HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ストアレスは正論なのか。

2017-04-12 07:22:49 | Weblog
 昨年から言われてきたネット通販に対する配送事業者の対応。いよいよひと区切りつきそうである。宅配最大手のヤマト運輸がネット通販アマゾンの「当日配送サービス」から撤退する方針を固めたのだ。

 一般にはヤマト運輸が人出不足から、当日配送サービスを受託できなくなったと言われる。ただ、ドライバーの頭数が足りていても、何度も配達するのはその分のコストがかかるわけだ。アマゾンと契約している配送料金(通常平均単価578円の半額程度)では、コストが吸収できなくなった証左だろう。

 ヤマト運輸は当日配送の縮小だけでなく、運賃の引き上げも要求している。アマゾン側が値上げに応じなければ取引停止も辞さないようで、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長して来たアマゾンも新たな対応を迫られるだろう。ただ、課題は配送の問題だけに止まらない。通販事業者は差別化のために「返品自由」にも目を向けているからだ。

 ネット通販にとって不変の課題は、「現物を見ない」「試着をしない」で購入する顧客の心配や不満である。デジタル技術の発達で写真の解像度が上がり、サイト掲載商品の色や質感は現物と遜色なくなっている。しかし、ファッション衣料や靴といった身につけるものは、サイトから受けた印象と「現物は違っていた」のは、往々にしてあることだ。

 試着をしないのだから、現物を購入するまで感触や着心地、フィット感はわからない。それを買う前に体験することは、現状のシステムではできない。というか、バーチャルである以上、どだい無理な話。だから、買って失敗したというお客は少なくないはずだ。

 そこで、取り入れられたのが「返品自由」である。通販サイトによって「◯日以内返品可能」「サイズ交換OK」「返送料無料」を導入している事業者もいる。これらを利用して、サイトガイドや仕様表示、レビューだけでは詳細がわからない場合には、2型や2サイズを購入して合わないものは返品するお客も増えている。

 さらに◯日以内が「20日程度」なら、実際に着てから返品するお客もいるようだ。これについての是非は、ここでは言及しない。むしろ、利用客にとってのネックは、返品するための梱包や返送に手間がかかることだ。日本における通販の返品率が2〜3%(https://matome.naver.jp/odai/2139582466197413501/2139589181536030503)に止まるのは、そうした理由もあると思う。

 問題は返品自由が当たり前になってくると、顧客の中には配送スタッフを玄関先で待たせておいて、その場で試着して合わない商品は「持って返ってよ」という強者が現れないとも限らない。また返品自由を利用するお客が梱包を丁寧に行うとは思えないし、ネット通販事業者側もそれを想定し少しでも返送を楽にしようとするだろう。

 しかし、梱包に不備があり、荷物が破損して商品が汚れたり、傷ついたりすれば運送約款上、運送業者が責任を取らなくてはならないケースもある。 返品ルールがあったにしても、ネット事業者が返品商品を受け取るわけではい。あくまで運送業者が対応しなければならず、返送品の受取から梱包チェックなど、新たな負担が生じるのである。

 衣料品はともかく、靴は試し履きをしないとフィット感はわからない。革靴では履き始めて何日か経って初めて足に合う、合わないがわかることもある。「20日以内なら、使用されていても返品自由」となれば、着たり履いたりして合わなければ返せばいいとか、レンタル感覚で楽しむなど、返品率は3%どころかさらに増えることも考えられる。

 ネットビジネスの経営者やECコンサルタントの中には、「全額返金保証制度」を導入すればそれが担保となって返品率が下がると語る諸兄もいらっしゃる。しかし、それは返品の手間がかかることや通販事業者との信頼関係が前提でのことだ。競争激化や返品自由の状況では、手間や関係性などなし崩しになっていくのではないか。

 第一、1日でも使用された商品は正価での再販が不可能で、返金すれば売上げはゼロで商品ロスは発生する。顧客から返品自由の年会費をとったにしても、収益が圧迫されることに変わりはない。ブランド力やサービスを訴えたからといって解決する問題ではないだろう。ネット社会の民衆に日本古来の慎み深さを求めても、仕方の無いのだ。

 米国ではネット通販の利用客は衣料品の30%を返品すると言われている。(https://www.bloomberg.com/news/articles/2015-12-29/online-surge-leads-to-many-not-so-happy-returns-for-retailers)おそらく、靴になるともっと多くなるのではないか。日本も遠くない時期にそうなると思われる。となると、ECには配送だけでなく、返品まで含めた新たな施策が必要になってくる。

 個人的には「減らすべき無駄がある。」(http://blog.goo.ne.jp/souhaits225/e/9e27305c47537cadfba8bc3a185ac318)でもユニクロが抱える課題として書いたが、店舗にあれだけ膨大な在庫を積み上げ、仮に50%しか消化していないのなら、残る50%の商品運搬費、管理に当たる人件費、在庫展開の不動産賃貸料はムダと考えられる。ならば、店には在庫を置かずにコストを削減した分で、EC顧客への配達や返品などのサービスを充実させてはどうだろうか。

 ECで流通するような商品には、お客の側が出向いていく「受取拠点」の拡充も不可欠だと思う。都市部ではコンビニや駅のロッカーがその役割を果たすようになって来ている。嗜好に左右されない商品ならそれでもいいだろうが、衣料品や靴ではどうしても試着が必要で、返品するには梱包の手間がかかる。

 筆者は現在、福岡市の天神が生活圏のため、こうした受取拠点としてヤマト運輸の福岡舞鶴センターか、福岡中央郵便局を利用している。仕事をしている時は事務所での受け取りもできるが、「午前中配達」を指定していても、ヤマト便は正午ギリギリにしか届かない。それほど福岡でも荷物が増えているのだろう。午後から打ち合わせで出かけることもあるので、フランスや米国からの荷物は舞鶴センターや中央郵便局に留め置きする。こちらの方が出先から受け取りに行けるので、非常に便利だ。

 その意味で、ネット通販については、街中や郊外SCにEC専用の倉庫型の「デポ」や「スポット」を設けてはどうだろうか。そこに注文品を配送し、顧客が受け取りに行って返品対応まで任せられるのであれば、好都合だ。配送事業者にとっても再配達や返品受付の手間が省け、荷物が汚損、破損するリスクもなくなる。もちろん、商品をきちんと受け取り、返品処理も自分で行える人はこの限りではない。

 ユニクロのような商品こそ、店には試着用のサンプルだけ置いてあとは、デポで対応すればいいのではないか。こうした考え方を詳細に詰めてシステム化すれば、ファッション衣料や靴を含め通販商品全般で対応できるのではないか。ゆくゆくは専門のスタッフが常駐して、顧客はそこで試着して接客を受け、それでも気に入らなければ返品を受け付けてもらえばいいわけだ。ECの課題はそこまでやらないと解決できないと思う。

 当然、そのコストを誰が持つのかである。店舗を持ちたくないアパレルメーカーや小売業者、ECをさらに拡大したいネット事業者、そして顧客。三者が負担しなければならないだろう。こうした仕組みはオムニチャンネルを浸透しさせていく上では、避けられないサービスになると思う。

 店舗販売はマーケットが限られ、ECは現物が見られず試着できないと、それぞれ一長一短がある。ネット通販が登場したときは、ストアレスを主張にする方々も少なくなかった。確かに店舗はあっても欲しい商品が見つからないという課題はあった。それをボーダーレスのECが解決してくれたかに思えた。しかし、ECが浸透するに従って、今度は配送や返品という新たな課題が生じたのである。

 つまり、どんな優れたビジネスモデルやシステムも完璧ではないのだ。これからは店舗の役割をデポやスポットといった受取拠点が担っていく可能性もあるわけで、ストアレスが正論か否かはそこが機能するかにかかっていると思う。

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