HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

欠品Tは諦める。

2019-05-15 06:27:03 | Weblog
 2015年の国連総会で、貧困や飢餓の撲滅、質の高い教育、性差別の廃止、働きがいと経済成長、技術革新の基盤づくり、不平等をなくすなど17項目が「持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)」として採択された。これを契機にアパレル業界でも「サスティナブル(持続可能性)」という言葉が定着しつつある。

 業界では、原材料生産の川上から製造卸の川中、小売りの川下までにいろんな業者が介在し物品やサービスを供給する。そのため、複雑な「サプライチェーン」が生まれている。そこでは羊毛や綿花の生産で自然との共生が無視されたり、子供たちが学校にも行かずに工場で働いたり、廃棄物が地球環境に大きな負荷をかけるなど、課題は山積する。

 SDGsに掲げられた地球環境の保全や働く人々の平等や成長、製造と消費の責任は、アパレルビジネスに携わるすべての利害関係者が取り組むべき大命題なのだ。そうは言っても、経営のトップが川上から川下までの隅々に目を配り、コントロールするのは不可能に近い。具体的な例を挙げてみよう。ザラやギャップ、ユニクロといったグローバルSPAは典型的だ。

 彼らは企画から販売までを一貫する中で、マーチャンダイザー(MD)は商品製造の中核をなす。経営者が設定した売上げ目標から、カテゴリー別やアイテム別の生産数量を割り出し、素資材の調達から生産までを管理。そこでは原価やコスト、利益、納期を計算して、世界中の工場に商品製造を発注するのだ。

 ただ、生産量は膨大になるため、MDが工場の態勢から商品の1点1点までを細かくチェックすることはできない。本来なら経営者がサプライチェーンをガラス張りにし、管理監督する必要があるのだが、いろんな業者が介在する複雑さがそれを難しくしている。

 こんな事故があった。数年前、バングラデシュのダッカ近郊で縫製工場が入るビルが崩壊し、100人を超える死者を出した。この事故は低コストで仕事を受ける工場の劣悪な環境、労働者の命が蔑ろにされているのを露呈した。個々の経営者が売上げだけを追求し、バランスシートしか見ていなければ、そうなるのは当たり前である。

 以前から企業の社会的責任(CSR)は大企業を中心に謳われていたが、個々のアパレル企業でも構造的な課題に直面したことで、サスティナブルを事業戦略の柱にするところが出始めている。今やアパレル生産の海外シフトは当たり前で、商品価格が下落する状況では高コストの日本生産というわけにもいかない。仕事が来なくなっている国内工場とて労働環境や賃金、人材などで問題を抱えるのは変わりないのだ。

 「ライフスタイルアクセント」は、こうした課題に積極的に取り組んでいる。メイドインジャパンの商品を適正価格で消費者に販売することで国内工場の自立を促し、人材育成や技術伝承への道筋を付けるものだ。商品はインターネットを通じて販売し、「ファクトリエ」ブランドのジーンズやシャツには、ファンもつき始めている。

 先日、同社は種から育てたオーガニックコットンで服を作る「コットンプロジェクト」に取り組むと発表した。https://gunosy.com/articles/aD2Bs山梨県の農地約10アールを管理する農業法人と契約し、無農薬、有機肥料による綿花栽培を委託。収穫を見込む約30キロの木綿と先に調達した70キロの木綿とでTシャツやミニタオルを製造するという。サスティナブルという壮大な目標達成には、まずはできることから取り組む。「隗より始めよ」ということだ。

 同社はすでにオーガニックコットンのTシャツを、メンズで2型、4サイズ(S M L LL)、3カラー(白、黒、紺)で販売している。価格はクールネックが6000円(税抜き)、Vネックが6400円(同)。厚みは薄手というから、4〜5オンスくらいだろうか。

 通販サイトを見ると、5月14日現在で黒のMを除き、在庫はある。国内製造の復活、大量廃棄やCO2発生の解消を両輪で進める企業理念は素晴らしい。でも、消費者はTシャツを1シーズンの消耗品ととらえがち。お客がオーガニックの思想を受け入れて購入し、愛着をもって長く着てくれるかは不確かだ。

 先日もこのコラムで書いたが、Tシャツは色やプリントを施してファッションアイテムとしての価値をなす。ただ、メリヤス生地を染色する時点で、すでに染料や助剤には化学物質が使われているし、プリントはインクジェットでこれも石油由来の顔料だ。地球環境への負荷を取り除くには、この行程から見直さなければならない。

 ファクトリエのオーガニックTシャツでは、国内製造で地球環境への配慮した染料が使われていると思う。ただ、オーガニックとは言え、売れ残って在庫を抱えてしまうと、物理的にはそれらの処分やリサイクルも必要になる。サスティナブルは製造から販売までのすべての行程で考えなければならないのだ。

 すでにアパレル業界では大量廃棄対策として、AIを使って需要予測を立てる手法をベンチャー企業と組んで開発したところもある。ある企業ではAIで需要予測を立て、「仕入れた在庫で売れた商品の割合」、いわゆる的中率が5ポイント、利益率で10ポイントも改善したという。

 これだけ見ると、AIがアパレルの難題を解決してくれる救世主のように思える。しかし、ことはそんなに簡単ではない。なぜなら、小売りの段階になると、AIで需要を予測できたとしても、供給量が抑えられることにはならないからだ。アパレル商品を販売する小売店は誰でもできるし、店舗数が増えれば仕入れる商品は量産される。それらが売れなければ、バッタ屋ルートに流れ、そこでも消化できないものは廃棄される。店が出店される限り、決して廃棄が減ることはないのである。

 アパレルの場合、商品が売れない店舗は潰れるが、食品を扱うスーパーやコンビニは潰れなくても廃棄ロスを出し続けている。セブンイレブンのように売上げ拡大のために加盟店に大量に仕入れさせるケースは、大量廃棄を生む原因でもある。結局、経営者が売上げや利益でしか判断しないのなら、廃棄ロスの解消なんて進みようがない。

 やはり、改めて商品を作る側、売る側だけでなく、お客というか購買時点でものを考えるべきではないかと思う。話は少しそれるが、昨年、雑誌のレオンが「白T、白スニがあれば「上下おソロ」はキマるのです」という特集を組んだ。そこで、肉厚のプレーンな「Tシャツ」を取り上げていたので、似たものをネットで探し購入した。

 オーガニックではなく、USAコットンのようなシャリ感もないが、10オンスの分厚い生地が使用されており、洗濯しても襟ぐりは伸びなかった。汗かきの筆者にとっては吸湿性もよく、汗染みもほとんどわからない。10月の東京出張で歩き回った時も、快適に過ごせてたいへん重宝した。今年も追加購入しようと、サイトの在庫を見ると、別表のように5月中旬時点で、白(15)、黒(16)はXS、Sを除き、すべて完売している。



 カラーは他に杢グレー(2)、 紺(8)、ナチュラル(115)がある。杢グレーと紺が全サイズで在庫があるが、XSは900枚以上、700枚以上残り、XLでは100枚台と少ない。白はXSは2000枚以上、Sは700枚近く、ブラックもXSは1800枚台、Sは1100枚台と在庫を残す。ナチュラルはXSを除いて完売だ。

 実需の夏を前に欠品しているもの、大量に売れ残っているものがあるのは、どうなのだろうか。 おそらく前年度からも持ち越し在庫で、発注量がカラー、サイズで違うと思われるので一概には言えないが、ヘビーウエイトのTシャツの売れ筋傾向を知ることはできる。この在庫データをAIにインプットすると、どう判断するかである。

 人間の頭でも数値だけ見れば、以下のようなことが考えられる。

Tシャツへのニーズが高まる時期を前に、完売、欠品しているアイテムがある

ヘビーウエイトなのに男性ウケの色やサイズでは適正な在庫量が積まれていない

ヘビーウエイトだから売れ筋の白や黒でも女性向けのスモールサイズは受け入れられない

等々だ。

 こうした傾向からいかに「解」を導き出すか。これについてはMDの専門家、マサ佐藤氏の領域なので多言は避ける。ただ、夏向けの白、ナチュラルは在庫量を厚くしても、スモールサイズはカットするか、発注量を絞り込む。男性ウケするビッグサイズは逆に増やす。杢グレーや紺は全体的に発注量を抑える。これらは素人でも考えられることだ。

 アパレルの経営手法では、かつてからPOSやクイックレスポンスが導入されて来た。しかし、一方で、どこのメーカーも売れ筋は量産して大量の在庫を抱え、小売り側も欠品や機会ロスを恐れるあまり商品を多めに仕入れるから、供給量は一向に減っていない。それが大量廃棄を生み出し続ける元凶なのだ。AIを導入してもこれが変わらなければ、サスティナブルはスローガンで終わってしまう。

 やはり在庫が残る、在庫を残すのなら、端から作らない。また、思いきってアイテム、サイズ、色を絞り込み売り切れご免とする。追加生産もこれらに準じる。これがサスティナブルの原点になるのではないだろうか。そこで筆者が個人的にできるサスティナブルは、プロパーで売り切れる人気アイテムは、欠品のままなら諦める。1シーズンの消耗品は購入しない。今着ているものは破れてウエスしかならない段階まで着続ける。ただ、そうすると、この夏も買い物することは、なさそうである。

コメント
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