HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ビジネス学科が服作りをしてもいい。

2012-02-22 17:50:12 | Weblog
 先日、あるファッション専門学校のマネージャーと話す機会があった。卒業制作やイベントが一段落すれば、来期のカリキュラム編成に入らなければならない。ファッション業界への若者の興味が薄れつつあることで、入学者をドロップアウトさせないためにも、授業の内容決めには慎重になっているようだ。
 ある学校ではコース名を「ファッションディレクター」や「ショッププランニング」に変え、名前のカッコ良さで学生の関心を惹こうとしたが、結局、徒労に終わった。別の学校はなるべく間口を広げ、クロージングから雑貨まで幅広く勉強できるようにしているが、こちらも奏功しているとは言い難い。

 そんな中、某校のマネージャーはビジネス学科の学生にも「アイテム制作にタッチさせたい」と切り出した。何とか、授業に興味を持たせる一心からだ。元来、ビジネス学科は販売スタッフやバイヤーを志望する学生が対象で、服を作る授業やそのためのノウハウ習得はほとんど行なわない。
 学生はスタイル画を描いたり、パターンをひく技術を学んでないし、既成服地の反物や芯地などほとんど見たこともないだろう。地方ではデザイン学科の学生ですら、街の生地屋レベルで素材を手に入れているわけだから、リアルクローズ足るものを作るのは難しいと考える方が正論かもしれない。

 ならば、逆に本格的にやればいいと、筆者は助言した。 昨今、リアルなアパレル現場だって、MDとデザインを自社で行うだけで、仕様決めからは外部委託しているのだから、学生にできないはずはない。
 コレクション情報を参考に、作りたいアイテムの簡単なスケッチを書く。生地問屋などから用尺分の素資材を買い、パターンは専門家に任せ、トワル作成、縫製はサンプルメーカーに頼む。
 縫製仕様書の作成はアパレル業界人がサポートし、仮縫いは自ら試着してチェックする。学生だから時間は十分あるし、一般旅行と大差ない海外研修に大枚をはたくくらいなら、その資金を回せばいい。学校側も新たな学生獲得の上でメリットがあるかもしれない。
 
 学生はセレクトショップのODM商品をオリジナルデザインと思い込み、平気で購入している。さらにデザイナーが手作りしたものをそのまま展示会で売っているなんて、無知な学生も少なくない。そんな誤解が解けるわけだ。 背景にある理屈を勉強するのは、決して無意味なことではないと思う。
 学生も自分オリジナルを着ることができるし、デザイン学科の学生とは違った意味で作品が残せる。出来上がりを写真撮影して、雑誌制作に踏み込めばプレスの勉強にもなる。 ただ、ビジネス学科なら「原価計算をきちんとやって、売価設定の仕組みを理解させることも重要」と付け加えた。

 生地やボタン、型紙、サンプル工賃などの原価を計算して、それにデザイン料や営業経費などを乗せて卸価格を割り出す。また小売りの値入れや荒利益についても考えるために、商品の販売価格を想定する。当然、量産を視野に入れ、 型紙制作費や営業経費を按分して、どこまで単価が下がるかにも目を向ける。
 学生は儲けようとか、ヒットさせようとかの目的はないだろうから、冷静にコストや価格に向き合える。「へえ~、服って意外に材料費は安いんだ」「中間にいろんな行程があるから、最終的にこんな値段になるんだ」が理解できれば、授業としての収穫は多いと思う。
 
 業界では荒利益をかさ上げするためにむやみに原価率を下げたり、無節操な値入れでべらぼうな売価を設定したりと、悪習がまかり通っている。学生時代に服作りのフローと価格の仕組みを学ぶことは、昨今のアパレルと小売りが見失ってしまった「共存共栄のために必要なこと」を考えるきっかけにもなる。これは決して理想ではないと思うのだが。
コメント
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