HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

試着に優る技術か。

2019-07-03 04:43:42 | Weblog
 ZOZOTOWNを運営するZOZOは、自分の足のサイズを計測できる「ZOZOMAT」を発表した。プレスリリースによると、原理は約50cm四方のシートに足を置き、専用アプリをダウンロードしたスマートフォンで足を撮影すれば、足型の3D計測を可能にするものだ。計測の方法はシートに足を置くだけだから、よりシンプルになったと言える。

 また、ZOZOSUITではスーツ製造や無料配布にコストが嵩んだことから、ZOZOMATは印刷物にして配送経費を下げ、さらに顧客がPDFデータをダウンロードすれば、自らプリントアウトできる手法もとられている。

 ただ、ビジネス展開は大きく異なる。ZOZOSUITは計測データをもとにオーダーメイドのスーツやジーンズなどのPBを拡販する目的だった。これに対し、ZOZOMATはお客が自足のサイズを知ることより、モール出店社の靴を購入しやすくするのが狙いだ。データをもとにZOZO自らが靴のPB製造に踏み込むとの発表はない。

 一応、ブランドやメーカーとの取り組みには活用し、MSP(Multi Size Platform/SやM、Lなどにとどまらない20~50程度の多サイズ展開)を靴でも行う構想はあるという。だが、これにしてもメーカーが製造し、在庫リスクを持つことになるので、服と同様にどこまでの規模で実現するかはわからない。ZOZOとしてはスーツの課題、PBの失敗が教訓となり、今回はリスクを避けたようである。

 そもそも、靴はメーカーやブランドで「サイズ感」が異なる。それぞれ独自の「木型」を使って製造しているから微妙に寸法が違う。表示サイズを確認するだけでなく、実際に試着をしてみないと、自分の足に合うのかはわかりづらいのだ。だから、現物を確認しないECでは、靴の購入に二の足を踏むお客は少なくなく、アバウトなサイズ把握で注文したお客が返品するケースが後を絶たないと思う。それはZOZOTOWNにおける靴の流通総額が約360億円に止まっていることからもよくわかる。

 こうした課題を解消するために、ZOZOMATは、用紙上で6つに色分けされた円弧の部分にスマホを置いて撮影することで、自足のデータを360度で計測できるようにした。また、「詳しいサイズを見る」をタップすると、足の縦の長さや幅、甲の高さなど7項目の詳細な数値を知ることができる。ZOZOSUITよりバーチャル計測の精度を高めることで、試着をしなくても靴の購入ができるようにしたいのだろうが、果たして…

 足型の自動計測はかなり前から存在する。筆者が初めて見たのは、1996年、ニューヨークに「NIKE TOWN」がオープンした時だ。当時、ナイキの計測装置はいたってアナログなものだった。整骨院で使われる簡易ギブスのように足を入れると、足全体を袋のようなものが包み、中の素材が固まって立体的に足型が取られ、サイズが計測される。アウトプットされた足型データには長さ、幅、甲高が割り出されており、自分が欲しい種類のサイズに照らし合わせ、フィットするものがピックアップされる方式だった。

 NYのナイキタウンでは地下がストックになっており、適性サイズの在庫が見つかると商品専用のエレベーターで、各フロアまで届けられた。スタッフがストックまで取りに行って在庫を探す手間を省くのと同時に、ナイキ流のオペレーションの凄さを見せつけた。このパフォーマンスはさすがに米国らしいなと思った。



 それから20数年、ナイキはこの7月、全米のナイキストアおよびナイキアプリで、お客一人ひとりがぴったりなシューズを見つけられるフットスキャンニングソリューションNike Fit(ナイキフィット)」を導入する。(https://news.nike.com/news/nike-fit-digital-foot-measurement-tool)ナイキの広報ニュースによると、システムは計測用アプリをダウンロードしたスマホやiTouchで足下を撮影すると、足がスキャンされて自足の形をマッピングする13のデータポイントが集められる。そして、欲しい靴の中で自分にぴったりの推奨品が表示される仕組みとか。



 スキャニングの方法は、床が接する壁際に設けた3Dスペースを基準点として踵を向けて立ち、足元にカメラを向けてアプリのガイドが水平になるようにする。そして、自足がアプリ内のアウトラインガイドと正しく揃ったら、ボタンに触れるだけという(実店舗ではナイキフィットマットを利用する)。平たく言えば、身長計に立つような感じで足元を撮影するものだろうか。立ったまま俯瞰で足型をスキャンできるのだから、 撮影はZOZOMATより楽かもしれない。

 肝心な精度については、数十のデータポイントから誤差は2mm未満という。ただ、ZOZOMATのように側面から撮影するわけでないので、詳細な3D測定になるのだろうか。ナイキ側は測定値を素材、レーシング(編み上げ)、フィット他の重要な部分にまで活用するため、ナイキシルエット(基型)の細部に対応する機械学習モデルに供給するとか。さらにAIの機能と組み合わせることで、シューズを着用するお客の個人的な好みやそれが人口全体とどのように関係しているのかも学習していくという。

 ナイキでダイレクトプロダクト・イノベーションを担当するマイケル・マーティン副社長は、「より多くのデータがあれば、ナイキは個人のフィット嗜好を継続的に改善するだけでなく、各モデルの周りのより多くの人々の嗜好を学び、よりフィット感の高いシューズを作成する眼をもつことができる」と、語っている。(既報道より)


既製靴が合わないお客にも


 靴づくりには、すっと木型が使われてきた。一例をあげると、ドイツのアディダスはもともとは靴屋からスタートしたので、スポーツシューズについても職人がサイズ別に作った木型を使用していた。それは母国であるドイツの人々=ゲルマン民族の足型がベースになっていたと思う。

 その後、アディダスはドイツ製シューズを世界中に輸出していくのだが、スタンススミスのような定番を量産していく上で欧州、南北中米、アジアと足型が違う民族別に木型を作ることは効率が悪い。そこで平均値を割り出しながらフレキシブルサイズの木型を使ったと思う。だが、それではどうしてもサイズが合わないお客も出て来る。

 後発のナイキは世界的なスポーツメーカーに成長する中で、種目ごとに理想的なシューズを開発するために、あらゆる足型データを収集する目的で3Dのデジタル計測技術を開発していった。また、量産については自社で工場を持たず、委託先で製造を行っている。それには成型しやすくコストがかからないプラスティックの木型が必要で、これにも3Dのデジタルデータが欠かせなかったわけだ。

 現在は3Dプリンターがあるから、データさえあれば木型の製造はより簡単になった。そして、ナイキフィットはデジタルデータを活用することで木型頼りではなく、お客の足型によりフィットする靴を効率的に製造していく考えのようだ。ナイキはスポーツメーカーであるのと、同時に小売業でもあることから、製品の歩留まりを徹底して良くし、できる限り在庫を残さず消化する。そのためには消費者のニーズに合った製品が不可欠で、製造から販売までで、さらに革新を続けていくということだ。

 個人的には、3D計測で足のサイズをより詳細に知ることにより、「自分の足はどのメーカーの木型に合っているか」を把握できれば、なおさらいいと思う。ZOZOTOWNにしてもナイキやアディダスにしても、「うちの木型はこれです」と予めシルエットなんかを提示してくれて、お客が計測した自分の3D足型と照らし合わせると、「自分の足はこのブランド、このメーカーのこのサイズがいちばんフィットする」とわかるものだ。

 もっとも、ZOZOTOWNはファッションモールという性格から、顧客の大半は一にブランド、二にデザインを選択肢にしていると思う。はたして、どこまでサイズ把握が靴の販促に有効なのかは疑いたくなる。確かに3Dで自足のサイズを正確に知ることができれば、顧客がサイズでミスるケースは低減されるだろう。しかし、これまで靴の購入に二の足を踏んできた顧客までが安心して購入に踏み切るか、またアバウトなサイズのまま注文し返品していた顧客が減るかどうかは別問題。靴のサイズが合う合わないの感覚は、履いた本人しかわからないからだ。これはナイキフィットにも言える。

 ZOZOSUITは正確なボディサイズの計測を謳い、PBのオーダーのスーツやジーンズなどの販売まで行った。しかし、ZOZOMATでは、正確なサイズ計測で、市販のシューズを試着をしなくても購入できるという次元に止まる。もちろん、顧客の足サイズのビッグデータが収集できるわけだし、「ブランドやメーカーとの取り組み」では、靴でも服で行うところのMSP(Multi Size Platform)も視野に入れているようだ。ZOZOはECプラットフォーマーだから、メーカーであるナイキとまではいかないにしても、それに近いベクトルの戦略構想はあると見られる。

 まあ、筆者が靴オンリーのセレクトショップから聞いた話では、顧客の声には「サイズが合う靴がない」ことも多いという。「大人なのに足がとても小さい」とか、「極端に横幅が広い」とかイレギュラーサイズのお客は、革靴ではなかなかサイズが合う靴が見つからないという切実な問題を抱えているのだ。既製靴弱者とでも言おうか。ZOZOがZOZOMATで得られるデータをもとにこうした人々のニーズに向き合い、メーカーとともに既製靴の改良に踏み込んでいけば、新たなビジネス展開の道が開けるかもしれない。そうなれば、マーケット、投資家の評価も上がっていくのではないかと思うが。
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