HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

安く作らない意思。

2019-07-17 04:37:33 | Weblog
 今週もSDGs(持続可能な開発目標)について書いてみたい。2019年8月号の「ELLE JAPON」が「GO GREEN 地球に優しいモードって?」というタイトルで、特集を組んでいる。



 エコやリサイクルへの関心は女性の方が高いからか、ELLEの読者層は30代以上で、キャリアウーマンやエグゼクティブもいる。当然、世界的な関心事には敏感のはずで、編集サイドが本家の企画を焼き直したとも考えられる。時期的にもグラビア中心の企画より、読み物の方がセール疲れの骨休めにはもってこいだ。

 SDGsについてアパレル業界が関わる問題には、まずマテリアル(原料)やアトリエ(製造工場)で途上国に頼りがちなこと。次に過剰生産で増え続ける在庫、廃棄による地球環境への負荷がある。そして、原料の生産や商品の製造に携わる人々の処遇改善や公正な取引(フェアトレード)も考えなければならない。

 特集記事も取り上げているが、世界のモードを引っ張るフランスが「売れ残り品の廃棄禁止へ」という施策を打ち出している。国家が規制に踏み込まなければ、メーカーも、卸も、小売りも気づかないし、業界の未来はないとの意識変化なのか。まずは自らがやることで、世界をリードしていこうとのメッセージもあるだろう。

 フランスではこれに先立つ2016年、一定規模を超えるスーパーで賞味期限切れ食品の廃棄が禁止された。といっても、どうしても売れ残りは出てしまうので、予め契約した慈善団体への寄附や家畜の飼料、農産物の肥料に転用することが「義務」づけられた。違反した場合は「罰金」が科せられる。こうした動きがアパレル商品の在庫や売れ残りについても、廃棄を禁止しよう機運を高めたのは言うまでもない。

 フランス政府は以前から循環型経済への移行を進めており、エドゥアール・フィリップ首相は「2021年までにリサイクル可能な製品にはその旨を示すロゴマークをつける」と表明している。アパレル商品の廃棄禁止は、メゾンでずっと行われて来た「ブランド毀損を避けるための焼却処分」にメスを入れるもので、さらに一般のアパレルに対しても、値下げで売り切るには限界があることから、「リサイクルについても前向きに取り組め」とのお達しと受け取れる。

 廃棄物を無くすためにリデュース、リユース、リサイクルを進めるのは、あくまで消費国、消費社会の循環である。これだけではSDGsを達成していくには片手落ちで、原材料を生産し、アパレルを製造する国々への支援も不可欠になる。貧困をなくし、質の高い教育を行い、健康衛生に注力し、公正で公平に取引する。これに製造委託するアパレルがどこまで関われるかは難しいが、フランスには積極的に取り組むSPA企業もある。



 1988年9月にパトリック・フレッシュ氏がパリ市内のサントノーレ通りに1号店を開いた「L.D.B(LOFT design by)」。現在パリに8店舗、リヨン、サント・ロペに1店舗ずつを展開し、国外にはオンラインサイトで販売しているが、ここもSDGsには積極的に取り組んでいる。

 まずL.D.Bとはどんなブランドかを説明しておく。コンセプトはフランス人が好みそうなレーショナリズム(合理主義)を具現化し、アイテムは日常の生活に溶け込むミニマルなシャツ、パンツ、セーター、スウェット、Tシャツしか作らない。色もグレー、ベージュ、ブルー、茶などのベーシックカラーに絞り込んでいる。(日本で一時コムサがライセンス契約を結んだ期間もあるが、本家とは似ても似つかなかった)



 春夏と秋冬のコレクションを海外の提携工場で一括生産して、コストを抑えている。筆者はたまたまパリのショップで見たアイテムが気に入り、裏地がカットソーのパーカーとギンガムチェックのシャツを買った。その後も、ニットジャケットをオンラインサイトで追加購入している。パーカーとジャケットは今も時々着ているが、購入した当初は自分で「小洒落た無印良品」と呼んでいた。

 デザインを削ぎ落し、アイテムを絞り込むから、それほど細かい技術や特殊な設備を必要としない。途上国の提携工場で生産体制と職工を育てながら、仕事を発注していくやり方である。 筆者が購入したシャツも、原産国は、フランスが宗主国であったインド洋に浮かぶ島「モーリシャス」だった。反面、素資材にコストをかけることができるから、丈夫で長持ちする。


商品1購入で本1冊贈呈

 このL.D.Bが理念とするのが、「Nous choisissons nos fabricants comme nous choisissons nos matiéres, dans un esprit de recherche d’excellence et d’ethique.」。直訳すれば、我々は研究の優秀さと倫理の精神を掲げ、自ブランドの材料を選ぶのと同じように製造業者を選ぶ。

 一見、自社なりのポリシーとも見受けられるが、言い換えれば、疑う余地のないほど倫理観をもつ相手先企業としか仕事をしないという意味でもある。詳しく調べると、工場のオーナーに、我々はそこで働く労働者とも友好な関係を築いていくと、はっきり宣言している。取引先の工場には「倫理憲章」に署名させているのだ。

 多くのアパレルが利益を出すために原価を抑え気味だ。その分のしわ寄せは途上国の製造現場、工場に行っている。委託先では労働環境が極めて劣悪だったり、小学生のような子どもが働かされたりと、倫理観の欠如が指摘される。不当に安い賃金や労働環境を改善していくには、労働者が工場のオーナーに対し、自分たちの権利を主張できるようにすること。L.D.Bは製造を委託するアパレル側にも目を光らせることが、GDGsの達成では重要であるとの主張なのだ。

 L.D.Bが具体的に実践するのは、「Pour chaque vétement acheté, nous offrons un livre à un enfant.」である。アパレルは常に文化と共生関係にある立場から、透明で善良なエコシステムを確立して地域社会を支援する考えのもと、衣服が一つ買われるごとに=衣服の生産国で困っている子供たちに1冊の本を提供するものだ。



 つまり、SDGsに掲げられる「質の高い教育をみんなに」の達成に取り組むこと。L.D.Bではこの活動を「BOOKS 4 ALL We support education」と名付け、教育支援として一つのサイクルでとらえている。それは素資材があって、商品を製造でき、ショップに並び、商品が一つ売れると、本1冊を生産国に還元するという考え方だ。

 穿った見方をすれば、その分のコストが商品単価に載っけられているとも言える。確かに価格はTシャツが50€、シャツが65€、パンツが95€と145€。デイリーカジュアルにしては割高だが、品質は合理的なフランスが好むほどの高さをキープ。筆者が購入したパーカーも20年以上を経過し、これまで何度も水洗いしているが、ほとんど劣化は見られない。最低でも4〜5年は着れるので、十分に元は取れる。本1冊のコストなら、十分に吸収できるだろう。

 翻って日本のアパレルはどうだろうか。メディアは「日本の服の4枚に1枚は新品のまま廃棄…その数は年間10億枚にも及ぶ」と警鐘を鳴らす。しかし、まだまだ余った在庫をどうにかして処分するという次元でしかない。商品単価を下げるためには大量生産しなければならないという理屈だが、材料費や工賃などの絶対額は増え、費用は嵩んでいる。商品が大量に売れ残っているのだから、その分のカネは溝に捨てていると言ってもいい。

 日本でそこまで切実に考えているアパレルがあるだろうか。まして原価率を上げて商品価値を高め、生産量の適性化に踏み込むところは、ほとんどない。世界には逆に商品の質を上げることで、顧客に買ってもらうのと同時に、製造を委託する国々の教育支援にも貢献していくところもあるのだ。フランスのアパレルでも、アラを探せばいろいろ問題はあるだろうが、地道な取り組みが批判される理由は無い。

 ELLEも取り上げているが、漸く慶応大学の研究チーム「シンフラックス」が、AIとアルゴリズムを活用してパターンメイキングで廃棄される生地をゼロにする技術を開発した。いかにも日本らしい取り組みと言えるが、1着あたり用尺を減らして生産効率を高めることはできるものの、1反あたりの生産枚数が増えれば在庫にならないとも限らない。量産のファッションアイテムである以上、やはりお客の嗜好を外せば売れ残ってしまう運命なのだ。

 技術大国の日本だから、生産面や販売面でのイノベーションに取り組むことはわからないでもない。しかし、SDGsの見地から考えると、製造を委託する途上国の教育レベルが上がり経済発展していけば、無秩序なローコストでの生産もいずれ限界が出て来る。20年程度で中国の人件費が上がったことを考えると、エクセプトチャイナの国々もそれほど遅くない時期にそうなるのは容易に想像できる。

 エコやリサイクルだけでなく、製造委託先の工場や人々と共存しながら、いかに魅力ある商品を作り、お客の共感を得ていくか。SDGsが日本のアパレルに突きつける真の命題は、安く作らない経営の意思も必要だと暗示している気もする。

コメント
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