先日、JR博多シティの平成29年3月期の概要が報告された。メディア各社は「過去最高を更新」「1,061億円で過去最高」などと、業績が右肩上がりで伸びているように伝えている。確かに平成23年の開業から28年3月期まではそうだった。
しかし、昨期は「JRJP博多ビル」飲食街の24億円分が加わっており、ベースが違う。その分を差し引けば1037億円。つまり、既存施設だけでは28年3月期の1035億円からわずか2億円しか増えておらず、業績はほぼ横ばいと見るべきだろう。
施設別に見ると、ショッピングセンターの「アミュプラザ博多」が389億円(対前年比1.7%増)、百貨店の「博多阪急」が444億円(同1.3%増)で、どちらも増収はわずか1%台でしかない。明らかに売上げが鈍化している証左でもある。
逆に「アミュエスト」「博多デイトス」「デイトスアネックスコンコース」などは202億円で、こちらは対前年比4.9%減となっている。デベロッパーの(株)JR博多シティが「熊本地震の影響で一時、インバウンドを中心に観光客が減少した」と語っていることからも、お土産や飲食、トラフィックの売上げ減がもろに響いたと言える。それくらい観光客頼みでは、反動が大きいということだ。
昨期はKITTE博多、JRJP博多ビルの開業で、JR博多シティ2階部分のペデストリアンデッキが両ビルまで延伸されている。地下1階も地下街でJP博多ビルの地下飲食店街とつながった。ハード面の整備で回遊性が良くなり、飲食需要の24億円(計画比32%増)が上積みされたのである。
観光や出張でやってくるお客は、アミュプラザ博多「くうてん」の高級レストランでもいいだろう。JRJP博多ビル2階の「俺のフレンチ」「ハードロックカフェ」にしても、非日常のニーズになる。ビジネスマンやOLが気軽にランチをとれる飲食店街は、JR博多シティではこれまで「博多一番街」「博多デイトス」くらいしかなかった。
食については新店がオープンすれば、食べに行ってみようという消費者心理が働く。このことからも、JRJP博多ビルの地下飲食街が計画比32%増となったのは、ある程度予測されたことと言える。
ただ、デベロッパー側は「飲食店急増の影響で大型飲食街はボリュームゾーンで苦戦した」と言う。日常のお客を取り込むには価格帯は重要だから、気軽に食事ができる飲食店を誘致すれば、既存店が苦戦を強いられるのは当然だ。
例えば、くうてんの9階にある広東炒麺・南国酒家は「あんかけ焼きそば」の専門業態になる。フランチャイジーで運営するのは、地元メガFC「BUNコーポレーション」だ。デベロッパー側は「南国酒家」というブランドからくうてんに配置したのだろうが、経営する側からすれば、ゆったり座ってゆっくり食事をするとなると回転が落ちるから、どうしても客単価を上げなければならない。
BUNコーポレーションとしては、フルメニューの中華では調理スタッフの育成が不可欠で、名板貸しでの運営は難しい。駅ビルという立地を考え麺類に特化して早く食べられることで、回転を上げる方を選択したのである。しかし、この手の業態はランチ向けの新店が増えると、影響は避けられないということである。
回転のいいメニューは麺飯を中心に限られているし、飲食は和洋中、ファストフーズと顔ぶれはほぼ決まっており、新業態といっても半年もすれば飽きられてしまう。博多一番街の因幡うどんなどは旧博多駅時代からの地元テナントで、入れ替えは容易ではない。特に和食ファストフーズは忙しいビジネスマンにとっては不可欠だ。
むしろ、外食はブームを追いかける方がダメなのだ。「クリスピードーナツ」が典型と言える。JR博多シティでも長蛇の列が続き、ドーナツでは例を見ない1ヵ月で1億6000万円を稼ぎ出している。しかし、ブームは終わるし、その通り閉店した。飲食業態の浮き沈みがいかに激しいかをうかがわせる。日常のニーズを大事にしながら、息の長い店舗を育てていくしかないだろう。
一方、ファッションなどの物販は、アミュプラザ博多の主力テナントであるセレクトショップが好調で、衣料品に限っては対前年比3.9%と堅調のようだ。でも、トータルで対前年比1.7%増しかないところを見ると、雑貨の巨人「東急ハンズ」もそろそろ足踏み状態ではないのだろうか。
博多阪急は周囲に競合が少ないメンズ、キッズが開業からの好調を維持している。しかし、レディスフロアは苦戦気味だ。ヤング向けの「HAKATA SISTERS」はブランドごとの好不調や衰退をもろに受けるし、キャリアやミセスは百貨店系アパレルの不振で回復のきっかけをつかめていない。売れる商材が見当たらないのである。
全体的にみても、外商は顧客開拓で知名度や地域4番店がネックになるだろうし、インバウンド消費(売上げ構成比6%)の減退が続けば、今期は対前年比でマイナスになってもおかしくない。
博多駅はJRの他に地下鉄空港線が乗り入れ、1日の乗降客は34万人を超える。JR博多シティはこうしたインフラを生かして売上げを積み上げたわけだ。今後も売上げを伸ばしていくには、いかに魅力あるテナントを集め、売れるブランドを誘致し活性化を図っていくか。セオリーとしてはそうなのだが、地方でリーシングできるブランドは限られており、立地で優位に立つ「天神」も立ちはだかる。
飛ぶ取りを落とす勢いのネット通販がここに来て、配送という課題を抱え始めた。まだまだ売上げは伸びるとは思われるが、同時に返品も増えているという皮肉な話もある。それでもアパレル各社はECに注力すると言っているし、オムチャンネルの時代がやってくるのは時間の問題だ。
JR博多シティはそれまでにどういった手を打つか。マーケットには必ず揺り戻しがあるから、来年にかけて「店舗販売の復権」があり得るかもしれない。これは何も全国チェーンや有名ブランドが担うとは限らない。ファッションを扱うデベロッパーの使命として、テナントのインキュベーションという原点を見つめ直さないといけないのである。
今回の概要では「JR九州のハウスカードJQカードの有効会員数がアミュプラザ博多で3万人を超えた」「会員は常時5%オフに加え、年間数回実施する10%オフセールで衣料品売り上げを支えた」という点もアピールされている。
裏を返せば、テナントにとってこの5%は粗利益を削る要因であり、ボディブローのように効いて来ている。全国チェーンなら全体売上げでカバーできるが、中小の小売店では厳しい。現に個店の中には堪えられず撤退したところもあるくらいだ。JR九州全体で会員数が55万人に達したからと、喜んではいられないだろう。
まあ、これまでが良過ぎたのかもしれない。プロモーションに起用したタレントが駐車禁止の反則金を70回も踏み倒したなどの醜聞が出たのは、降板後だった。今期起用のタレントも不倫問題のほとぼりは、十分に冷めたようである。
インバウンド消費の減退が懸念材料くらいで、他に不安要素は見当たらない。ただ、既存施設の売上高が対前年比で1%台まで落ちた現状をどう捉え、次の施策を打ち出していくか。JR九州は上場企業となったわけで、投資家は売上げ動向を注視している。不動産事業の一つとしての駅ビルの真価が問われていく。
しかし、昨期は「JRJP博多ビル」飲食街の24億円分が加わっており、ベースが違う。その分を差し引けば1037億円。つまり、既存施設だけでは28年3月期の1035億円からわずか2億円しか増えておらず、業績はほぼ横ばいと見るべきだろう。
施設別に見ると、ショッピングセンターの「アミュプラザ博多」が389億円(対前年比1.7%増)、百貨店の「博多阪急」が444億円(同1.3%増)で、どちらも増収はわずか1%台でしかない。明らかに売上げが鈍化している証左でもある。
逆に「アミュエスト」「博多デイトス」「デイトスアネックスコンコース」などは202億円で、こちらは対前年比4.9%減となっている。デベロッパーの(株)JR博多シティが「熊本地震の影響で一時、インバウンドを中心に観光客が減少した」と語っていることからも、お土産や飲食、トラフィックの売上げ減がもろに響いたと言える。それくらい観光客頼みでは、反動が大きいということだ。
昨期はKITTE博多、JRJP博多ビルの開業で、JR博多シティ2階部分のペデストリアンデッキが両ビルまで延伸されている。地下1階も地下街でJP博多ビルの地下飲食店街とつながった。ハード面の整備で回遊性が良くなり、飲食需要の24億円(計画比32%増)が上積みされたのである。
観光や出張でやってくるお客は、アミュプラザ博多「くうてん」の高級レストランでもいいだろう。JRJP博多ビル2階の「俺のフレンチ」「ハードロックカフェ」にしても、非日常のニーズになる。ビジネスマンやOLが気軽にランチをとれる飲食店街は、JR博多シティではこれまで「博多一番街」「博多デイトス」くらいしかなかった。
食については新店がオープンすれば、食べに行ってみようという消費者心理が働く。このことからも、JRJP博多ビルの地下飲食街が計画比32%増となったのは、ある程度予測されたことと言える。
ただ、デベロッパー側は「飲食店急増の影響で大型飲食街はボリュームゾーンで苦戦した」と言う。日常のお客を取り込むには価格帯は重要だから、気軽に食事ができる飲食店を誘致すれば、既存店が苦戦を強いられるのは当然だ。
例えば、くうてんの9階にある広東炒麺・南国酒家は「あんかけ焼きそば」の専門業態になる。フランチャイジーで運営するのは、地元メガFC「BUNコーポレーション」だ。デベロッパー側は「南国酒家」というブランドからくうてんに配置したのだろうが、経営する側からすれば、ゆったり座ってゆっくり食事をするとなると回転が落ちるから、どうしても客単価を上げなければならない。
BUNコーポレーションとしては、フルメニューの中華では調理スタッフの育成が不可欠で、名板貸しでの運営は難しい。駅ビルという立地を考え麺類に特化して早く食べられることで、回転を上げる方を選択したのである。しかし、この手の業態はランチ向けの新店が増えると、影響は避けられないということである。
回転のいいメニューは麺飯を中心に限られているし、飲食は和洋中、ファストフーズと顔ぶれはほぼ決まっており、新業態といっても半年もすれば飽きられてしまう。博多一番街の因幡うどんなどは旧博多駅時代からの地元テナントで、入れ替えは容易ではない。特に和食ファストフーズは忙しいビジネスマンにとっては不可欠だ。
むしろ、外食はブームを追いかける方がダメなのだ。「クリスピードーナツ」が典型と言える。JR博多シティでも長蛇の列が続き、ドーナツでは例を見ない1ヵ月で1億6000万円を稼ぎ出している。しかし、ブームは終わるし、その通り閉店した。飲食業態の浮き沈みがいかに激しいかをうかがわせる。日常のニーズを大事にしながら、息の長い店舗を育てていくしかないだろう。
一方、ファッションなどの物販は、アミュプラザ博多の主力テナントであるセレクトショップが好調で、衣料品に限っては対前年比3.9%と堅調のようだ。でも、トータルで対前年比1.7%増しかないところを見ると、雑貨の巨人「東急ハンズ」もそろそろ足踏み状態ではないのだろうか。
博多阪急は周囲に競合が少ないメンズ、キッズが開業からの好調を維持している。しかし、レディスフロアは苦戦気味だ。ヤング向けの「HAKATA SISTERS」はブランドごとの好不調や衰退をもろに受けるし、キャリアやミセスは百貨店系アパレルの不振で回復のきっかけをつかめていない。売れる商材が見当たらないのである。
全体的にみても、外商は顧客開拓で知名度や地域4番店がネックになるだろうし、インバウンド消費(売上げ構成比6%)の減退が続けば、今期は対前年比でマイナスになってもおかしくない。
博多駅はJRの他に地下鉄空港線が乗り入れ、1日の乗降客は34万人を超える。JR博多シティはこうしたインフラを生かして売上げを積み上げたわけだ。今後も売上げを伸ばしていくには、いかに魅力あるテナントを集め、売れるブランドを誘致し活性化を図っていくか。セオリーとしてはそうなのだが、地方でリーシングできるブランドは限られており、立地で優位に立つ「天神」も立ちはだかる。
飛ぶ取りを落とす勢いのネット通販がここに来て、配送という課題を抱え始めた。まだまだ売上げは伸びるとは思われるが、同時に返品も増えているという皮肉な話もある。それでもアパレル各社はECに注力すると言っているし、オムチャンネルの時代がやってくるのは時間の問題だ。
JR博多シティはそれまでにどういった手を打つか。マーケットには必ず揺り戻しがあるから、来年にかけて「店舗販売の復権」があり得るかもしれない。これは何も全国チェーンや有名ブランドが担うとは限らない。ファッションを扱うデベロッパーの使命として、テナントのインキュベーションという原点を見つめ直さないといけないのである。
今回の概要では「JR九州のハウスカードJQカードの有効会員数がアミュプラザ博多で3万人を超えた」「会員は常時5%オフに加え、年間数回実施する10%オフセールで衣料品売り上げを支えた」という点もアピールされている。
裏を返せば、テナントにとってこの5%は粗利益を削る要因であり、ボディブローのように効いて来ている。全国チェーンなら全体売上げでカバーできるが、中小の小売店では厳しい。現に個店の中には堪えられず撤退したところもあるくらいだ。JR九州全体で会員数が55万人に達したからと、喜んではいられないだろう。
まあ、これまでが良過ぎたのかもしれない。プロモーションに起用したタレントが駐車禁止の反則金を70回も踏み倒したなどの醜聞が出たのは、降板後だった。今期起用のタレントも不倫問題のほとぼりは、十分に冷めたようである。
インバウンド消費の減退が懸念材料くらいで、他に不安要素は見当たらない。ただ、既存施設の売上高が対前年比で1%台まで落ちた現状をどう捉え、次の施策を打ち出していくか。JR九州は上場企業となったわけで、投資家は売上げ動向を注視している。不動産事業の一つとしての駅ビルの真価が問われていく。