パリコレでは70年代からその奇抜さで注目を集め、日本のオンワード樫山もライセンス契約を結んでいたジャン=ポール・ゴルチェ。このほど、日本一の小売業と呼び声高いセブン&アイとカプセルコレクションを開催したと、ファッションメディアが報じた。
カプセルコレクションとは、定期開催されるメジャーなコレクションとは違い、イレギュラーで他の企業やアーチストなどと組む小規模なコレクションを指す。
ゴルチェ氏自身は、90年代終盤からオートクチュールに専念するため、プレタポルテを発表していない。エルメスのレディスではデザインを手がけていたが、その活動ぶりは耳にしなかったので、報道を聞いたときは意外だった。
しかも、メディアが「セブンイレブン」にスポットを当てた点を見ても、瞬間にゴルチェ氏のクリエーションより、セブンイレブンのノウハウを活かしたビジネスモデルの登場ではと思ったほどだ。
記事によると、すでに新会社が設立されており、32ドルから250ドルの低価格な商品を売り出すという。日本はデフレの影響でファッション消費が変わり、高額なブランドにそれほど投資する層がすっかり少なくなったのだから、これはしょうがないことだ。
まして、ジャン=ポール・ゴルチェと言っても、クリエーションやテイストを知るのは、50代以上。20代の若者にピカソに触発されて、ボーダーのカットソーを好み、髪をパツキンに染めたフランスのデザイナーと言ったところで、ピンと来ないだろう。
セブン&アイ側が注目したのも、ゴルチェ氏の奇抜な作風というより、デザイナーとしてのエッセンス、パリコレ流の色出しの良さなど、日本のアパレルブランドにはない部分ではないか。
傘下にはスーパーのイトーヨーカドーと、百買店のそごう・西武をもつ。ゴルチェ氏を起用したファッション衣料は、レディス向けのPB「ジャンポールゴルチェ フォーセット プルミエ」として発売されるというから、なおさらだ。
また、セブンイレブンはコンビニビジネスで蓄積した売れる商品の見極め、情報システムによる物流管理までの精度アップで、日本一の小売業と言わしめるまでになった。
目下、オムニチャンネル戦略を推進しているから、コルチェPBは従来型の量販店衣料に見られるような大量仕入れ、大量消化には与しないものと考えられる。
現にそごう・西武が販売しているリミテッドエディションは、セブンイレブンで培った単品管理のノウハウで精緻なデータ分析を品ぞろえにフィードバックし、年商規模を1000億円にまで拡大させたという。
セブン&アイとしてはこれに手応えを感じたから、ゴルチェPBでも行けると踏んだのではないか。
ただ、懸念材料も少なくない。イトーヨーカードーを含め、スーパーの衣料品改革は業界ではずっと言われてきた。また、百貨店のファッションも一部の人気ブランドを除き、大多数のNBは苦戦を強いられている。
ユニクロなどのSPAに食われて、ファッション衣料はもちろん、最近では実用衣料までお客を奪われている。
かつてイトーヨーカドーは、伊勢丹のバイヤーだった故・藤巻幸夫氏を衣料事業部長に据え、改革に臨んだ。しかし、百貨店出身者の遺伝子や経験と量販店の風土やマーケット、お客の購買動機とのギャップは埋めらず、成果を出せずに終わった。
それを考えると、いくらPBと言えイトーヨーカドーに投入したところで、どれほどの競争力をもつのか。まあ、武蔵小杉のオープンした新店舗は、百貨店からも注目を集めているので、販売のテストケースにはなるかもしれないが。
むしろ、商品づくりにゴルチェ氏のネームバリュウや感性を生かすなら、リアルタイムのゴルチェを知る客層が多いそごう・西武といった百貨店の適正だと思う。でも、適当な売場づくりでは、せっかくのゴルチェブランドは生かせない。
もっとも、そごうは水島錬金術、西武は堤イズムと、ともにバブルの繁栄を謳歌した百貨店である。土地の確保やブランドづくりに派手な投資を行った結果、バブル崩壊とともにその方向性を見失い、凋落した。
だから、いくらセブンイレブンのノウハウで、PBのリミテッドエディションが売れていると言っても、これは百貨店本来の姿ではない。
セブンイレブンでも、セブンプレミアがヒットしているのは、いかにもそのビジネスモデルが正しいかのように受けとれられている。しかし、その考え方は非常に危険だ。
お客がセブンイレブンのブランドを評価するのは、コンビニエンスストアとしてのロイヤルティだ。今、セブンプレミアが売れているのは、デフレでNBが売れないだけかもしれないし、景気が回復すればお客はNBに寝返ることも十分考えられる。
これはゴルチェPBを販売するそごう・西武にも言えることだ。百貨店が販売するのはあくまでNBやインポートブランドであって、PBはその間を埋める商材でしかない。
このまま景気が回復すれば、いくら高級品が売れないと言っても、百貨店を訪れるお客がPBなんかに期待するはずはない。買いたいのは、上質でしっかり作り込んだブランド品だ。つまり、ゴルチェが復活するなら、プレタポルテなのである。
量販店とデザイナーのコラボでは、米国のディスカウントストアの「ターゲット」が有名だ。アイザック・ミズラヒなんかとコラボして商品を売り出していた。デザイナー側もロイヤルティやライセンス料が入るので、経営的にはメリットがある。
しかし、長い目で見ると、PB展開はブランドイメージのプレステージ性がバジェットレベルに落ちていくリスクもはらんでいるのだ。
さらにセブンイレブンのシステムを生かすがあまりに利益優先になると、ゴルチェPBの原価率を下げしまう恐れが無きにしも有らずだ。これはユニクロがジル・サンダーとコラボした「+J」でも感じられたことである。
ユニクロ側はジル・サンダーにデザインのロイヤルティを支払うが、ユニクロとしても適正利益を出さなければならないため、素資材などの原価率を下げているような「代物」に見えてしまう。
ユニクロはレギュラー商品の方がはるかにクオリティは高い。これではせっかくのクリエーションが生かせないし、ブランドとしても根付いていかない。
また、売場づくりやVMDについても、ユニクロの店舗では、ジル・サンダーの世界観を表現できるとまでにはいかなかった。 一応、+Jは昨年秋と今春に復活しているが、商品のクオリティも売場づくりも、従来のままである。
量販店、コンビニのDNAで仕掛ける限り、ゴルチェPBも同じ轍を踏むのではないかということである。これでは往年のゴルチェファンの期待を裏切り、新しいファンを獲得するとまでには行かないと思う。
ユニクロとセブン&アイでは、衣料品製造のキャパが違う。生産ロットはユニクロの比ではないだろうから、なおさら効率を追及するとファッションとしてはどうなのか。
+Jという先例があるだけにシステム頼みのPBは、非常に難しいケースになるのではないか。旬のゴルチェを知る人間としては、心配は尽きない。
カプセルコレクションとは、定期開催されるメジャーなコレクションとは違い、イレギュラーで他の企業やアーチストなどと組む小規模なコレクションを指す。
ゴルチェ氏自身は、90年代終盤からオートクチュールに専念するため、プレタポルテを発表していない。エルメスのレディスではデザインを手がけていたが、その活動ぶりは耳にしなかったので、報道を聞いたときは意外だった。
しかも、メディアが「セブンイレブン」にスポットを当てた点を見ても、瞬間にゴルチェ氏のクリエーションより、セブンイレブンのノウハウを活かしたビジネスモデルの登場ではと思ったほどだ。
記事によると、すでに新会社が設立されており、32ドルから250ドルの低価格な商品を売り出すという。日本はデフレの影響でファッション消費が変わり、高額なブランドにそれほど投資する層がすっかり少なくなったのだから、これはしょうがないことだ。
まして、ジャン=ポール・ゴルチェと言っても、クリエーションやテイストを知るのは、50代以上。20代の若者にピカソに触発されて、ボーダーのカットソーを好み、髪をパツキンに染めたフランスのデザイナーと言ったところで、ピンと来ないだろう。
セブン&アイ側が注目したのも、ゴルチェ氏の奇抜な作風というより、デザイナーとしてのエッセンス、パリコレ流の色出しの良さなど、日本のアパレルブランドにはない部分ではないか。
傘下にはスーパーのイトーヨーカドーと、百買店のそごう・西武をもつ。ゴルチェ氏を起用したファッション衣料は、レディス向けのPB「ジャンポールゴルチェ フォーセット プルミエ」として発売されるというから、なおさらだ。
また、セブンイレブンはコンビニビジネスで蓄積した売れる商品の見極め、情報システムによる物流管理までの精度アップで、日本一の小売業と言わしめるまでになった。
目下、オムニチャンネル戦略を推進しているから、コルチェPBは従来型の量販店衣料に見られるような大量仕入れ、大量消化には与しないものと考えられる。
現にそごう・西武が販売しているリミテッドエディションは、セブンイレブンで培った単品管理のノウハウで精緻なデータ分析を品ぞろえにフィードバックし、年商規模を1000億円にまで拡大させたという。
セブン&アイとしてはこれに手応えを感じたから、ゴルチェPBでも行けると踏んだのではないか。
ただ、懸念材料も少なくない。イトーヨーカードーを含め、スーパーの衣料品改革は業界ではずっと言われてきた。また、百貨店のファッションも一部の人気ブランドを除き、大多数のNBは苦戦を強いられている。
ユニクロなどのSPAに食われて、ファッション衣料はもちろん、最近では実用衣料までお客を奪われている。
かつてイトーヨーカドーは、伊勢丹のバイヤーだった故・藤巻幸夫氏を衣料事業部長に据え、改革に臨んだ。しかし、百貨店出身者の遺伝子や経験と量販店の風土やマーケット、お客の購買動機とのギャップは埋めらず、成果を出せずに終わった。
それを考えると、いくらPBと言えイトーヨーカドーに投入したところで、どれほどの競争力をもつのか。まあ、武蔵小杉のオープンした新店舗は、百貨店からも注目を集めているので、販売のテストケースにはなるかもしれないが。
むしろ、商品づくりにゴルチェ氏のネームバリュウや感性を生かすなら、リアルタイムのゴルチェを知る客層が多いそごう・西武といった百貨店の適正だと思う。でも、適当な売場づくりでは、せっかくのゴルチェブランドは生かせない。
もっとも、そごうは水島錬金術、西武は堤イズムと、ともにバブルの繁栄を謳歌した百貨店である。土地の確保やブランドづくりに派手な投資を行った結果、バブル崩壊とともにその方向性を見失い、凋落した。
だから、いくらセブンイレブンのノウハウで、PBのリミテッドエディションが売れていると言っても、これは百貨店本来の姿ではない。
セブンイレブンでも、セブンプレミアがヒットしているのは、いかにもそのビジネスモデルが正しいかのように受けとれられている。しかし、その考え方は非常に危険だ。
お客がセブンイレブンのブランドを評価するのは、コンビニエンスストアとしてのロイヤルティだ。今、セブンプレミアが売れているのは、デフレでNBが売れないだけかもしれないし、景気が回復すればお客はNBに寝返ることも十分考えられる。
これはゴルチェPBを販売するそごう・西武にも言えることだ。百貨店が販売するのはあくまでNBやインポートブランドであって、PBはその間を埋める商材でしかない。
このまま景気が回復すれば、いくら高級品が売れないと言っても、百貨店を訪れるお客がPBなんかに期待するはずはない。買いたいのは、上質でしっかり作り込んだブランド品だ。つまり、ゴルチェが復活するなら、プレタポルテなのである。
量販店とデザイナーのコラボでは、米国のディスカウントストアの「ターゲット」が有名だ。アイザック・ミズラヒなんかとコラボして商品を売り出していた。デザイナー側もロイヤルティやライセンス料が入るので、経営的にはメリットがある。
しかし、長い目で見ると、PB展開はブランドイメージのプレステージ性がバジェットレベルに落ちていくリスクもはらんでいるのだ。
さらにセブンイレブンのシステムを生かすがあまりに利益優先になると、ゴルチェPBの原価率を下げしまう恐れが無きにしも有らずだ。これはユニクロがジル・サンダーとコラボした「+J」でも感じられたことである。
ユニクロ側はジル・サンダーにデザインのロイヤルティを支払うが、ユニクロとしても適正利益を出さなければならないため、素資材などの原価率を下げているような「代物」に見えてしまう。
ユニクロはレギュラー商品の方がはるかにクオリティは高い。これではせっかくのクリエーションが生かせないし、ブランドとしても根付いていかない。
また、売場づくりやVMDについても、ユニクロの店舗では、ジル・サンダーの世界観を表現できるとまでにはいかなかった。 一応、+Jは昨年秋と今春に復活しているが、商品のクオリティも売場づくりも、従来のままである。
量販店、コンビニのDNAで仕掛ける限り、ゴルチェPBも同じ轍を踏むのではないかということである。これでは往年のゴルチェファンの期待を裏切り、新しいファンを獲得するとまでには行かないと思う。
ユニクロとセブン&アイでは、衣料品製造のキャパが違う。生産ロットはユニクロの比ではないだろうから、なおさら効率を追及するとファッションとしてはどうなのか。
+Jという先例があるだけにシステム頼みのPBは、非常に難しいケースになるのではないか。旬のゴルチェを知る人間としては、心配は尽きない。