HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ジャーナリストになるには。

2011-09-02 10:06:18 | Weblog
 前回書いた「ファッション教育の行方。」は、かなりの反響をいただいた。そこで一歩突っ込んで、「ファッションジャーナリストになるには、どうすればいいのか」について書いてみたいと思う。拙速に結論を出す前に、かつて大学生の間でも似たケースがあったので、取り上げる。
 2002年、サッカーW杯日韓共催の年。慶応義塾大学の体育会系学生の間では、「なりたい職業」のダントツが「スポーツライター」だった。就職セミナーで基調講演を行なった気鋭のサッカージャーナリストは、「どうすればスポーツライターになれるか」「スポーツライターにはスポーツの経験が必要か」という学生の質問にこう答えた。「スポーツライターは何でご飯を食べてるかというと、それは記事を書いて。つまりライターなんです」と。
 そして、ライターになるには幅広い視野で世の中の事象に疑問をもち、それを解明するために取材を重ねて記事を書く勉強をする。スポーツを見るのはそれからでも遅くないといった類いのことを、付け加えた。

 ファッションジャーナリストに置き換えても、同じことが言えるだろう。では、どうすればなれるかだが、これがそう簡単にはいかない。
 基本的にファッション誌や業界紙誌の記事を書くには、出版社か新聞社に入らなければならない。アンアンならマガジンハウス、JJなら光文社、LEONなら主婦と生活社、業界紙誌は繊研新聞などである。
 大手出版社は新卒採用を行っているが、受験資格はほとんどが4大卒以上。それでも競争倍率は高く、論文試験があって高度な文章能力が要求される。この時点で悲しいかな専門学校のみの卒業生は対象外だ。 
 ただ、めでたく入社できたとしても、みんながファッション誌に配属されるわけではない。大手には総務や経理、営業、広告など、編集にも単行本や週刊誌がある。「グラマラス」の編集をやりたくて「講談社」に入ったとしても、編集希望ならまず「週刊現代」に配属されるケースが圧倒的に多い。
 繊研新聞はダイレクトにファッション、繊維関連のニュースを扱うが、定期採用はなく欠員があれば募集。業界誌の「ファッション販売」も出版社の「商業界」に入社して同編集部への異動を希望するしかない。しかし、それまでに営業から広告、コンビ二や飲食などの専門誌も経験する。
 だが、別の編集部で企画や夜討ち朝駆けの取材、見出しの付け方やレイアウト、原稿入れなどを経験することは、ファッションジャーナリストになるために決して無意味なことではない。

 要するにメディアの世界に入っても、ファッションジャーナリストに近道はないのである。だったら、いっそファッション業界に入って専門知識を学んでからという手がなくもない。もっとも、ジャーナリストには取材を重ね裏を取って記事を書く能力が不可欠。これがファッション業界で学べるかは疑問だ。潜在的な文章能力があれば、メディアに寄稿することはできるが、それは業界人としてであって、ジャーナリストではない。
 甲子園に春夏4度出場し、慶応大学卒業後、スポーツニッポンの記者として健筆を振るい、福岡ダイエーの2軍監督まで務めた有本義明氏。昭和44年夏の甲子園決勝で太田幸司投手と投げあい、明治大学卒業後に実業団を経て、朝日新聞の記者に転身して後輩を取材し続ける井上明氏のように、スポーツ界には「するスポーツ」を「見る、書く能力」として開花させた方々がいらっしゃる。
 しかし、ファッション業界人で専門能力を生かしジャーナリストに転身して活躍されている方々を、筆者はほとんどご存知申し上げない。逆にジャーナリストからデザイナーに転身したケースは、海外では数多く見られるが。

 このところ、拙書をご自身のブログ「南充浩の繊維産業ブログ」(blog.livedoor.jp/minamimitsu00/)で取り上げてくださっている南さんは、元繊維業界新聞「繊維ニュース」の記者。そのブログでは疲弊した産地の現状から、職人さんの技の裏にある思い、メーカーに必要な起死回生の戦略提案まで、業界のありのままを微に入り細にわたって論じられている。記者として業界の表から裏まで知りつくしている同氏こそ、真のファッションジャーナリストだと思う。これはお返しでも、お世辞でもない。
 専門学校が生き残り策として、「エディター」「プレス」の授業を行なうことに異論を挟むつもりはない。しかし、 講師の中には手詰まり感から「トレンド研究」や「プロモーション」など総花的な内容に逃げる方もいる。ただでさえ専門学校にはハードルが高い世界なのに、こんな場当たり的で目的がわからない授業では、あまりに学生がかわいそうだ。
 エディターやジャーナリストを目指すのなら、少なくとも1年間は企画の立て方や取材・インタビューの方法、見出しや記事の書き方、写真撮影、原稿入れやレイアウトをじっくり学ばなければならないだろう。いくらファッションを一生懸命に勉強したところで、ファッションジャーナリストになれないのは前出の通り。
 映画「プラダを着た悪魔」では敏腕編集長が登場したが、ランウェイにかぶりついて最先端のファッションに触れ、レセプションパーティに参加するばかりがファッションジャーナリストではないのだから。
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