーブルやソファ、ベッド、学習机、カーテンなどの消耗品と限定的だ。

 サブスクの導入は、「部屋の模様替えのために家具を買い替えるのは大変だが、定額性ならやってみたい」という消費者心理を捉えたものと言える。また、そのまま使い続けることもできるというから、家具全体の動きを見ながら生産や供給網にもフィードバックして、家具の製造販売について最適化を図る狙いもあるだろう。

 また、無駄な廃棄を抑えるSDGsの流れからすれば、粗大ゴミになりやすい家具は再利用して循環させた方がいい。こうした姿勢は消費者から支持を集め、海外投資家からも好感触を得られるとの判断もあったと思う。

 これまであまり表に出なかった脱炭素への取り組みも始めた。無印良品の生活雑貨ではプラスチックを使用した商品も少なくない。そこで、代わりに紙を使用したり、リサイクル商品に変更する。全店でプラスチック商品の回収や黒色リサイクルプラスチックの販売を進めながら、他社と共同で事業化に取り組む試みもスタートした。


半数を入れかけた衣料品企画チームに期待

 無印良品が変わったと思えるには、まず安さを全面に出しすぎた衣料品の立て直しだ。昨年の決算発表時、堂前社長は「22年の秋冬物からアパレル経験者のデザイナー職などで中途社員を増やし、商品開発に関わる人員の半数を入れ替える」と、テコ入れに言及した。



 その効果が出たのかどうかはわからないが、このコラムで取り上げた機能性インナーの「あったか綿」シリーズは、全体の売上げを押し上げるヒット商品に躍り出ている。このカテゴリーには各社が参入しており、保温性、価格に次ぐ差別化がカギになっている。その点で他社の合繊混紡に対抗し、無印良品は「綿100%」で勝負に出たわけだ。これがうまく奏功したと言えるのではないか。



 中でも、筆者が注目したのは「厚手ロングタイツ(1490円)」。価格は他社の1.5倍〜2倍だが、12月の中旬に福岡大名店はすでに品薄で、キャナルシティ店でも韓国人旅行者がまとめ買いしていた。通販サイトでも黒のL、LLは完売していたので、慌てて購入した。穿いてみると、保温力にそれほど差はないが、フィット感は上々で肌ざわりもいい。売れているのは、綿100%で静電気やアレルギーの心配がないこともあるだろう。

 アパレル市場を見渡すと安い商品は溢れている。だから、差別化するならコスト増で価格が多少割高になっても、「お客に求められる商品」を開発せざるを得ない。機能性インナーは綿100%と保温機能の両立がが決め手になり、お客を見事に捉えたと言える。こうしたことから他のアイテムでも「天然素材」と「ミニマル(シンプル)」という無印本来の企画に立ち返るべきではないかと思う。

 トレンドはルーズやリラックスに揺り戻している。無印良品も「Labo」では「性別や年齢、体型に関係なく着用できるサイズ感の服」をコンセプトに商品を企画しているが、このカテゴリーは普段着やホームウエアの延長線でしかない。だから、需要を再活性する意味でリブランディングというか、別のカテゴリーとして多少「オン」「オフィシャル」テイストに振った商品を企画してもいいのではないか。

 昨年、紳士服のアオキはパジャマスーツを発売した。合繊でケアが楽、オン対応にも向く条件が重なり大ヒットした。ただ、無印の企画担当者がこれを焼き直すくらいなら、何のためにアパレル経験者を採用したのかわからない。むしろ、天然素材で肌触りよく、生地に「コシハリ(質がいい)」があり、「ケアが楽(洗濯が効く)」で「シワにならない」くらいの欲張った企画でないと差別化にはならない。

 デザインに凝ったり、装飾を施したりは、ラグジュアリーやデザイナーブランドに任せればいい。無印良品に必要なのは素材にこだわり、ミニマルなデザインで、品質をキープしたもの。アイテムはジャケット、シャツ、パンツ、ニット&カットソーで、素材は綿、綿麻、綿ウールで十分。だから、誰もが着られるのである。

 企業規模からして素材開発から行うのは、決して難しくないはず。その辺のベクトルで新たなアイテムを作り出すことが無印良品の衣料品を強化することだと考える。「コレなら、高くない。」がキャッチコピーとなるような商品群だ。他社にない企画としてはミニマルながら、スタイリッシュでシャープなデザインに仕上げてもいい。それならファッション感度が敏感なフランスやイタリアで先行販売してテストマーケティングするという手もある。



 アパレル以外では、「日用品や消耗品への注力」と「地域密着」という目標を掲げるが、どうなのだろう。日用品や消耗品への注力として、昨年9月末にJR三鷹駅に出店した「無印良品500(500円以下の商品もある)」を2023年2月末までに都心主体に27店舗、その後年20店舗のペースで出店する計画という。

 だが、このゾーンにはすでにダイソーの「スタンダードプロダクツ」、パルグループの「3COINS」など競合がひしめく。価格が割高な無印良品から100円ショップに流れたお客が300円の壁を超えて、舞い戻るとは思えない。無印良品にとっての勝算は厳しいだろう。



 地域密着は、昨年11月に東京・板橋にオープンした「無印良品板橋南町22」を試金石にするようだ。しかし、こちらも地元スーパーに慣れ親しんだお客を無印ブランドだけで呼び寄せるのは容易ではない。なおさら生鮮、青果の充実度では、どうしてもスーパーの後塵を拝してしまう。識者の中には、店内のイートスペースで無印良品が充実する「レトルトカレーなどを食べられるようにすれば武器になる」との意見があるが、どうなのか。

 イートスペースと言っても、どこまでの客層を狙うかでメニューも、調理法も異なる。温め程度のレトルト調理ならまだしも、きちんとした料理を出すには店内厨房(ガス配管なのかか、オール電化かで設備コストが変わる)が不可欠で、出店投資が嵩む。お客の滞留時間を伸ばせて、客単価をアップできるかは未知数だ。まずは無印良品が変わったとお客にいい意味で感じてもらえること。優先順位をつけながら実践していくしかない。


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