HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

広域集客が絵空事になりつつある商業施設。

2013-08-27 19:38:38 | Weblog
 ここ2日ほどは大雨のせいで、猛暑が静まって過ごしやすい。それと連動するわけではないだろうが、ブランドによって黒やグレー、カーキなどのアイテムが動き出している。素材はコットンで、端境期対応がうまいアパレルの商品は、順調な滑り出しのようだ。

 ところで、商品と並んで動くのが商業施設のテナントである。新ブランドが店舗展開を始めると、いち早くリーシングされるものもあれば、定期借家法をたてに追い出されたり、売上げ不振で自ら退店していくショップも少なくない。

 福岡天神では、ソラリアプラザが改装計画第1弾と銘打って、ケービーエフ、リベット&サージ、リベット&サージなどをリーシングし、この秋冬商戦を戦おうとしている。

 ただ、すでに多少のブランド入れ替えを図っても、大して市場を刺激するまでにはいかないようだ。特に開発に相当のコストをかけている商業施設は、新規テナントにとってもかなりの初期投資が必要だから、そう易々と出店はできない。

 逆に販売力や顧客をもつブランドは、出店については一等地で商業施設の格で選ぶことができる。だから、デベロッパーの安易なリーシングなんかに乗らなくていいわけだ。結果として商業施設側が「九州初上陸」なんて冠をつけてブランドをかき集めたところで、特別に毛色の変わった商品でない限り、新たな市場を拓くとまではいかないのである。

 典型的な施設が3年前に鳴り物入りで誕生したJR博多シティではないだろうか。アミュプラザ博多、博多阪急ともに初年度が好調だったのは、開業景気や新しいもの好きを集めたことに尽きる。ところが、13年3月期の売上げはアミュプラザ博多が342億4100万円、前期比で2.1%減少した(博多阪急は非公開)。2年目にしてもう客離れを招いたのである。

 この施設は駅ビルで、メーンターゲットは駅利用客。JR九州の唐池社長は開業時に「アジア全域から集客できる」と広域集客の可能性について豪語したが、それは開業景気と外国人旅行客があればこそ言えること。物販面でそれほど広域集客の力が発揮できるわけがないのは、最初からわかりきっている。

 リーシングされるブランド側の論理から言っても、福岡の一等地は天神なのだからそれを差し置いて博多駅出店とは考えにくい。結果として、ファッションテナントの多くがどこでもあるようなテイストで、2年目には「近場で買えば良いか」とお客の購買心理にも影響したのだ。

 ところで、先日贔屓にしている「Y-3」からDMが届いた。秋冬ラインナップの告知かと思いきや、既存店の閉店と新規オープンの案内だった。このブランドは福岡にショップがないため、商品を購入する時は、東京・青山の旗艦店を出張に合わせて訪れるか、ネットでチェックしてスタッフに詳細を確認し、通販してもらっていた。

 九州では唯一、小倉の百貨店、井筒屋に店舗を構えていた。そこが閉店し、福岡に新規オープンするというのだ。ならば、伊勢丹グループの百貨店、岩田屋が順当なところだが、そうではなく完全な路面展開。しかも、当事務所から歩いて5分程度の大名のストリートなのだ。

 すぐ近くにはメーンストリートの天神西通りがあり、アディダスのコンセプトショップをはじめ、ザラやアバクロ、ディーゼルなどのグローバルブランドが軒を並べる。恐らく新しいY-3福岡店は初期投資やランニングコストの低減はもちろんだが、マニアックなファン客御用達だからメーン通りから外れても集客できると踏んだのだろう。

 百貨店以外の展開は、アイテム仕入れを行っている地方専門店を除き、福岡が初めてだと思われる。筆者のようにDC世代でワイズの流れ組むモード感が好きなお客にとっては、地元にあれば直接商品を見て、試着もできるから、願ったりだ。

 しかし、そうしたマニアックな客層は、昨今のトラッド&アメカジ系譜の全盛時代には、稀少だろう。おそらく天神にやってくるフリー客を捉えるまでもなく、コアなファン客のみでどこまで売上げを伸ばせるか。チャレンジで実験的な部分は否めないと思う。

 まあ、売上げが芳しくなければ、岩田屋が引き受けるかもしれないが、天神ではヨウジヤマモト、ワイズともにメンズは撤退しているので、Y-3も同じ轍を踏まないとは限らない。とはいえ、ファンとしては少しは売上げに貢献できるだろうから、何とか頑張ってほしいものである。

 ところで、もし博多阪急がY-3をリーシングしていたら、個人的に買いに出かけることは間違いない。同店がオープンする前に広報に問い合わせたが、ブランドリストには入っていなかった。これは博多阪急のコンセプトに合致になかったこともあるが、やはりブランド側が「博多駅よりは天神に商業施設に出す」という格を選んだことに他ならない。

 Y-3は製造卸こそアディダスジャパンが担っているが、ブランドロイヤリティの維持にはヨウジヤマモトの意向が重視されている。同社は一度経営破綻したとは言え、決してブランド力が揺らぐものではない。だからこそ、一等地である天神地区を選択したわけだ。

 仮に博多阪急がY-3を導入したとしても、筆者のようなコアなファンしか購入しないのだから、大した売上げにはならないだろう。それは井筒屋を撤退したことが裏付ける。

 ただ、アミュプラザ博多を含めたJR博多シティは、リーシングしたテナントが九州初、福岡初=広域商圏を狙っている割に肝心な足下商圏すら深耕できず、お客の天神への回帰が進んでいる状況だ。

 当初に出店したブランドの多くが天神とのバッティング覚悟で出店したのだろうが、館全体がどれも似たり寄ったりのテイストや業態ばかりでは、いずれ需要が減退していくのは眼に見えている。すでにオープン3年目の契約更新時期に入り、退店をするテナントもあるようだ。

 その穴埋めに南側の商業施設「デイトス」から、地場の好調専門店などをリロケートさせる案もあるというから、唐池社長が宣った「アジア全域から集客できる駅ビル」も、3年にしてもはや空しい響きにしか聞こえない。

 もっとも、駅ビルがもうこれ以上伸びようがないファッションや服飾のテナントを入れ替えたところで、広域商圏の開拓も足下商圏の深耕もできないのは言うまでもない。ハウスカードのポイント還元しか販促策がない中で、「確実にお客が買い物するテナントとは」の科学的かつデータに基づく検証を行うことが先決ではないのか。

 商業施設は広域集客なんてものが絵空事になりつつあることを真剣に考える時期に来ていると思う。
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